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第六話

「はあっ‥‥!はあっ‥‥!はあっ‥‥!」


今、私は森の中をただひたすらに走っている。それも私だけじゃないなくて三人一緒に走っている。距離はどのくらいは知ったのか、正直そんなことすら分からない中で必死に足を動かして走る。そんな中、男の人の声が聞こえた。


「よ~し、いい感じだぞ! あともう少しで十キロだ、頑張れ!」


そう言って応援するのは、私たちに校舎の周りにある森を十キロも走らせる張本人であり、私たち、獅子レオクラスの教師であるクロウ・ノウザード先生。

魔法騎士を育成する学院、オルソラ始まって以来の魔力Fランクの教師。今まで何をしていたのか、その経歴は学院の生徒である私、ミリアーデ・スターレットには知りようのないことだった。

ただ、いま言えることはただ一つ。クロウ先生は、鬼だという事だけだった。


「よし、よく頑張ったな。じゃあ自分の心臓の鼓動と血の巡りに意識を集中させて魔力を巡らせること。いいね?」


そう言うとクロウ先生はもはや立ち上がることもできず倒れ込んだ私から、他のみんなの様子を見る為に歩いて行ってしまい、一人だけ残された。


(今日で‥‥一週間‥‥)


魔力操作の練習。そう言って私たちは一週間の間、足場の悪い森の中を毎日走らされた。十キロもの距離を。

先生は、まるで空から見ているかのように少しでもサボっていれば声を掛けてくるので下手に気が抜けなくて。

結果、しっかりと走るしかなくなってしまい、今の私のように走り終えるとそのまま倒れ込んでしまう事が毎日起こっていた。

けれど、この一週間でなんの成果も得られていないかと言えば、それは違った。

(‥‥うん。昨日よりも上手く)


休まずに走った影響で、私の心臓は猛烈に動いている。そのお陰で普段は感じない血の流れを明確に感じ取れて。その血の流れに沿って魔力を流すと今までは集中してようやく魔力を流すことしかできなかったのに、今では以前ほどの集中せずに全身に魔力を流すことが出来るようになっていた。


(でも、まだまだだ)


全身に魔力を流すこと。これは魔法騎士になる上での初歩。同世代である他のクラスの子達はこんなこと当たり前に出来てしまう、それ程度までの基本技術。けれど今の私たちは必死に走って、その結果ようやく出来るようになった。その事に諦めろと囁くもう一人の自分心を奮い立たせることでねじ伏せ、思い浮かべるのは、私の中の英雄の背中。一度だけ、森で魔獣に襲われた私を助けるために、普段の穏やかな姿とは違った、勇猛な獅子のように剣を以て魔獣を打ち倒すおじいちゃん、グラン・スターレットの姿。その時、自分に誓った。あの背中に追い付きたいと。


(でも、私は才能がない。だから一人より何倍も頑張らないと、駄目なんだ!)


遥かなまでに遠い背中。でも、追い付きたい。子供ながらおじいちゃんはとんでもない強さだったのはこの肌で直に知っている。でも、追いかけたいから。諦めないためには頑張るしかない。


「‥‥よし!」


呼吸が落ち着いたことで、さっきみたいに簡単に魔力を全身に巡らせることは出来ない。けど、やり方は分かっているし、感覚も掴めてきた。なら、あとはそれをひたすら頑張るだけ。

そうしていると、近づいてくる足音があった。


「ん、よく頑張る」


「あ、シェン! どうしたの?」


そこにいたのは私と同じ獅子クラスのエルフの女の子。でもクロウ先生の前で私たちは出来なかった魔力制御を行って見せて「お前は合格だ」と言われた事で、今日も日当たりのいいところでお昼寝をしているはずだったんだけど…。


