第31話 魔族との戦い
side:イヴ
「この私を騙したなぁ!!」
「っ!!」
どこかもわからない地下室。
怒り狂ったローエンにより、私の全身に電撃魔法が浴びせられる。
苦痛と恐怖が心と身体に伝わっていく。
「何故メタルライダーを持っていない!? その手に受け継がれた魔法陣はどこにいった!?」
「あ、あぁ……」
「……まさかガーランドの!? クソッ!! 継承には信頼関係が必要ではなかったのか!?」
彼は私が未だにメタルライダーを所持していると思っていた。
しかし、私の手にメタルライダーの紋章はなく、起動を含めた全ての権利をご主人様が所有している。
連れ去られる時に打ち明けなかったのは、ご主人様が標的にされてしまうから。
結果、一時的ではあるがご主人様の安全は守られ、私一人の犠牲で済んだというわけだ。
「一旦落ち着きましょう。メタルライダーを所持していないとしても、その遺伝子や仕組みのサンプルとして使えるはず」
「……今の私にそこまで価値があると?」
「ほぉ? 意外と図太い精神をお持ちなのですね?」
「っ!?」
つい口にした嫌味にローエンが反応し、私の腹を思いっきり蹴り飛ばす。
……もう何回目だろうか。
体の震えは未だ収まらないが、痛みに関してはもう感覚が鈍って感じない。
「ゲホッゲホッ!! あ……ぐぁ……」
けど心は苦しい。
周りに映る何もかもが怖い。
ガーランド領にいた頃の幸せや希望が真っ黒に塗りつぶされ、かつて拷問を受けていたあの頃の記憶が鮮明に蘇っていく。
(ご主人様……)
ふと頭に浮かんだご主人様の姿が、今の私にとって唯一の癒しだった。
自分で選んだ道なのに、心の奥底では助けを求めている。
(辛いです……苦しいです……怖いです……)
自分勝手だなと思いつつ、私は心の中のご主人様に自らの弱みを訴え続けた。
「まぁいい。クロト・ガーランドはスラムの軍勢が抑える。それを乗り越えたとしても、こちらには大量の兵士と魔族の同胞が……」
「た、大変ですローエン様!!」
「何事だ!!」
そんな絶望に包まれていた時だ。
何やら外が騒がしくなり、ローエンや周りの魔族たちも焦り始めていた。
一体何が起きたのだろう?
わずかな意識の中で集中し、彼らの会話に耳を傾けると
「スラムの軍勢がこちらに攻めてきております!!」
「え……?」
その異質な現象が、ご主人様によって引き起こされたものだと私は理解した。
(やりすぎたな……)
召喚されたメタルライダーによって屋敷の半分以上がぐしゃぐしゃに潰された。
かつて屋敷のあった部分にメタルライダーが堂々と膝をついている。
「まぁ無事だろ、うん」
「無事なワケないでしょ!? あの中にはイヴとリースもいるのよっ!!」
「痛い痛い!! 引っ張るなって!!」
怒ったソフィアに首根っこを捕まれブンブン振り回される。
まさか召喚陣のポイントをミスるとは……盗賊を追っかける時に使用してから何度か訓練はしていたが、召喚位置までは練習していなかったなぁ。
帰ったらちゃんとやろ。
(召喚だけだとあんま疲れないな)
そして何度か召喚していて気づいたことがある。
メタルライダーの召喚自体には、あまり魔力を使わないということだ。
バカみたいに消費するのはメタルライダーを動かす時だけで、ただ召喚するだけならそこまで魔力を消費しないらしい。
体感としては軽い重力魔法を一回使うくらいか?
