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安楽椅子ニート 番外編10

「昨日の選挙、見たか?」

「あ、え?すいません、見てないです。」

「お前、そういう所だよ?行政のトップが変わるんだからさぁ関心持たないと。」

「すいません。」

「お前、ちゃんと選挙行ったの?」

「そりゃ行きましたよ。投票くらいは。まあ、でも、」

「なんだよ?」

「僕、そんなに興味がないんで、市長が誰に変わってもあんまり関心ないんですよね。こんな事言うとはばかられるんで大きな声じゃ言えないですけど。」

「ま、そりゃあ、そうだろ?県政レベルならトップが変われば大きく変わるけど、市政だからなぁ。」

「木崎さんはどうなんですか?」

「俺?・・・実はさ、候補者の一人、俺の親戚でさぁ。」

「え?ホントですか?」

「若い奴いたろ?」

「・・・いましたっけ?」

「川島、お前、本当に興味ないんだなぁ。惚れ惚れするよ。まじで。」

「すみません。ほんと、すみません。」

「俺の従兄弟、落ちたんだけどな。」

「落ちたんですか、良かったぁ。」

「川島、お前ぇ、良かったってどういう事だよ?いくら疎遠の従兄弟でも聞き捨てならない事もあるぜ?おい!」

「ああ?え?すいません、この場合、何て言ったらいいもんなのか?木崎さんの従兄弟の方が市長になってたら、何処で会うか分からないし、変に気を遣うのも嫌なんで、そういう意味で良かった、って意味で。選挙に落選したのが良かったって意味じゃないんです。誤解がないようにお願いします。」