「近くで、ミリアの魔力を感じたから来た」


「あ、そうだったんだ。ごめんね、お昼寝の邪魔をしちゃった?」


「大丈夫、気にしないで」


そう言うとシェンは私のすぐ隣に腰を下ろすとすっと目を閉じる。ただそれだけだというのにエルフであるシェンの動きはただそれだけで絵になるようで。


「どうかした?」


「えあっ!な、なんでもない!」


つい、見とれちゃっていたなんて言える訳もなくて。私はそのまま立ち上がるとお昼を告げる鐘の音があたりに響くと同時に、私のお腹の鐘も元気になってしまった。


「お昼、一緒に食べる?」


「‥‥うん」


聞かれてしまった。そう思うと恥ずかしくて仕方なくて。でも空腹には抗えない私はシェンと一緒に学院の食堂へと向かうのだった。

魔法騎士を育成する学院、アルステラ本校舎にある学生食堂は私たちの教室がある校舎から片道で十分ほどかかる場所にある。けど魔法騎士を目指すからには体を作る食事はとても大切。だからこそ学食は生徒であれば全員が無料という破格に加えて、さらにメニューは毎日日替わりでパンにパスタ、肉、魚、野菜なんでもござれ。学食目当てで入学する子もいるといわれても私自身も納得するくらい充実していた。


「う~ん。今日は何にしようかな~。シェンは何にするの?」


「…今日は、パスタ」


「パスタか~! 私は‥‥きゃあっ!」


シェンと話しながら進んでいるとまるで何かが足に引っ掛かったかのような感触の後にバランスを崩したけれど、シェンが咄嗟に腕を掴んでくれたことで倒れる事はなかったけれど。お皿に取っていた料理をすべて床にばらまいてしまった。


「あ~あ。せっかく作ってくれたてのにもったいねえぁ!けどまあ獅子クラスのお前らには床に落ちたごはんがお似合いだろうけどなぁ!」


「‥‥トレアト」


私たちを笑っていたのは、今年私たち同じように学院に入学したトレアト・ヴェン・ダグゼ。クラスは四大クラスの一角である巨蟹(カンケル)

でも、自分の家を鼻にかける態度が嫌いで、私は関わりたくないと思っている男の子だった。


「シェン、ありがとう。ごめんね?」


「気にしてない。ミリアは?」


「私も大丈夫。でも、取り敢えず片付けないと」


取り敢えずトレアトを無視して、私は散らかしてしまった料理をしゃがんで片付け始める。


「おいおい、落ちこぼれが俺の事を無視するのかよ?」


「うるさい」


そう言いながら、片付ける私の前にトレアトと取り巻き達が立つのがわかったけど。私はそれを無視して片付けているとシェンがそう言うと同時に魔力の波動が食堂全体へと広がり。顔を上げるとそこには氷のように冷たい表情でトレアトを見るシェンの姿で。


「お、お前‥‥、この魔力…!?」


「邪魔。これ以上邪魔をするなら」


シェンの魔力に当てられてトレアトと取り巻きたちは一歩下がるが、シェンの魔力が更に高まりを感じて止めようとした時だった。


「こらこら、学食はみんなが楽しく食事をする憩いの場だぞ?」


まるで、突然そこに現れたかのようにシェンの頭にポンと手を置いたのは…。


「クロウ先生!?」


「おう。午前中の授業お疲れ様、よく頑張ったな」


そう言いながらシェンの頭を撫でる先生の手によって、シェンの放出された魔力を抑え込んでいる・‥‥ように私には見えた。


「さて、取り敢えず君たちも席に戻ってご飯を食べたらどう? せっかくの料理が覚めてしまうよ?」


「は、はい‥‥」


まるで、ついさっきまでとは違いあっさりと席へと引き下がっていったトレアトに、そしてわずかな間に起きた状況の変化についていけないでいると、クロウ先生がしゃがむ。


「手伝うよ」


「い、いえそんな先生の手を煩わせるほどじゃ!?」


「気にしないでいいよ」


そう言うとクロウ先生は慣れた手つきで広がっていた料理を集めていき、その事に申し訳なく思っていると思い出したかのように先生は提案した。


「そうだ。じゃあ二人とも僕のお昼ご飯に付き合う事。どうかな?」


「わ、私は別に、ですけど‥‥」


どうしよう?と私はシェンを見るとシェンは私を見て頷いてきて。それを見た先生は零れた料理をお皿の上に全て載せると立ち上がった。


「じゃあ決まりだね。これは僕が返しておくから、君たちは料理を取ってきなさい」


そう言うと、先生は食器を片付けに行ってしまい、残された私とシェンは互いに顔を見合わせた時にお腹が小さくなってしまって、私はそそくさともう一度お昼ご飯を取りに行ったのだった。


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