第26話 動き出す計画と日常
side:???
「計画は順調か?」
「えぇ、彼らも集まり始めていますので……後、二週間ほどかかるかと」
とある執務室で、二人の男が話し合う。
太った領主らしき人間とその執事。
何かを企みながら、彼らは建設中の宮殿を窓から眺めていた。
「魔族というのも大変だな。人間に擬態するのも楽ではないだろう?」
「それが魔王レミグラス様の為ですから」
瞬間、執事の姿が変わる。
紫色の肌に二本の角、そして禍々しいほど発せられた魔力。
それは彼が人間のふりをした魔族であることを証明していた。
「相変わらずお前は慎重だな。お前が攻めれば一瞬で終わるのではないか?」
「いえいえ。何事にもイレギュラーは付き物です。そのイレギュラーが起きても対処できるよう、計画は慎重に行わなければなりません」
執事にとって、この計画は絶対に失敗が許されないものだった。
かつて捕まえた”侯爵令嬢”を、シノビという謎の連中がさらってしまったのだから。
研究途中で未完成だった例の計画。
彼女さえ取り戻せば再開することができる。
そうすれば魔王軍の栄光は確実なものに。
「待っていてください……イヴ様」
かつての主人の名を呟きながら、ローエンは笑う。
再び訪れるであろう至高の時間を取り戻せるから。
絶対に逃がさない。
この計画で貴方をものにしてみせますよ……ふふふ
「ミスリル鉱石の売上も安定してきたな」
財務書類の作業をしていると実感する。
初めは鉱石の取引数も少なかったが、最近では取引数が倍近く増えて収入が一気にあがった。
「安く売買しているからか、王族の反応もいいですしね。ウチの鉱山に眠る鉱石の量が異常なのもありますが」
「市場流出による価格崩壊は王族がコントロールするからいいとして……あの量はさすがに予想外だったなぁ」
パッと見でも鉱石の量は凄まじかったが、奥に行くと更にミスリル鉱石が眠っていた。
まるで海開き後の潮干狩りみたいに、ミスリル鉱石がバンバン取れる。
オマケに他の鉱石も発見され、ミスリル程じゃないがそれなりの値段で売れ始めている。
これは本格的に他の開拓も動かせそうか?
「農業の方はどうだ?」
「水路が完成したおかげで安定しております。特に目立った災害が起きてないのが大きいかと」
「雨季に入る前にダムだけは建築しておきたいな……後は道路を整備して人の流入を増やしたいし……」
やらないといけない事は多い。
お金は増えても、土地はまだまだ未発達。
更なる発展を目指して、
新たなる美少女を雇う為に、
僕は今日も働く。
別に嫌じゃないし、むしろ充実してて楽しいけど。
「そういえばソフィア達はどうした?」
「ソフィア様は鉱山へ。リース様は第十六騎士団の仲間と見回りを……あら?」
ちょうど二人の話をしていた時だった。
扉の奥が何やら騒がしくなり、そのままバン!!と大きな音を立ててドアが蹴破られる。
「アタシの方が一個多いわよ!!」
「リースの方が全体的に大きい。価値としてはこちらの方が上」
「お二人とも落ち着いてください〜!!」
「……何してんだ」
ソフィアとリースが大量のミスリル鉱石を抱えて言い争っている。
何が起きたのかわからんが、くだらない事だというのはなんとなーく察した。
「領主様〜!! リース様と見回り中、鉱石を掘っているソフィア様を見かけて」
「そうしたら試しに掘ってみる? って話しかけてくれたんです」
「で、いつの間にか多くの鉱石を掘った方が勝ち、という勝負が始まって……」
小学生かよ。
別にミスリル鉱石は存在そのものが価値なワケで、よっぽど大きな傷がなければ値段に差はない。
そんなくだらない争いを続ける二人に、僕とイヴは思わずため息が出る。
「お二人ともアホですね……」
「ああ、ドアホだ」
楽しそうで何よりだとは思うけど。
「マナもミナも見回りごくろう。下がっていいぞ」
「「はーい」」
とりあえず十六騎士団の子達は下がらせて……
リーダーと聖女様の相手は僕がやろう。
「ちょっとクロト!! アタシの方が一個多くて価値があると思うわよね!?」
「リースのは全体的に質がいい。マスターも満足する」
「んな事どうでもいい!!」
「「いてっ」」
流石にもういいと思っていたので、僕に突っかかってきた二人の額にデコピンを喰らわせて黙らせた。
「くだらん争いをする元気があって何よりだ。二人とも領内の様子はどうだ?」
「別に大丈夫よ。治安もいいし鉱山も変な魔物がいなくて安全だし」
「盗賊は大体片付けた。もう潜伏してるなんて事はないと思う」
特に問題はない……って感じか。
人手が増えたから領内の様子がよりわかりやすくなった。
特に仕事柄、領内を歩くことが多いソフィアやリース達は些細な変化にも気づいてくれるので非常に助かる。
「ただマスター、気をつけた方がいい」
「なんだ?」
「少し遠くの方で最近、魔族が姿を表したらしい」
「……まじか」
こういう変化とかね。
しかし、魔族が近くで出現したかぁ……
比較的近い場所に魔王軍がいるから警戒はしてたけど、遂に来たかって感じだ。
「ま、ぞく……まさか……」
「イヴ、落ち着け」
「……すみません」
「「?」」
魔族という単語に過剰に反応し、おびえた様子を見せるイヴ。
いつもとは全然違う姿に二人が首をかしげる。
「あー、二人には後で話す。それで魔族の様子はどうだ?」
「特に何もしてない。姿を見せては消えるの繰り返し」
「何をしようとしてるんだ……?」
調査か監視……って所か?
いくら魔族が強いとはいえ、調べもせずに脳筋突撃するようなバカではない。
ただ、標的がガーランド領内だとしたら少しマズいな。
見回り用の騎士を雇ったはいいけどたったの五人。
残りで戦力になりそうなのは僕とイヴとソフィアの三人。
合計八人か。
これだけで魔王軍を撃退するのは無理だろうなぁ……
「ねぇクロト。明日は鉱石掘りを休んで、聖魔法の結界を作ってもいいかしら?」
「あぁ、頼む……ソフィアってそんな事もできるんだな」
「ふふん、これが聖女様の力ってヤツよ!!」
これは心強い。
結界があれば少なくとも時間を稼ぐことができるハズ。
「リース達も警戒を強化する。何かあればすぐマスターに報告する」
「それでいこう」
これが僕達の精一杯だ。
守りきるのは無理でも、何かしないよりはマシだから。
お金に余裕ができたら、人員とか兵器を導入して防御を固めるとしよう。
「魔族、ねぇ」
もう一つ思い出したけど、ターンクス領で執事をやっているローエン。
イヴの話を信じるなら、あいつも魔族だった。
正直、ローエンが絡んでる可能性もあると思う。
イヴもそれを察したから怯えていたワケだし。
「ま、なんとかなるだろ」
なるべく穏便に終わらせたいけどねぇ……
やれる事をやるしかないか。




