第20話 ゴミ掃除は徹底的に
「く、首が!?」
「おい!! 何が起きてんだよ!?」
綺麗に飛ばされた盗賊の首がぽーんと地面に落ちる。
死体と共に生々しく残るそれは盗賊たちを震えさせた。
こいつはヤバイ。
早く逃げないと殺される。
だが、もう遅い。
「”アイスグランド”」
「っ!? か、身体が!?」
「凍って動かねぇ!?」
イヴが残りの盗賊たちの下半身を凍らせて動けなくした。
必死にもがき苦しむ彼らだが、氷はビクともしない。
(人を殺すって……そこまで楽しくないな)
前世では一切経験のない”殺人”という禁忌を犯したのに、僕の心は不思議と落ち着いている。
ただ殺しただけという事実のみ。
それ以外の感情は一切湧かない。
殺人マニアにならなくて何よりだ、と自分に安心しつつ僕は呼吸を整える。
「ご苦労イヴ。クソ野郎どもの処刑の準備をしてくれて」
「メイドとして当然です。ご主人様」
「どういうことだ!? 俺達を雇うんじゃなかったのか!?」
「嘘つき野郎が!! それでも領主か!!」
思う存分暴言を吐き続ける盗賊たち。
ククッ、醜いものだねぇ。
信じてた幸せに酔いしれて、
自分が勝ち組だと確信して。
「嘘つきに嘘をついて何が悪い」
「「「は……?」」」
愚かだ。
本当に愚かだ。
「僕が嘘をつかないと言ったか? 全部が本当のことだといつ言った?」
「そ、そんな……」
「嫌だ、嫌だァ!!」
腰の剣を抜き、魔力を込める。
黒い魔力が刃を覆いつくし、ちょうど横並びしている盗賊たちと同じ長さになった。
そして、
「僕の領地に寄生するゴミは必要ない。死ね」
魔力で生成した刃を横に振り、盗賊たちの首を一気に切り捨てた。
「税金は払わない、だけど資源は奪う。本当に邪魔なヤツらだ」
盗賊は領地に寄生する病原菌だ。
違法滞在だから税金は払わない。
加えて子供や物を盗んだり、平気で人を殺したりしやがる。
領地改革をしている僕にとって、こいつらは邪魔な存在。
どっかのタイミングで消し去りたかった。
「う、うわぁ!? 助けて、助けて!!」
「ん?」
っと、一人だけ刃から外れたか。
まぁいい。
動けないのは相変わらずだしさっさと剣で……
「待って」
斬ろうとした時、ソフィアが僕を止める。
杖を握りしめ、光の魔力を込めながら、生き残った盗賊にゆっくり近づく。
「せ、聖女様……」
盗賊の頬が僅かにあがる。
目の前の聖女様が自分を助けてくれるんだと、希望を見ていた。
(さぁ、どうする?)
聖女の役割は弱き者を救う事。
彼女もその役割に従って、行動しているのかもしれない。
彼女の優しさは領民全員が知っている。
聖女という立場を自慢げに語らず、当然のように領民に混じって雑務や畑作業を手伝う姿。
昔ほど自分を犠牲にした優しさは見せなくなったが、自らに根付いた本質は相変わらずだ。
けど、
「アンタ達のせいで、一体何人の子供がいなくなったと思ってるの」
「へ?」
ソフィアはそこまで甘い女性じゃない。
口に出してしまう程の憎しみを持っている。
さっきも領の子供が盗賊にさらわれかけた。
その事実から察するに……
「”ホーリーランス”」
「ガハッ!?」
彼女は盗賊を許さない。
光の槍が盗賊の心臓を貫き、返り血を浴びる。
「ふぅ」
血まみれの聖女。
屋敷全体が赤く染まり、残酷な殺人現場で彼女はゆっくり息を吐く。
「素晴らしい」
その混沌とした空気の中で、僕は拍手と共に賞賛した。
「何よ? アタシが悪人を救済するお人好しだとでも思った?」
「全然? むしろ、迷わず一瞬で殺す姿はソフィアらしくてよかったぞ」
これくらい思い切りのあるヤツの方が面白い。
正しい間違いは置いておいて、少なくともあの状況で殺す判断ができるヤツは、相当狂ってるか覚悟を決めたヤツのどちらかだ。
で、ソフィアは後者。
何故なら魔眼を通したオーラがオレンジ色、つまり覚悟の色に染まっていたから。
