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第6話 必要な欲望

「演じている、とは?」


「そのままだよ。あいつの優しさは本音と偽りでぐちゃぐちゃ、嘘つきだ」


「はぁ……?」


 どこかしっくり来ていない様子のイヴ。

 魔眼を持つ僕の世界を他人に伝えるのは難しいか。


 ま、少しずつ説明していこう。 


「何が言いたいのよっ!!」


 そして怒りの声をあげるソフィア。

 ダンッ!! と強く地面を足踏みし、僕へ向けて杖を突き立てる。


「アタシの優しさが嘘だって? 自分の事しか考えないクロトに比べたら、アタシの方がまだ優しさに溢れてるわよ!!」


 言葉だけならソフィアの意見は正しい。

 

 修行をしていたとはいえ、三ヶ月の間に僕がやった事といえば、節約と財宝類の売却。

 細かい事はちょいちょいやっていたが、領民にとっては自らの為に動こうとしているソフィアの方が優しいと感じるだろう。


「お前のは優しさじゃない。聖女という役割に縛られてるだけだ」


 しかし、僕にとって彼女は、自分を抑えているだけにしか見えない。


「役割……あぁ、そういう事ですか」


 イヴもようやく理解できたらしい。

 指摘されているソフィア本人は、意味が分からず赤いオーラと共に怒りを湧き上がらせていく。


「何が悪いのよ……アタシは聖女として皆を救いたくてここまで!!」


「明らかに周りのヤツらの方が元気そうだったろ。子供だけじゃない、大人も含めてだ」


「っ!!」


 ソフィアの行動は優しさなんかじゃない。


「子供を助けるのはまだ分かる。だが大人どもは自分でなんとかできるだろ。そいつらより若いお前が身を削って食わせるとか……バカか」


 ただ聖女という役割に縛られた、自己犠牲だ。


 クソ真面目すぎるんだよ。

 前世の僕みたいでさ。


「それの何がいけないの……」


 杖をゆっくり下ろし、身体を震わせるソフィア。

 

「アタシはここで生まれ育ったの。アタシがいなくなったら、ここの人達はどうなる? 何もできずに死んじゃうのよ!!」


 それが当たり前だと主張して、

 そうするしかないと決めつける悲しい姿。


「皆を救いたいから、帝国に行かなかったのですか?」


「そうよ……」


「帝国?」


「聖女の力を発現させた者は、帝国より使いの者が来ます。望めば爵位しゃくいも与えられると」


「ほほぉ、そいつはすげぇボーナスだな」


 イヴから聞いた話だと、この世界において勇者と聖女は少し特別らしい。

 

 そんな特別な存在が、どうして貧乏領にこだわるのか?

 何となーく分かった。


「だけど、だけど……」


 杖を握る力が強くなり、目元に涙を浮かべるソフィア。

 そして、


「アタシだって、貴族になりたかったわよ!!」

 

 自身の抱えていた欲望をさらけ出した。


「地位も、お金も、可愛いお洋服や宝石だって全部欲しかった!! 皆が裕福なら、アタシだって余計な心配をせずに帝国の都市に来たわよ!!」


 本来ならありえた未来。

 年頃の女の子らしく、彼女も煌びやかな世界に憧れていた。


「でも同時に醜い考えだって思った。ここから都市までは離れてるから仕送りも難しい。回復魔法が使える人もないのに、アタシが離れでもしたら」


「聖女として、自分の欲望を優先するのは間違いだと思ったのか」


「……そうよ」


 しかし、生まれ育った故郷を捨てるという残酷な現実。

 どちらを優先すべきか、”聖女”になった彼女に答えは出ていた。


「くだらん」


「っ!!」


 そんな生き方が僕は気に入らない。


「自分の幸せを潰してまで何故生きようとする。そんな人生、つまらんだけだ」


「アンタってヤツは!!」


 煽ったのも原因だろうが、怒りが頂点に達したソフィアに僕の首根っこを掴まれる。

 そして、そのまま地面へ押し倒された。


「ご主人様!!」 


「イヴ!! 黙って見てろ!!」


 剣を抜こうとするイヴを言葉で止める。

 ソフィアとのやり取りに暴力は一切必要ない。


「他人を優先しすぎなんだよ。このまま生きがいも幸せも感じず、朽ちて死にたいのか?」


「何が悪いのよ、自分勝手でワガママなクロトに何がわかる!!」


「自分勝手で何が悪い? むしろ自分勝手な部分があるから人は生きるんだよ」


「はぁ?」


 理不尽とも捉えられる僕の言葉に首をかしげるソフィア。


「あれが欲しい、これがやりたい……その為に我慢するなら、いくらでもしてやる。だけど、自分を苦しめるだけで必要以上に自分を捨てる生き方、僕はゴメンだ」


「……」


「この世の全ては欲望。そこに綺麗も汚いも関係ない。お前は肩書とか優しさとか、くだらん事に縛られすぎなんだよ」


 最初は一発ぶん殴ろうかという気迫で興奮していたソフィアも、僕の言葉を聞くにつれて態度が変化していく。

 掴んでいた力は弱まり、表情も悲しみとも言えない冷たい感じ。


「ま、人を救うのもボランティアレベルならいいけど、な」


 ソフィアの行動は完全にやりすぎだ。


 たまにご飯を多めに食べるとか、小さい欲望すらも抑え込んでいた。

 悪い感情かもしれんが、そういうワガママは抑えすぎるのも体に毒。


 僕に突っかかる勢いで欲望を出していたら、もっと面白くなるだろうと期待している。

 これも僕の”欲望”だ。


「そんなの許されるワケないでしょ……自分の醜い欲望を優先する事なんて」


「その”欲望”を捨てない世界を作ればいいだろ?」


「っ」


 僕の世界を実現させるためには、領民の欲望を満たさなければ。

 勿論、ソフィアも含めてだ。


 一人ではできないことが多い。 

 だから領民の欲望や求めるものを”ある程度”叶え、僕の理想を叶えるための人材になってもらわないと。


 その為に水路を建設は必要だし、まずは魔物を……


『ブォオオオオオオオオ!!』


 突如として鳴り響く、獣の唸り声。


「まさか、魔物!?」

 

「いつの間に近くまで……!!」


「フハハハ!! 丁度いい!!」


 完全に力を抜いたソフィアを押しのけ、僕は剣を抜く。


「僕の欲望を叶える第一歩として、まずは貴様を狩るとしよう!!」

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