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第27話 いつまでも日常が続きますように

「領地もだいぶ発展したなぁ」


 翌日、領内を散策しながら状況を観察する。


 水路は完成し、水に困る事はなくなった。

 農地からは芽が出始め、徐々に作物が育っていく。

 何もなかった転生直後に比べたら、だいぶ進展したと僕は思う。


「人も増えて設備も整ってきました。オマケに食料問題も以前より深刻ではありません」


「全体的に顔色がよくなってるしな。僕としてはもう少し肉が食べたいけど……」


「ふふっ、牛や豚でも育てますか?」


「お、それ採用」


 酪農もありだなぁ。

 美味しい肉にありつけるのは勿論、牛を育てれば牛乳が作れて色んな乳製品の元となる。

 そのために人を呼んだり牧場の建築が必要になるけど……今のままならそう遠くない内に取りかかれるだろう。


「次はあっちね……あー、一日でパパっとできたらいいのに」


「お疲れのようだな、ソフィア」


「クロト? 悪いけど今日はアンタの相手する時間はないの」


 と、ちょうど聖魔法の結界を張る作業をしていたソフィアが通りかかった。

 一回でバッと張れるワケではなく、ポイントをいくつか決めてそこに一つ一つ魔法陣を張る……という中々めんどくさい作業が必要らしい。


「安心しろ、すぐに済む」


「すぐって……ひゃあああああ!?」


 そんなソフィアを僕は思いっきり抱きしめた。

 彼女の感触を味わいたかったのが一番だけど。


「な、何よいきなり抱きついて!? べ、別にそんな事されても、悪くはないけど……」


「ふむ、やはりソフィアの抱き心地もいいな」


「……あーはいはい。アンタはそーいう人でしたねー!!」


 相変わらず変態ムーブをする僕にイライラするソフィア。

 が、魔眼を通して見たソフィアのオーラにピンク色が含まれている。

 表情もどこか柔らかさを感じたし、心の底から僕を拒絶したいワケではなさそう。


「でも嬉しそうだったぞ?」


「っ……変なとこ気づかなくていいのよっ」


「いてっ」


 その事を指摘したら、足を軽く蹴られてしまった。


「ありがと……」


 感謝と共にソフィアはその場を去って次のポイントへと向かう。


 あんなに身体を揺らして嬉しそうに……

 素直なのに、それを全部出そうとしないんだよなー 

 

「相変わらずですね、ソフィア様は」


「あぁ、そこがいい」


 その変わらないソフィアの姿が僕は好きだ。

 ……ダダダダッ


「マスター♪」


「うおっ……リースか」


 後ろから急に飛び込んでくる大きな存在。

 僕の事をマスターと呼び、細くて程よい固さのある身体を押しつけてくるのは、この世界でたった一人しかいない。


「マスター、さっきまでソフィア様に抱きついてた。リースも抱きしめて」


「あぁ、存分に抱きしめてやる」


 リースは僕の感触を気に入ったらしい。

 隙があれば僕の所に来て、色んな所を触りだす。

 美少女のリースに触られるのはご褒美でしかないから、むしろ嬉しいんだけどね。


「やっぱりマスターの感触は最高。男性の中でもトップクラス」


「ははは、リースに言われると気分がいいな」


 ただ、僕には男性の身体の良さがイマイチわからない。

 リースに聞いても「他の男性の身体をいいと思ったことがない」と言われてしまったし……うーん


「ついでにイヴさんも……えいっ」


「ひゃっ……私もですか……」


 と、今度はイヴに標的を定めた。


「んぅ♪ この女性という女性の夢が詰まった素晴らしい身体、まさに天国」


「わかる。イヴの身体は天国そのものだ」


「ご、ご主人様まで……」


 ついでに僕もイヴの身体に抱きついた。

 うーん、この柔らかさ!!

