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第二話

国王、ルイータルとの執務室での一件以降、魔法騎士団内部はてんやわんやとなった。何せ、騎士団の実質トップが辞めるわけではないが、学院へ新任教師して赴任することが決まったのだ。

その結果、他の団員もだがクロウディスの日々はまさに過酷を極めた。


何せ、クロウディスが学院の教師となるという事はアルトステラ王国魔法騎士団副団長としての職務のほとんどがこなせなくなるという事で。

更に今のクロウディスは現在魔法騎士団の団長代理も兼務しているが、それは流石に放り出せるものではないので継続することが決まったがそれ以外の事。


書類を片付けていたクロウディスが学院に行くという事は、それを誰かが代わりに処理しなければならず。それが出来なければ書類仕事が滞り機能不全に陥ってしまう最悪の状況を予感させたが、そこは幸いにしてルイータルも先手を打っていたようで文官達を派遣してくれて、文官達によって魔法騎士団の中で比較的書類ができる者たちを集めてた事で重要なもの以外の引継ぎは無事に完了したのだった。


お陰で魔法騎士団が機能不全を起こすという事態は避けられたがクロウディスに圧倒的なまで負荷がかかったことで苦労ディスという余計な二つ名がクロウディスの知らないところでつけられていたことを、クロウディスは後日知ることになる。


そして、現在。事前の予定通りクロウディスはクロウ・ノウザードという偽名で学院の新任教師として、さらに言えば今学院に置いて最も悪名高い獅子レオクラスの担任となることが決まったのだった。

そして、現在。今日は始業式というのもあって教室で軽い顔合わせという名の自己紹介をするだけで済んだのだが、目下の問題は明日の事だった。


「さて、どうしたものか…」


初めての教師という事もあり勝手がわからないが、それでも教師魔法騎士団の副団長であるクロウディスは、軽く見た程度でおおよその実力と傾向を把握することが出来る。


「あの中で現状一番強いのは、シェンか」


あの五人の中で唯一、エルフであるシェン・リンフィアの纏う空気は戦いを知っているものだった。恐らく狩りなどで猛獣、はたまた魔物と戦ったことがあるのかもしれない。

では他の四人はというとその実力は団栗の背比べと言える。何せ、四人は戦いを知らない。おそらく狩りなどをしたこともなければ、学院に来なければ刃を振るうこともなかったかもしれない。


「いや、彼女は違うか」


ミリアーデ・R・スターレット。恩師であるグラン・リーディン・スターレットの孫娘である彼女の手は他の四人と比べて硬いかった。

恐らく、あの中で最も愚直に剣を振るっていたと思わせる手だったので、クロウディスの記憶に残っていた。それでも、ただ剣を振るうのと戦うために剣を振るうのではその意味も全く変わってくる。さらにいきなり魔物と戦えなどと無理を言うつもりはクロウディスにはない。


「まずは、初歩の初歩、かな」


諦めるつもりはないといった彼ら達のためにまずは、基礎にして基本である魔法騎士が魔法騎士たる所以を教えることに決めるとクロウディスは立ち上がる。


「さて、まずは新任教師として学院の長に挨拶しに行くかな」


王宮の執務室に比べて圧倒的に質素で貧層で埃っぽい、だが広々とした職員室を出て外に出て学院の長であるあの人に挨拶をしに行こうと森に囲まれた校舎を出る。


「ん?」


森に囲まれているお陰か、本校舎と比べてこの辺りは静かだ。そして、静かだからこそその音をクロウディスの耳は正確に捉えていて、クロウディスの足は音の聞こえた場所である校舎の裏側へと向かい、その音の発生源を見た。


「…ふふ」


音の発生源は、霊具を構えた一人の少女が一心に基本の型をなぞるように熱心に剣を振る。その動作の一つ一つはまだ粗く、飾らない言葉で言えば下手の一言と言えた。

だが、その熱意は。本校舎にいる他のクラスの生徒の誰よりも勝るものだとクロウディスは感じた。


「入学初日なのに、熱心だな」


「…」


クロウディスに声に少女は一切反応せず、ただ剣を振るう。クロウディスの事など眼中に入っていない、とんでもない集中力だった。

そして、集中している彼女の邪魔をするのも申し訳ないので、クロウディスは気配を消してその場を後にし、今度こそ目的の場所である本校舎へと歩き出す。


(まだまだ、話にならないレベル。だが、磨いていけばそれは確かな武器になる)