「お前、正直だなぁ。正直でいいよ、惚れ惚れするよ。川島のそういうドライな所、わりと嫌いじゃない。」

「ありがとうございます。」

「褒めてねぇよ、ばかやろう。」

「あ、すいません。」

「川島、お前、選挙コンサルタントって知ってる?」

「・・・なんですか?コンサルタント?」

「コンサルタント位は知ってるだろう?」

「ええ。まあ。選挙にコンサルタントがいるんですか?」

「ああ。いるらしいぞ。従兄弟の母ちゃんに聞いたから。」

「ああ。ご親類の。」

「選挙コンサルタントは今や選挙の常識で、当選請負人と呼ばれているらしい。選挙に勝ちたきゃ選挙コンサルを入れるしかないってな。」

「・・・いやぁ僕、選挙とか政治にほんと疎いもんで、まったく分かりません。今後もそういう方とお付き合いする事もないでしょうし。」

「普通は知らないわな。俺だって知らなかったし。政治家になろうっていう奴以外は関係ない話だからな。」

「そうですね。僕の知り合いで政治家、いないですもん。」

「だいたい農家の爺さんだったり、地主の爺さんだったり、校長先生やめた爺さんだったり、警察官やめた爺さんだったり、」

「爺さんばっかりじゃないですか!」

「爺さんばっかりだよ。お前、なんだと思ってるの?」

「いや何も思ってませんけど。テレビなんかで見る政治家の人ってみんな若いじゃないですか?小泉とか、あと、野党の人とか、」

「ああ。ああいうの二世、三世だからな。有力政治家の息子、娘だよ。家族で政治家やってる家だよな。」

「後継ぎですかぁ。どんな仕事でも親の後を継ぐって気苦労が多そうで、嫌ですねぇ。僕はそんなんじゃなくて本当に良かったですよ。」

「お前は嫌な事ばっかりだな。不平不満しかないのか?」

「あの、僕はなるべく平穏無事に生きていきたいだけなので。波風立つような人と関わり合いたくないんですよ。」

「政治家なんて波風立てる仕事だもんな。自分から立てる訳だし。」

「そういうの僕、気が知れないんですよ。」

「俺も分かんないけどな、そういう人の心理は。だけど、なりたくてなれる商売でもないからな、政治家は。要は金がなきゃ政治家になれない訳よ。」

「お金ですか?」

「そうだろ?だいたい名家の爺さんが、金の使い道がないから、暇に持て余して立候補するんだから。」

「ほんとですか?それ。」

「だいたいな。二代目、三代目はほら、政治家一家だから金持ってるだろ?・・・暇と金のある奴しか政治家なんてなろうとは思わない訳よ。・・・普通は。」

「普通は?」

「中には俺の従兄弟みたいに、気が狂って何も関係ないのに政治家、目指しちゃう奴もいるんだよ。」

「大したもんじゃないですか、立身出世!クラーク博士!素晴らしいじゃないですか!」

「・・・落ちちゃったけどな。」

「ああ。そうでした。落ちちゃったんでしたっけ。」

「中学校、高校で、生徒会長とかやっちゃったのが良くなかったんだよ。あれで勘違いしちゃったんだよなぁ。俺は政治に向いているとか、向いてねぇっての。」

「ああ、でも、生徒会やってる人って、そういう願望がある人達なんじゃないんですかね?」

「願望だけならな。川島、お前、市をよくしたいって思うか?」

「思いません。」

「だろう?俺も思わないよ。思っちゃう奴が立候補するんだろうけど、現実、難しいからな。学校の人気投票とは違うんだよ?誰も知らない人間に一票、入れてくれないよ?」

「・・・確かに。誰だコイツって奴には、流石の僕も入れませんからね。」

「市長なんか目指さないで地道に市議会議員を続けときゃ良かったんだよ。」

「市議会議員さんだったんですか?」

「お前、それも知らないの?大概にしろよ、まったくよ。」

「いやぁ、立候補者の経歴、見てないんで。申し訳ない限りです。」

「2期、2期やって市長目指して、ドボンして、今は只の人だからなぁ。俺も従兄弟だからってそんなに付き合いがある訳じゃないからさ。俺にしちゃあ、そんなに深刻な話じゃないのよ。深刻なのは親だよ。親同士、兄弟だから、大変だよ。その話で。」

「ああ。」

「親族会議だよ、親族会議。しばらくは実家に帰りたくねぇなぁ。」

「大変ですね。」

「ばかやろう、大変だよ。それでよぉ、川島。」

「はい。」

「今度受かった市長。瀬能さんのテコ入れらしいんだよ。」

「え?」

「裏で瀬能さんがテコ入れした、らしいんだ。」

「瀬能さん、政治家の人とパイプがあるんですか?」

「そこは知らないんだけど、いやさ、瀬能さん家に行った時、選挙の話になってさ。今と同じ話をしたんだよ。俺の従兄弟が市長選に出馬するから、良かったら票を入れてくれって。何気にお願いしたの。他意はないよ。俺はそんなに選挙活動を応援している方じゃないから。ただ、話の流れで従兄弟が出馬するって話をしたんだ。」

「ええ。」

「うちの従兄弟に選挙コンサルが入っているって話したら、腹を立てはじめてな。瀬能さんが。」

「どうしてです?」

「選挙コンサルが嫌いらしい。あのぉ選挙コンサルが全部嫌いじゃなくて、俺の従兄弟が雇っている選挙コンサルが気に入らないんだってよ。」

「・・・はぁ。」

「コンビニかどっかで見たんじゃねぇか?瀬能さんが行く所なんてたかが知れてるだろ?よっぽど腹の虫に据えかねる事があったらしくって、その選挙コンサルの立候補者を落選させるって言うんだ。つまり、俺の従兄弟な。」

