第18話 盗賊退治に例の兵器を
「盗賊はどっちに行った!!」
「ここから北へ真っ直ぐです!!」
案内された方向へ全力で走る。
この領は岩山に囲まれていて、出入りできる場所は少ない。
方角から盗賊が逃げる場所もだいたい把握できる。
ただ問題は、
「ねぇ!! このままじゃ追いつかないんじゃないの!?」
「私の”アイスロード”で滑りながら加速……いえ、それでも足りませんね」
「皆が追いかけてはいますが、何せ盗賊はすばしっこくて……」
盗賊に逃げられる可能性が高い、という事。
既に盗賊は子供とミスリルの情報を持って逃走中。
一方の僕達はその情報を知ってから動き出している。
明らかに遅すぎるんだ。
このままでは盗賊に逃げられ、ミスリルの情報が外に広まってしまう。
「何か追いつける方法でもあれば……あ」
そういえば”アレ”を使ってないな。
いくら危険なものとはいえ、使い方がわからないものを手元に置いておく方が危ない。
所有者なんだから使い方くらい分かっておかないと。
「”試運転”してみるか」
「「はい?」」
僕は右手に刻まれた魔法陣に魔力を込め、その”兵器”の名を呼んだ。
side:盗賊A
「やったぜぇ!! これで俺達も大金持ちだ!!」
この領に来て三ヶ月。
食べ物はない、水もない、寝心地も最悪。
だけど隠れ場所としては最適だった。
このオンボロ領地で寝泊まりしながら、外で追いはぎをする生活を送る俺にやっとチャンスがきた。
「えーん!! ママー!!」
「黙ってろクソガキ!! 小遣い代わりにさらったが、少し面倒な荷物だったかもな……」
仲間がいるところは少し遠いから、小遣い代わりに領のクソガキをさらった。
……あんまりにも泣きわめくから、さらわなきゃよかったと後悔しているが。
まぁいい。
面倒事も今日までだ。
ここを乗り切れば俺の人生は一気に変わる!!
「ミスリルとかいうヤツを売れば、俺や仲間も一気に成り上がれる!! これで勝ち組ロードまっしぐ……ら……?」
ゴォオオオオオ……
なんだこの音は。
風魔法のような、にしては少し音が高い。
まさか、領主が気づいて追いかけてきた?
でも領主が使えるのは闇魔法だし、メイドや聖女が風魔法なんて使う所、見たことは……
『メタルライダー”グリード”、標的を視認しました』
「な、なあああああああああ!?」
音が急に大きくなった瞬間、俺の上空にいたのは赤黒い巨大な鎧。
それがとんでもないスピードで動いてるのだから、俺は思わず足を止めてしまった。
そして、その鎧が俺を見た瞬間、大きな腕を勢いよく地面に振り下ろす。
「ひぃいいいいいいいいいい!?」
ドォオオオオオオオオオン!!
振り下ろされた腕が地面をえぐり、周囲にとてつもない衝撃波を発生させ、木々をなぎ倒す。
な、なんだこの威力!?
ただのパンチだろ!?
えぐれた地面は深く、恐る恐る俺が近づくとそこは真っ暗で巨大な穴に変わっていた。
プシュー……
「幸せそうだったなぁ? これからどうする?」
「……降伏します」
謎の鎧の中心から降りてきた、例の領主。
一瞬で殺されることを悟った俺は、大人しく土下座をするのだった。
「領内に盗賊はどれくらいいる?」
「え、と……それはちょっと……」
「どうしても言えないか? あ?」
「ひぃいいいいいい!! ごめんなさいごめんなさい!!」
ちっ。この様子じゃ、情報を引き出すのに時間がかかるか。
初めてメタルライダーを召喚したはいいが、まさか乗り込んで操作するタイプとは思わなかった。
おかげでロボットを操縦するという貴重な経験ができたけど。
(あったまいてぇ……たった十秒動かしただけでこれか)
ただ魔力を一気に持っていかれた。
メタルライダーのスペックは凄まじい。
だが、それ以上に搭乗者の負担が大きすぎる。
動かすだけでとてつもない魔力を消費し、時間が経てば経つほど、頭がふらつき痛くなる。
正直、今も立って話すのがやっとだ。
盗賊にナメられたくないから意地で耐えてるけど。
この辺は鍛えるしかないな……と、頭を抑えながら目の前にいる盗賊の対応を考える。
「おい、別にお前らを皆殺しにしたいとか、そういうワケじゃないぞ」
「へ?」
そして考えをまとめた僕は盗賊に対して”優しめに”語りかけた。
「貴重なミスリルが採掘されたんだ。お金が入れば人を雇えるし、何より僕は優秀な人材を求めている」
「ま、まさか!!」
「やってることはクズだが、盗賊は裏社会に詳しいだろ? 今後、色んな繋がりを持ちたい僕にとって、お前らを手元に置いて損はない。だから……」
「わかりました!! 領内にいるヤツら含めて呼びかけてきます!!」
盗賊は嬉しそうにイキイキと立ち上がる。
そして僕をボスのように丁寧な扱いをして、領内へ案内していく。
「ついでに領の外にいるヤツらも教えろ。報酬は……あのミスリルでどうだ?」
「い、いいんですか!? 貴重な物でしょう!?」
「使う所にお金は使うべきだと、僕は思っている。その意味が分かるな?」
「は、はい!! えぇと、今から言うのでメモのご準備を……」
それから領に向かうまでの間、盗賊は領の外にいる仲間を詳細に教えてくれた。
髪型、色、身長、性格、よくいる場所や使用する武器や魔法まで。
ざっとだが仲間の数もわかったし、潜伏場所への距離もここから遠くない。
「しっかし旦那も変わり者ですねぇ!! 俺ら盗賊を雇いたいとか、そんな貴族は聞いた事ないですよ」
「領地改革に手段は選んでいられない。僕の欲望を叶えるためにも、な?」
「は、はぁ……?」
手段を選ばないのは本当。
欲望を叶えるために動いているのも本当。
使う所にお金は使うべきだと思っているのも本当。
優秀な人材を求めているのも、裏社会とのつながりや色んな交流を持ちたいのも、
全部本当だ。
この盗賊には僕の考えている”本当の事”を喋っている。
「ククッ……」
「だ、旦那?」
「気にするな、ミスリルが見つかって興奮してるんだ」
「ですよね!! 俺も旦那に雇われるだなんて、幸せだなぁ~!!」
ただ、僕の話している事が全て”本当のこと”だとは限らないよ?
これから楽しみだねぇ……盗賊くん♪
 