 イヴという存在を味わうことが、生きててよかったと一番実感できる時かもしれない。


「あっ、リース様が領主様とイヴさんに甘えてるー!!」


「いいなー」


「私も私もー」


「行くぞー!!」 


 そして見回りが終わったらしい残りの十六騎士団まで僕達の方へ駆け寄ってきた。


「お前達も甘えるのが上手くなったなぁ」


「領主様って分かりやすい色仕掛け好きですよね?」


「だから研究しました!!」


「フハハハ!! 勉強熱心なのはいい事だ!!」


 なんでも”この程度で喜ぶなら全然OK”とのことらしい。

 最近ではお触りも全然拒否しないし、結構ノリ気でこっちに来てくれる。


(幸せだな……)


 美少女のメイドに聖女に騎士……

 僕の欲望を満たしてくれる存在がこんなにも増えた。

 だけどまだまだ。

 人手不足なんだから、もっと美少女を雇わないとな!!


 目指せ借金返済!!

 目指せ美少女ハーレム!!


 フハハハ!!








 side:イヴ


「ご主人様?」


「あぁ、イヴか。考え事をしていたら眠れなくてな」


 その日の夜。

 廊下でボーっとしていると、ご主人様が寝室から姿を現した。

 考え事、と言っても深刻そうな雰囲気ではない。

 今後やりたい事でも考えていたのだろう。


 ご主人様に飲み水を用意した後、私は話し相手になってほしいと言われた。


「僕の領はまだまだ足りないものが多い。だが、確かに増えているものもある」


「そうですね。これも全てご主人様の力のおかげです」


「僕の力だけではないぞ。イヴは勿論、ソフィアやリース、そして領民がクソ真面目に頑張ってくれてるからだ」


「ふふっ、ご主人様も真面目に頑張っておられますよ?」


「そうか? なるべく欲望に忠実に生きていたつもりだったけど……」


 私は知っている。

 ご主人様が意外と真面目で、意外と優しいところもあるっていう事。


 誰にでも手を伸ばすような優しさではなく、大事な人は絶対に守るという限られた優しさ。

 その小さな優しさは親近感があって、私を満たしてくれる幸せなもの。

 自分を満たしてくれる存在だからこそ、ご主人様は全力を尽くすし相応の対価も与えるのだろう。


 十六騎士団の人達も、帝国にいた時より待遇がよくなったと驚いていましたし。 


「けど、僕が美少女ハーレムを目指すきっかけはイブだからな」


「え?」


 ただ、欲望に忠実になったキッカケを聞くのは初めてだった。


「僕が美少女ハーレムを目指す少し前、イブの胸を揉んだ時に僕は目覚めたんだ。この幸せをより多くの美少女から感じることができたら、ってね」


 そういえば、そんなこともありましたね。

 あの時はいつものワガママの延長だと思って、遠慮なく胸を差し出しましたが……

 それがここまでの事を成し遂げるエネルギーになるとは。


 今の話を聞いても、本当なのかと疑ってしまう程だ。


「知らなかったです……というより、あの時はただの気まぐれだと思っていたので」


「実際気まぐれみたいなものだ。ま、今では大事な思い出だし、僕の人生にとって重要な目標でもあるけど」


 だけど嬉しい。

 私の些細な行動が今の魅力的なご主人様を作ったと思えたら、胸の内が幸せで満たされていく。


「だからイヴ、今後も僕についてきてくれ」


「……かしこまりました」


 この人に一生ついて行こう。

 私は改めて決意した。








「ついてきてくれ、ですか」


 乱暴だけど、どこかワガママな一面を隠したような言い方。

 寝室に戻るまで、私はさっきの言葉をずっと頭の中で反復していた。


(相変わらず欲望に素直で、可愛らしいお方……)


 でも、そんなご主人様に私は救われた。

 トラウマに苦しんでいたあの夜を幸せに変えてくれて、ご主人様に尽くす幸せも教えてくれて。


(何より……私が壊してしまった日常がここにある)


 侯爵令嬢として領を守ろうとしたのに、崩壊させてしまった過去がある。

 その辛い過去を忘れさせてくれるくらい、今のこの日常が幸せだ。


 





 この日常がいつまでも続けばいいのに……







「ん?」


 窓が空いている。

 内側に向けて思いっきり開かれ、強い風が屋敷内へ入り込んでいく。

 もしかして閉め忘れた?


 でも魔族の目撃が確認されてから、夜の戸締りは十六騎士団含めて厳重にしていたハズ。

 なのに、わかりやすいくらい窓が開くなんて…… 


「ようやくお会いできましたね、イヴ様」


「っ!?」


 その時、日常が壊れる音がした。

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