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第4話 聖女の役割(side:ソフィア)

「こ、これは!! まさしく聖女の証!!」


 アタシが十歳の時。

 突然手の甲に現れた紋章にアタシはビックリした。


 ここに一番長く住んでいるおじいちゃん曰く、アタシの手の甲に浮かんだのは聖女の紋章であり、アタシが聖女の力に目覚めた証拠だという。


「ねぇ、聖女になったら何ができるの?」


「強力な回復魔法や浄化魔法もそうだが、何より帝国で貴族として生活できるぞ!!」


「貴族? 貴族ってあのお金持ちの?」


 頭のよくないアタシでも、貴族という存在の凄さは理解していた。


 お金がいっぱいあって、

 美味しい物も食べられて

 綺麗なドレスだってある。


 平民で貧乏なアタシにとっては、貴族という未知の世界は憧れでしかなかった。


「聖女とは誰かの命を救う役割。優しいお前が聖女に目覚めて本当に良かった……」


「誰かを……救う……」


 その時、周りにいた人達の視線が気になった。

 

 彼女は裕福になれるのに、自分は未だに貧乏なまま。


 理不尽な現実に嫉妬や恨みといった負の感情。

 割り切れない感情が幼い私に突き刺さった。


(そっか、皆は裕福になれないんだ) 


 ここの人達は大好きだ。

 何もないからこそ、お互いを助け合える関係。


 そんな中で、アタシだけ幸せになってどうする?

 アタシがいなくなったら、ここの人達は誰が救うの?


「……アタシ、帝国には行かない」 


「ソフィア?」


「聖女なんだもん。皆を守るためにここへ残るよ」


 だからアタシは自分を押し込んだ。

 聖女という役割を果たすために。 


「流石ソフィアだ!!」


「聖女の責任感に目覚めたのね」


「いよっ!! 聖女様!!」


 その決断は正しいと、住人達が手を叩いて喜んだ。

 

 アタシの判断は間違っていない。

 

 弱き者を救う力が聖女にはある。

 だからアタシは、その役割を全うしなければいけない。









(貴族か……少しでいいからなってみたかったな)


 アタシ自身の醜い欲望を隠してでも。












「ソフィア姉ちゃん、お腹空いたよ……」


「ちょっと待っててね、確か乾パンが……あった」


 アタシの元へ来たお腹をすかせた子供。

 ここは常に食料が不足している。

 

 飢え死にするレベルではないけど、満足なご飯を与えられないのが現実。


「いいの? ソフィア姉ちゃんもお腹が空いているでしょ?」


「アタシはいいのよ、聖女様は身体も丈夫なんだから」


「ありがとう!!」


 乾パンを受け取った子は頭を下げた後、どこかへ行ってしまう。

 

 やっぱ子供はいいわね。 

 無邪気で可愛くて、存在そのものが未来って感じがして、


 ぐぅうう……


「……お腹空いたわね」


 ポジティブな感情で誤魔化そうとしても、腹の鳴る音は抑えられない。


「あまってる保存食とかあったかしら……ってダメダメ。他の子に分けないといけないのに」


 アタシは聖女としての役割を果たせていると思う。

 恵まれない人達に手を差し伸べ、身を削って回復魔法で救いを与え、人々から感謝されている。


 多くの人々から慕われる生活は幸せ……のハズ。


「さっさと領主が変わればいいのに」


 最近は何やらメイドと修行しているらしい。

 皆がお腹を空かせているのに意味わかんない。


 メイドにセクハラをしている……なんてウワサもあるし。

 やっぱり領主なんてロクでもない。


『お前面白いな、気に入った』


 思い切り突っかかった時の生意気な態度は今でも覚えている。

 結局、上の人間なんて自分勝手でワガママ。


 アタシ達の事なんかどうでもいい。

 けど、


(貴族……いいな……)


 そのワガママな立場に憧れるアタシも、同罪かもしれない。

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