「そんな事が出来るんですか?」

「実際、俺の従兄弟、落ちちゃってるじゃん。ブラックホースな爺さんが当選しちゃったじゃん。あれ、誰だよ?みんな知らないよ。」

「ブラックホースじゃなくて、ダークホースですよ?」

「知ってて間違えたの!無名の爺さんを勝たせちゃったの!」

「瀬能さん、恐ろしいですね。何にしてもコンサルタントに勝ったんでしょう?どんな魔法を使ったんでしょうね?」

「そこなんだよ。そこ。選挙コンサルって言ったら、選挙のプロだよ?選挙で飯、食ってんだから。立候補者を受からせて、報酬もらっているんだから、受からせてナンボ。受からせて当然な仕事な訳じゃん?そいつらを出し抜いた訳だぜ?ほんとあの人は底が知れないわ。」

「選挙コンサルタントって報酬制なんですか?」

「バカ、ちがうんだよ、それが。コンサルタントってだいたいどこも報酬制だろ?利益の何%をリターンでもらうのが筋だろ?あいつ等、半分グレーだな?」

「グレー?」

「半分、犯罪なんじゃないかって事だよ。たぶん合法な事してると思うんだけど、合法なのか非合法なのか分からねぇグレーゾーンで商売してる感がある。ま、全部、瀬能さんの受け売りだけどな。」

「それもですか?」

「俺が選挙コンサルの事なんか知る訳ないじゃん。全部、瀬能さんの受け売り。聞いて驚いたけどな。」

「そんな驚くようなもんなんですか?」

「あいつ等、勝っても負けても片手くらい持っていくらしいぞ。」

「片手?」

「・・・川島、お前、察しが悪ぃなぁ、金だよ、金。」

「ああ、百万。」

「バッカ、一千万だよ。一つの指が一千万。片手で幾ら持っていくと思ってんだよ?」

「えっ?ホントですか?うっわ、えげつないですね!」

「えげつないだろ?俺もコンサルタントやろうかなぁ。適当な事言って、一千万、貰いたいよなぁ。」

「木崎さん、語弊がありますよ?」

「ねぇよ。コンサルなんて詐欺だろ?アレ。詐欺も同然。訴えたら勝てるだろ?」

「うっわ。僕、何も言ってませんし聞いてませんからね。」

「詐欺まがいな事して、選挙で受からせる訳なんだから、政治家ってなっちゃえば相当、儲かるんだろうなぁ。だってそうだろ、その大枚はたいたって政治家になりたいんだから。うま味がなきゃ政治家なんてやろうと思わないだろ?」

「いや、そこは何か、志を持って、政治家を目指してらっしゃる方もいるでしょう?きっと。」

「そんな奴はいやしねぇよ、みんな、金金金金金。金ばっか。」

「夢も希望もない話はやめましょうよ?」

「お前、夢とか希望とか言ってるけど、選挙の演説で、都合がいい、希望あふれる事、言ってるじゃん?あれ、一字一句、選挙コンサルが考えたスピーチ原稿をそのまま読んでるだけだからな。夢とか希望に踊らされているのは、むしろお前の方だぞ?」

「ええ?」

「スピーチライターがいるの。お前、一回、選挙の演説、聞いてみ?当た~り障~りの無い、嘘じゃないけど、本当でもない、曖昧な言葉を羅列してるだけだぞ。公約を言っても、だいたい公約を守る奴なんていないからな?」

「いるでしょう?そこは。」

「そのぉなにぃ?目玉の政策は別だけどさ、おおよそ公約なんて守られないし。任期が終わっちゃったって言えば、済む話だからな。耳なじみの良い、公約をいっぱい謳っておけば、バカな一般市民が騙されて一票入れてくれるからな。チョロいもんだぜ。」

「いやいやいや。それは無いでしょう?」

「政策、公約はもちろんブレーンがいるの。ブレーンが。票を入れてもらいやすいキーワードをチョイスして、言っているだけ。キーワードをセリフ風にまとめるのが、スピーチライターの仕事だから。みんな役回りが決まってんだよ。」