「さぁて掃除の時間だ。首は袋に詰めて保存しておけよ?」
「何に使うのですか?」
「領民への脅しに使う。くだらん事をしたら許さんぞってな」
「ほんと趣味悪いわね……あぁ、死体をどかしたらアタシに任せて」
「ほう?」
言われた通り、死体だけ袋に移して飛び散った血は放置。
生臭く、ハエも飛び回るこの状況でソフィアは一体何をしようというのか。
「”リフレッシュ”」
ソフィアが杖に力を込めると、辺りに飛び散った血が綺麗さっぱり消え去った。
ホコリも匂いも一切ない。
まるで新品みたいだ。
「へぇ、こんな事もできるのか」
「そこそこ魔力を使うから乱用はできないけどね。見直した?」
「物凄く見直した。流石だソフィア」
「と、当然でしょ。アタシだってやる時はやるんだから」
そっぽを向く姿はどこか嬉しそう。
意地を張っているのがバレバレ。
そんなソフィアを僕は可愛らしいと思っており、思わず手を伸ばしてしまう。
「きゃっ!? な、なによ……」
「今日は一緒にどうだ?」
「え、あっ、それは……」
手で身体を触ればビクンと身体が反応する。
顔を赤くさせ、息が荒くなり、目線もあっちこっちに向く。
彼女は攻め続けられるのが大好き。
むしろ大胆に、強めにやられるのが好みだ。
腰に手を回し、イヴに見送られながら寝室に連れて行こうとする僕を……
「……満足させなさいよ」
ソフィアはあっさり受け入れた。
「ソフィア様とはどうでした?」
「激しいプレイがお好みらしくてな。イヴとは違った刺激を味わえて楽しかった」
「それは何よりです」
昼間から交じり合い、そのまま朝まで過ごした僕たち。
詳しいプレイ内容は言えないが、ソフィアの身体にはあちこちに跡や傷をつけてしまった。
その跡を恥ずかしがる様子もなく、ただ嬉しそうに見つめるソフィアの姿は、僕の欲望を満たしてくれる。
もう一回やろうかと思っていたが、ソフィアが急に恥ずかしがって足早に屋敷を去ったため叶わなかった。
『……ありがとう。幸せだったわ』
最後に残した感謝の言葉は、凄く可愛らしかったけど。
「ご主人様……」
と、イヴが何かを欲しそうな顔をしている。
オーラもピンク色だ。
「んっ……ご主人様……好き……大好き……」
「素直に甘えればいいだろ。僕はいつでも待ってる」
「はい……」
頭を撫でる度にクールな表情が崩れ、頬を緩ませて愛の言葉を声に出し続ける。
ぽかーんと口まで開けちゃって、子供みたいだ。
主人が色んな女の子と仲良くするのは嬉しいらしいが、どこか割り切れない部分が欲深くて愛おしいというか。
「ありがとう。凄く癒された」
「あっ……」
本当はもう少しイチャイチャしてたい。
が、やらないといけない事はあるのでポンポンと頭を手で軽く叩いた後、ゆっくり離す。
イヴの顔が少し寂しそうだったけど、許してくれ。
「さて。ミスリルの使い道だが、どうする?」
「採掘は自前で何とかできますが……問題は売る相手ですね」
採掘自体は結構簡単らしい。
周りの石を崩し、ミスリル鉱石にまとわりつく鉄鉱石ごと抜く。
後は職人に売れば綺麗なとこだけ加工してくれるってワケだ。
だが僕たちは売る相手に困っている。
安直に高く買い取ってくれる場所に行っても、鉱山そのものを守る事はできない。
「人が足りないからなぁ……売ると守るを両立しないといけないし」
「でしたら帝国に一度話を伺いに行くというのは?」
「帝国?」
帝国ってフェルナン帝国か?
僕に領地を押し付けて、税金だけ取ろうっていう楽な立場にいるやつら。
だが、売る相手としてはありかもしれない。
帝国も資源不足で、ミスリル鉱石なんて喉から手が出るほど欲しい物だと思うし。
「一度、話をしてみるか」
「では手紙の準備をしますね」
僕の目的は高く売る事だけではない。
その望みを帝国との取引で叶える事ができればいいけど……
ま、その辺は僕の交渉次第だよね。