今日は彼女しか見ることが出来なかったが、他の四人も何らかの才能を秘めているのではと、そしてそれを見つけて育て、一人前の魔法騎士に育てるのが今の、教師である自分の役目なんだと改めて実感しながら、クロウディスの足は軽やかに歩いていく。


そして、学院の外れにある獅子レオクラスの教室がある森の中を歩くことおよそ十分、森が終わり目の前に石を敷き詰めて作られた道が現れ、そこを歩く生徒からの視線を気にすることなくクロウディスは生徒たちとは反対にその道を遡るように歩いていくとやがて先程まで自分が居た校舎とは違い、古くとも歴史を感じさせる、懐かしさを感じる本校舎が見えて、思わず校舎前にある噴水の前に立ち止まる。


「懐かしいなぁ」


校舎を見ただけで思い出せる、今は過ぎ去ってしまった学友とともに送ったまるで宝石のような学院生活での日々の記憶。


「おやおや、誰かと思えば落ちこぼれどもにお似合いの学院教師史上初の「魔力Fランク」のクロウ・ノウザード先生ではないですか?」


そんなクロウディスの思い出に水を差してきた声の主に視線を向ける。齢は三十代前半、紫を基調としたローブを纏い蟹を模したブローチをつけた細身の男が見下すようにクロウディスを見てきていた。


「貴方は、確かカンケルクラスの担任の」


「おやおや、今最も話題にのぼるかの悪名高い獅子レオクラスの担任であるクロウ先生に覚えてもらえるとは恐悦至極です。僕はカーキア・レン・フォルトス、以後お見知りおきを」


「クロウ・ノウザードです。それで、わざわざ自分に声を掛けられて、何か御用でも?」


「いえいえ、獅子レオクラスの担任である貴方が本校舎ここにいったいどの用事でしょうか?」


カーキアと名乗った男の眼には、隠そうともしない侮蔑の色に内心で呆れながらも王宮で鍛えたポーカーフェイスで要件を伝える。


「いえ、実は学院長からの呼び出しを受けまして」


「あ~!なるほど! さすがは学院長、短い期間とはいえ新任の教師にも面会されるとは!」


「あ、あはは・・・・」


流石のクロウディスも愛想笑いにも限界を感じ、そろそろ面倒だと思い始めた時だった。


「クロウ先生、来るのが遅かったな」


「ラ、ラオシェン学院長!?」


まるでいきなりその場に姿を現したかのように現れたエルフの青年を見たカーキアは驚きの声を上げた通り、この学院の長であるラオシェン・フォン・リーディン・クレストール、クロウディスが在籍していた当時から容姿も変わってないオルソラ魔法騎士学院の学院長その人だった。そして、いきなり姿を現したその意味をクロウディスは正確に理解した。


「申し訳ありません、少し()()()()生徒の様子を見ていたもので、遅くなってしまいました」


「そうですか。そうであるなら構いませんが、カーキア先生はなぜここに?」


「あ、わ、私は、その…こ、これから調べ物がありますので失礼します!」


そう言うと先程までと打って違い逃げるようにカーキアはその場を後に、その場にはラオシェンとクロウディスの二人だけとなる。


「さて、小物も消えたようですし。まずは私の部屋に行きましょう。話はそこでしましょう」


「わかりました」


そう言うと階段を昇り始めたラオシェンの後をクロウディスはついていき、二人は目的の学院長室へと到着するとラオシェンが扉を開き中に入るとそれに続いてクロウディスも部屋の中へと入り扉をしっかりと閉じると同時に部屋全体に遮音結界が張られるが知っていたクロウディスに焦りはなく、振り返るとそこには先程とは違った、好好爺といった雰囲気を纏ったラオシェンがクロウディスを見ていた。


「昔と変わらずお若いですね、ラオシェン学院長?」


「そういう君は昔よりも落ち着きましたねクロウ先生、いや、クロウディス君?」


そう言うと、ラオシェンとクロウディスは笑みを浮かべながらどちらともなく手を差し出し握手を交わした。

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