「政策までブレーンが決めてたら、政治家は何をするんですか?政策を考えるのが政治家でしょ?」

「お前、頭、固いな。カッタカタだな。政治家なんてお飾りだよ。お飾り。人形と一緒。そこに座っていればいいの。そこに座っているのが仕事で、そこにいる事が重要なの。」

「えええ?」

「政策なんて周りの人間が考えるんだから。自分は何も考えなくていいの。本人がそこにいる事が重要であって、下手したら、議論している意味を理解していない政治家だって多いって話だ。俺達は人形に票を入れているの。わかった?」

「怖いです。本当に怖いです。木崎さん、何か政治家に恨みがあるんですか?」

「ねぇよ。あったら怖いわ。客観的に見てそう思ってるだけ。・・・まぁ、無関心が一番の悪だけどな?」

「ああ。言わんとしている事は分かります。遠くから攻撃されている気分です。」

「お前の事じゃねぇよ。世間一般の話だよ。世間一般っていうか、世界だよな。本当は政治に関心持たないとダメだよなぁ。」

「ええ。そうですけど。」

「ま、実際、何も考えてなくても社会は回っているからな。誰も何も困らないし。この国は本当にいい国だよな。」

「ちょちょちょちょちょちょ、ちょっと待って下さい!そんな事、言っちゃって大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃねぇよ。さっきから言ってるだろ。ゆとりとか平和とか言っちゃってるけど、自覚がないまま社会が勝手に動いているっていうのが、薄気味悪いんだよ。今回の市長選だってそうだ。頭の良い奴がバックに立って、選挙をコントロールしてるんだ。」

「・・・ちょっと怖くなってきましたけれども。」

「本来の選挙ってそうじゃないだろ?情熱とかパッションとか、同じ人気投票でも、頑張っている人はいたよ?ドブ板なんてもう流行遅れかも知れないけど、町の行事に参加して顔、売って、うるさいけど選挙カーで演説して回ってたじゃん?嘘でもそういう人に一票、入れてあげようかって気持ちにもなったりするじゃん?入れないけど。実際、入れないけど。今、そういうの無いもんな。」

「そう言えばあまり聞きませんね。やってないんじゃないですか?」

「やってんだよ。ただし、人が集まる場所、人が集まる時間を絞ってやってんの。所構わずやらないの。お前、繁華街に行かなさそうだもんな?」

「行かないですね。なるべく避けて通ります。」

「川島、たまには風俗とか行った方がいいぞ?意外にああいうお姉ちゃん、意識が高かったりするんだよなぁ?」

「へぇ。」

「色んな客が来るからな。客に話、合わせられないと指名もらえないだろうし。」

「テレビで見た事あります。医者、弁護士、教職員、政治家の先生、普段の生活だと偉そうにしている人が通ってくるとか。」

「偉い奴はストレス溜まるから、抜いてもらわないと息が詰まるんだろ?・・・ストレスをな。ついでに違うもんも抜くんだろうけど。」

「分からないでもないですけど。」

「あいつ等、年齢、性別の人口比、学歴、職歴みたいなデータも持ってるからな。」

「木崎さん、当然みたいに言ってますけど、どうやってその情報を手に入れるんですか?まずいでしょ?そういう情報持ってちゃ?」

「・・・お前、バカなの?」

「ええ?」

「市報、読んでないの?市民なのに?・・・書いてあるよ、普通に。あと、省庁がなんとか白書とか出してるよ?国勢調査、書いた事ない?」

「・・・調査?白書?」

「流石に職業やら学歴やらは国の調査じゃ分からないけれども、売っんだよ、名簿が。それ見ればだいたい、どんな職業の人が多いとか、最終学歴がどこ大どこ高とか分かるだろ?」

「違法ですよね?」

「たまたま買った本が名簿だったってだけの話だ。持ってるだけじゃ罪にはならないからなぁ。・・・ちなみに、瀬能さんの話だと最近は、装丁している名簿ではなく、データそのもので売っているらしい。たまたま買ったUSBに何かしら文字が羅列したデータが入っていただけらしい。USBを持っているだけじゃ罪にならないのは名簿と一緒だ。」

