プロローグ
未来日記とは日記に記載された通りに現実が進行していく魔法のアイテムである。『恋愛未来日記』とはその恋愛版である。これからお話する物語は陰キャのモブが遭遇した未来日記にまつわる恋愛ミステリーである。
ボクの名前は橋本龍之介。高校二年生の陰キャのモブである。いやぁ、完全に名前負けとしか言いようがない。ボクの通う高校は家から片道一時間くらいのところにある。
なんで、そんな遠い高校を選んだかって?
はあぁ、もうあんた人が悪いね。
決まってんじゃん。
変えたかったんだよ。
自分を⋯⋯。
だから、知り合いがいない高校を選んだんだ。
だけど、何も変わらなかった。
陰キャのモブはどこへ行っても陰キャのモブ。
知り合いがいないから状況は中学よりも悪化した。
ボッチ。
ボッチほど学生生活で惨めなものはない。
そんなボクにも癒しの時間があった。半日授業の日の昼食と平日の夕食に高校の近くにある定食屋。ボクはここの常連だ。最近では座っただけで日替わり定食が出てくる。陰キャに優しい定食屋だ。でも、本当にボクの癒しになっているのはここのバイトさん。金髪なんだけどスッピンなんだ。美人さんではないけど⋯⋯。まあ、ボクの好みなんかどうでもいい。挨拶程度の会話しかないけどボクにはそれがいいんだ。
一学期の終業式の日、ボクはいつもの定食屋で昼食をとる。まあ、学食もやってるんだけどボクにはいつもの定食屋なんだ。店に入るなりボクは舌打ちをする。なんだ、オバチャンかよ。ボクはいつものテーブルにカバンを置き、オバチャンに日替わり定食を注文をした。とりあえずトイレ、トイレ。そう思いながらカバンからスマホを取り出しトイレに向かった。トイレから帰ってくるといつものお姉さんが店に出ていた。
クソ!
早すぎた。
ボクはそそくさと日替わり定食を食べて会計をする。
「いつも、ありがとう。明日から夏休みでしょ。しばらく会えないね」
明日から夏休み?
なんで知っているんだろ。
まあ、他の学生から聞いているだろうな。
ボクはニコリと笑って店を出ていった。
夏休み初日、ボクは呆然としていた。ボクのカバンの中に見知らぬ日記帳らしきものがあったのだ。どこで混入されたのだろう。古ぼけた日記帳にはかすれた文字でDiaryと書いてある。
日記だろ、日記。
ボクだったら読まれたくないよな⋯⋯。
でも、仕方ない。
ボクは意を決して日記帳のページをめくる。
白紙。
白紙。
白紙⋯⋯。
なんだよ。
全部白紙じゃねえか!
ビビらせやがって。
ボクはその日記帳を机の本立てに置いた。
ボクには苦手な女生徒がいる。いや、そもそも陰キャのボクにはほとんどの女生徒が苦手なのだが、一年の時から同じクラスの南ことみ。みんなからは委員長と呼ばれている。委員長はボクの出身中学校の隣の中学校の出身らしい。せっかく知り合いのいない高校を選んだのに⋯⋯。できれば委員長とは絡みたくないのだが、ことあるごとに委員長はボクに突っかかってくる。勘弁してほしい。
ボクが住んでいる街にも夏祭りはある。ボクは当然、そんなところには行かない。そんなところに行ってボッチになったら目もあてられない。ボクはいつも隣街の夏祭りに行っている。
そう、隣街だったらボッチで当然なのだ。
ボクが間違っていた⋯⋯。
その年の夏祭りのこと。隣街の夏祭り。
なんで警戒しなかったんだろう。
暗がりで酒とタバコを嗜む男女数人の姿があった。陰キャにとってはこういう人種は天敵なのでボクは見ないふりをして立ち去ろうとした。
「おい、お前ハシモトだろ!」
聞き覚えのある女の声にボクは思わず振り返ってしまった。
えっ!
そこに立っていたのは委員長こと南ことみだった。
「お前、このことバラしたら⋯⋯。わかってんだろ。よし、出せ!」
委員長はボクにそう言ってスマホを差し出す。
最近のカツアゲって電子マネーなの?
ボクは挙動不審に委員長にサイフを差し出す。
「バカか⋯⋯。スマホだよ。ラインやってんだろ。スマホ出せよ」
ボクが仕方なくスマホを出すと委員長はボクのラインに友達登録をする。
怖いよ⋯⋯。
「あたしは逆高校デビューなんだ。あたしにも高校での立場があるんだよ。黙ってろよ。お前なんかより高校ではあたしの信用度のほうが上なんだぞ!」
知ってます。
スクールカースト最上位の委員長こと南ことみ様。
終わったよ。
ボクの平穏な高校生活⋯⋯。
てか、逆高校デビューって、何?