動かなきゃただのデカい鎧だし、だから何だという話ではあるけど。
「二人は丈夫だし大丈夫だろ……問題は」
「アイツがガーランドの領主だ!!」
「殺すなよ!! 隣の女は好きにして構わん!!」
「……とりあえず暴れていいわよね?」
「当然!!」
今の大騒動を聞きつけて、魔族達が僕達の周りに集まり始めた。
不思議な姿だな……
人型なのに牙とか羽根とか色んなものが生えている。
極めつけはこの濃い魔力。
人間では感じられないような魔力の感覚に全身がゾクゾクしていく。
「お前らやっちま……っ!?」
「「先手必勝!!」」
だけど僕達は止まらない。
魔族の号令とともに僕達は敵陣へと突っ込み、攻撃をしかけた。
「”ホーリーブロー”!!」
「ぐぉっ!?」
「魔族が何よ!! 聖女様がいくらでも相手してやるわ!!」
ホットオーク戦では大したダメージを与えられなかったソフィア。
今回は訓練の成果と、そもそも聖魔法が魔族相手に効果抜群でかなり無双している。
聖魔法の数々に魔族達が後方もなく消滅していき、数を徐々に減らしていく。
やるなぁ、僕も負けてられ……
ズダダダッ!!
「ほぉ、俺の針を避けたか……中々やるな」
突然、遠くから大量に針が打ち込まれ僕の足元に刺さった。
「褒める事か? 僕は結構遅く見えたけど?」
「んだと……?」
「兄者、下がってろ」
後方から別の声が聞こえたと思ったら、今度は長い舌が槍のように接近。
もう少しで当たりそうな距離まで近づいたが、僕は身体を横に回転させて回避した。
「今度は長い舌……魔族っていうのはバリエーションが豊富で面白いねぇ」
「どうだ、これが人間にはない魔族の”強み”だ」
「降参するなら今の内だぜ!!」
面白い戦い方だなぁ。
僕は楽しさを覚えつつ、剣で二体の魔族へ接近する。
「弟よ、後ろだ!!」
「おうよ!!」
剣と身体がぶつかり合う。
二人というコンビネーションプレイは回避や奇襲もスムーズにさせ、僕の行動範囲を徐々に狭くしていく。
(やっぱ力もすげぇな)
刃が簡単に通らない。
軽く動かした腕や足が地面にめり込み、魔族の圧倒的な力を嫌でも実感させられる。
まともに当たったら致命傷は間違いないだろう。
「もらったぁ!!」
だけど、力以外は普通だ。
僕は迫る長い舌をギリギリの所まで引きつけ、軽いジャンプでかわした後、
「ふんっ!!」
「なっ!? お、俺の舌が地面に刺さって……!!」
「しばらく舌で遊んでろ!!」
地面に刺さった舌を足で思いっきり踏みつけ、動けなくした。
おまけに重力魔法でかき集めた瓦礫をセットで重ねて。
これで一人は動けない。
残った針の魔族にターゲットを向け、一気に距離を詰める。
「一対一なら勝てると思ったか? 魔族のパワーとスピードを思い知らせてやる!!」
「この近距離で僕に一本も針を当てられないのに?」
「舐めてると痛い目みるぞ……!!」
僕の挑発にのった魔族が針を向ける。
その瞬間、
「なっ!? だけどバランスを崩したところで……!?」
僕は更に接近して魔族の足元を蹴り飛ばした。
バランスを崩し、倒れようとする魔族の身体を僕は手を支える。
とある方向に身体が向くように。
ズダダダダッ!!
「いだだだだ!! お、弟よ……何を……」
「兄者!!」
既に発射されてしまった針は舌の魔族の身体にびっしりと刺さった。
全身から血を流し、痛々しい傷と共に舌の魔族がもがき苦しむ。
「てめぇ、よくも姑息な真似をっ!?」
「終わりだ」
ズバァッ!!
動揺した針の魔族の首を、僕は魔力を込めた剣で一刀両断した。
「”ホーリーカノン”!!」
「ぎゃああああああ!!」
「お、援護ありがとうな」
「これくらい大したことないわ」
悲惨な状態だった舌の魔族はソフィアの聖魔法で跡形もなく消滅した。
辺りを見渡せば、僕達を囲っていた魔族が随分減っている事に気付く。
結構片付いて来たな。
後はリースがイヴを助けることに期待すれば……
「随分派手に暴れてくれましたねぇ、クロト様?」
「……来たなローエン」
おっと、ようやくラスボスが現れたか。