「犯罪じゃないですか!」

「だから犯罪じゃないって言ってんだろ!・・・限りなく黒に近いけど、真っ黒ではない。」

「そんなのが世の中、横行しているんですか?」

「残念ながら、そうだ。大切なのはここからで、そのデータを使って、票を一番持っている層に向けた、公約を打つんだ。的確だろ?なるべ~く、ストライクゾーンは狭く。ストライクゾーンさえ打ち抜けば票が入る、そして選挙に勝てる!そういう寸法だ。」

「僕はこの先、平穏無事に生きていける自信が持てなくなりましたよ。」

「川島、お前みたいな奴ばっかりだから日本が平和なんだよ。・・・良い事だよ?」

「褒められていない事は分かります。」

「少しは政治に関心持たないと、ある日、突然、徴兵制が敷かれる場合だってあるんだぜ?そうなったらお前、嫌でも敵地、最前線に送り込まれて戦死だよ?」

「ま、ま、ま、ま、分からなくはないですけど。そういうの近代史で勉強したくちですから。」

「だいたい選挙っていうのは、選挙する前から勝負は付いてるの。」

「・・・どういう事ですか?」

「さっきも話したけど、大番狂わせが無い限り、地元の有力者が勝つようになってるの。だから、立候補しただけ無駄なの。」

「元も子もない話みたいに聞こえますが。」

「二世、三世、もしくは地盤を引き継いだ候補が勝つ様になってるの。仕組みとかじゃなくて、土地の空気。お前だって言われた事ない?親から、あの人に入れてくれとか。そういう奴。ずぅぅぅっとその先生に一票入れてきたから次も同じ先生に入れるっていう風習、田舎に行けば行くほど強いんだ。何も考えずに一票入れちゃうから、勝負する前から決まってるの。ただし。」

「ただし?」

「ただし、幾ら地元の有力者の政治家だからって何時かは世代交代しなくちゃならない時が来る。息子、娘に引き継げればいいが、そうでなかったら、空白地帯になるんだ。政治の空白地帯。」

「空白地帯ですか?」

「そうだ。そうなったら、選挙の行方が分からなくなる。そんな時の為に、落ちてもいいから顔を売る為に、選挙に出続けるっていう方法もある。市長、知事みたいに一人しかなれない役職は別にして、議会議員ならそこそこ席があるから、とりあえず議会議員で顔と名前を売っておけば、市長選への足掛かりになるからな。」

「はあ、考えますね。」

「お前、議会議員なんて、500票も入れば末席に入れるくらいの世界だぞ?とりあえず議会議員になって顔を売って経験を積んでおけば、チャンスが転がり込む場合もある。今回の市長選がそれだしな。」

「木崎さんの従兄弟さんが落ちた、昨日の、選挙。」

「落ちたんだよ。選挙コンサル使って落ちたんだよ。従兄弟、駅前で演説を打ったらしいんだ。駅前で演説するって最高だろ?繁華街で、駅を使う人間が嫌でも見るから。すっげぇ人が集まったって叔母さんから聞いたんだよ。そしたら、半分、サクラだとよ?」

「・・・サクラ?あの、サクラ。」

「エキストラだよ、エキストラ。演説で人がいなかったら絵にならないからエキストラを発注して、人だかりが出来ている様に演出したの。それが効果てき面で、人が人を呼ぶってそういう事らしくって、人の山が2倍3倍に膨れたそうだ。凄いよな、選挙コンサルは。」

「・・・集まった人は何を目的に集まったんですか?演説を聞く為に、ですか?」

「バカ、そんな事ある訳ねぇだろ?人だかりが出来てるから足を止めただけだ。誰かが車の上で演説してるな、くらいなもんだよ。」

「じゃあ意味がないじゃないですか?」

「足を止めた人間が、SNSなんかに投稿すれば、自然に見てくれるだろ?広告費を出さないで宣伝してくれるんだ、一石二鳥、サントリー!そんな事、考えなくても、サクラの人につぶやく指示は出てるがな。」

「何一つ、正攻法がないじゃないですか!」

「そりゃそうだろう、選挙は戦争だ。キレイごとじゃ勝てない世界らしいからな。叔母さんの話だと。

昔の政治家なんて、選挙の時、事務所に行くと、昼飯のおにぎりが置いてあって、好きに食べて良かったんだそうだ。そりゃ選挙の応援は疲れるからな。でも、おかしいんだよ。おにぎりをみんな家に持って帰るんだよ。そこで食べればいいのに。知らないでそのおにぎりを食べた人がいて、驚いた。おにぎりの中から福沢諭吉先生が顔を出したんだ、と。」

「ば、ばい、ばいし」

「昔の選挙は、そういう逸話があったって聞く。たまたまアレじゃない?福沢先生が印刷してある日本銀行券がおにぎりを結んでいる時に、間違って混入しちゃったんじゃない?」

「・・・たまたまじゃ、仕方がない気もしますが、僕は関わり合いたくない気がします。」

「選挙は百鬼夜行だからな。そういう直線的な選挙をする人に、科学的、戦略的に、勝たせるのが選挙コンサルタント、なハズなんだけどな。今や選挙コンサルも昔の政治家もどっこいどっこいだ。選挙も飯のタネになる時代だよ。」

「・・・そうなんですね。」

「国政選挙と違って、無党派層、もともと政治に関心が無い奴は、市長選なんか行きやしない。選挙に行く奴は最初から政治に関心を持っている奴らだ。じゃあ、勝負の分かれ目は、川島、どこだと思う?」

「いいえ、まったく分かりません。」

「選挙に行くか、行かないか迷っている層だ、そうだ。確実に行く人、確実にいかない人は、決定済みなんで変えられない。いかに、選挙に行くか行かないか迷っている人間を取り込めるかが、勝負の分かれ目になるらしい。と、瀬能さんが言っていた。」

「あの人、神かなんかなんですか?どうしてそういう事を知っているんですか?そして、木崎さんもさも自分が言っている様に言えますね?」

「もちろん選挙コンサルもその層の取り込みを狙っているに違いない。何にせよダークホースの爺さんを勝たせたんだからな。」

「選挙行け!って言っても行かないでしょ?そういう人達は。」

「そこで、その爺さんに策を授けたらしい。」

「策を?」

「その、新しい市長になった爺さん、瀬能さんが見つけてきたらしいんだ。そこら辺はよく教えてくれなかったんだけど、都合がいい爺さんっていうか、市政の為に働いてくれそうな人材を発掘した、とかなんとか言ってたな。」

「はあ。」

「そういう、市政に興味のある爺さんだか婆さんを紹介してくれる人材バンクみたいのがあって、その人に頼むと、協力してくれる爺さん婆さんを紹介してくれるんだそうだ。どの爺さん婆さんも身寄りがないから、何か、生き甲斐が欲しい、そういう人を紹介してもらったから、瀬能さんが、是非、市長選に立候補してくれと、頼んだら、二つ返事で了解してくれたって言ってたな。ほとんど瀬能さんが手続きしたっぽいけど。あの人、何でもやるからな。」

「・・・何か聞いた事がある話で。・・・詐欺に加担している人がそんな仕事をしているっぽい事を、聞いた気がするんですけど、詳しくは分かりませんが。」

「ああ、そうなん?俺は、子供も大きくなって独立して、家に閉じこもっているばかりの人生だから、最後に市政県政に尽力したい、っていう話を聞いた事あるぞ?ほら、うちの市でも子供もいなくて財産があっても受け継いでくれる人もいないから、国に没収されるくらいなら、市に寄付するって、土地くれた人、いただろ?」

「ああ。元県議会議員の方ですよね?全財産、市に寄付してくれた稀有な方。寄付してくれた土地に公民館建てましたよね。その美談と瀬能さんの一件は明らかに、違うっていうか、瀬能さんの方も犯罪の臭いがしますけれども?」

「ちゃんとしてる爺さんだろ?市長になっちゃったんだから。」

「なる、なれるは別にして、身元はしっかりしているのかも知れませんが。」

「確かにな。瀬能さんの言う通りに動いたから、市長選に勝つ事ができた訳だし。」

「ほぼほぼ傀儡ですよね?」

「それは言い過ぎかも知れないけど、瀬能さんがその爺さんに言ったのは、余計な事はするな、だ。」

「ますます傀儡じゃないですか?ロボットじゃないですか?」

「それは意味があってだな、選挙コンサルが入っている候補者は、とにかく目立つ行動をする。人目についてナンボだ。同じ事をしていても勝てない。こちらサイドが行う事は、何も余計な事をしない事。慌てず、騒がず、地味に行動する事を約束させたらしい。」

「地味じゃ、選挙としては意味ないんじゃないですか?知名度もない候補者が地味に活動していたら死活問題じゃありませんか?」

「俺もそう思う。瀬能さんが爺さんにさせた事は、俺の従兄弟が演説をする後をつけて歩く事。」

「ん?・・・どういう?」

「従兄弟が演説すると、どこでも人山の黒だかりが出来ちまう。サクラを動員するからな。サクラが呼び水になって更に人が集まる。選挙コンサルは上手くやるよ。それを逆手に取る。爺さんは、その演説が終わって移動した後、そのまま演説した場所に残って、掃除をするらしいんだ。人が集まれば嫌でもゴミが落ちるからな。それを綺麗に掃除するんだそうだ。ちゃんとタスキをかけて。名前が分かるようにして。それを最終日まで行わせたそうだ。」

「美化活動は大事ですからね。選挙にも影響が出るでしょう。」

「瀬能さんの目的はそこじゃない。大勢の大衆にろくすっぽ中身のない演説をしている横で、爺さんが、そこに集まった群衆のゴミを拾っているんだ。従兄弟の応援者がSNSで拡散すればするほど、爺さんが写り込む確率が高くなる。

一方は若い男が、車の上から熱く演説を打ち上げている。一方は、その影で若い候補者に集まった応援者から出るゴミを一切の不満をたれる事なく、拾い続ける。

お前、どっちが好きだ?」

「ああ。そのぉ、お爺さんの方が、好感が持てます。」

「だろ?昔から日本人はお涙頂戴が好きなの。何もしてなくても従兄弟は、悪もんだ。絵面的に悪もんだろう?爺さんは、健気にゴミを拾い続ける。弱者を代弁しているかの様な演出だ。あの爺さんは誰だ?あの爺さんは人として当然の事をしている、あの若造に入れる位なら、爺さんに入れた方が良い、なんて話になればこっちのもんだ。」

「まあ。ええ。そうかも知れませんが、そんなにうまくいきますか?」

「ま、無理だろうな。」

「え?なんて?」

「だから無理って言ったんだよ。それは瀬能さんだって無理だと分かってやらせている。」

「無理って分かっててやらせていたんですか?」

「一票か二票くらいは票が入ればいい、って瀬能さんは言ってたけどな。この作戦は、そういう人情噺なもんじゃないんだよ。何かしら選挙活動してないと他の候補者から疑われるから、裏工作として、させてたらしい。」

「裏工作?・・・表だと思うんですけど?裏なんですか。」

「ああ。爺さんが選挙活動なんかしなくても、瀬能さんの人脈だけで当選させられるらしい。」

「・・・色々、危ない所に首を突っ込んでいるんじゃないでしょうね?瀬能さんは?」

「いや、まったくそういうんじゃない。土地の利を活かした選挙だそうだ。当落の分かれ目は、選挙に行くか行かないか迷っている層って言ったよな?その層に直接、コンタクトを取ったそうだ。」

「何を言っているんですか?頭、大丈夫ですか?瀬能さんも木崎さんも。」

「中学、高校時代の後輩を呼んで、あの爺さんに投票しろって命令した、らしい。」

「は?・・・は?」

「俺だって何を言っているか分からなかったから聞いたんだよ。いくら瀬能さんの後輩に言った所で、一票か二票だろ?そうじゃない、後輩の後輩、後輩の後輩、そのまた後輩の後輩ってどんどん後輩に命令させていったんだと。先輩の命令は絶対だからな。特に学生時代は。ねずみ算式にあれよ、あれよと、票が集まり爺さんは当選しちまったんだと、さ。

瀬能さんの人脈は得体が知らないけど、瀬能さんの命令は絶対って言う後輩連中、仲間連中がいるから、ほら、国際連合?国際連盟?とか言う」

「へぇ。組織力が違いますねぇ。たぶん国際連合じゃなくて、違う連合だと思うんですけど。ええっと。・・・その話を冷静に分析すれば、元々、選挙に行く気がなかった層をまるまる掘り起こした訳ですから、まとまった票が集まりますよね。おまけに、学生時代から続く、何らかの圧力が加われば、嫌でもその人の名前を書くでしょうし。

木崎さんの従兄弟さんは、勝ち目が無かったんでしょう。戦った相手が悪かった、としか。」

「そうなんだよ。俺もそう思ったね。」

「あの、」

「なんだよ?」

「瀬能さんはそこまでして、選挙コンサルタントを陥れたかったんですか?」

「うーん。あいつ等のやり方が気に入らないのは確からしいんだが、たまに選挙で回ってる時、人に押されて倒れちゃって怪我する人がいたらしいんだが、後から知ったのは、それもサクラだったらしいんだ。怪我人を救助する、とかいう演出。他にも、横断歩道を渡れない老人、就職困難で働けない若者。一番驚いたのは、わざと野次を言ってくる奴がいて、その野次を言う奴と従兄弟が、口論する場面があったんだ。その野次を言った奴も、サクラだったんだ。全部、演出。従兄弟が野次に対して、うまい事を言って、更に聴衆を煽るように仕組んだんだ。

自作自演もいいところだよな?

そういうのに腹が立ったらしい、ぞ?

選挙コンサルの奴らが、有権者をいいようにコントロールするのが気に入らなかったから、同じように、選挙を支配下に置いたんだ、ってよ。

瀬能さんからしてみれば、まだ賄賂を直接渡す方が、人間臭くて好きなんだろうな。ま、そこは俺の想像だけど。」

「好きも嫌いも公職選挙法違反ですけどね。・・・選挙コンサルタントって聞けば聞くほどグレーな組織なんでしょ?そういう奴等は逆恨みしますよ?ほどほどにしておかないと、危ない目に遭うと思うんですが、瀬能さんに忠告しておいた方が?」

「国際連合だか国際連盟が付いてるから、大丈夫だろう。」

「国際法が通用する相手なら、大丈夫でしょうけども。」

「市長になった爺さんも、いつまで続くか分かんねぇしな。突然、病気で引退する事もあるだろうし。」

「まだ、シナリオが続くんですか?」

「不慮の引退だと、副市長が後任になるんだっけ?誰が副市長になるんだろうなぁ?そういう手打ちがあってもおかしくはない、なんて瀬能さんは言ってたけどな。」

「ああ。なるほど。・・・落としどころが見つかって良かったですね?最初からそういう目論見だったんでしょうけども。」

「なあ、川島。俺、今回の選挙で思ったんだけどさ。」

「はい?」

「踊らされているのは、有権者なのか、それとも、候補者なのか?そこに民意が無い事だけは確かだ。」

「言えてます。」

「川島、お前みたいに政治に無関心な奴が、後々、自分の首を絞めるんだぞ?」

「うぅ」

「俺も人の事、言える義理じゃないけどな。」


※本作品は全編会話劇となっております。ご了承下さい。l

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