第14話 召喚魔法の真実
「あー、すまない。年利60%は来年からという認識だったが……」
「いえいえ。実はその計算に”間違い”がありまして……大変申し訳ないです」
「間違い?」
何故か口角を上げているローエン。
ハッキリ言ってでたらめだ。
借りた時期や年利などの契約もすべて把握しているし、計算が狂うなんて事は一切ない。
今すぐ訴えればこちらの正当性を主張できるだろう。
しかし、
「っ!!」
急に現れた殺気。
一つだけではない、二つ三つとどんどん増えていく。
ドアの向こうに何かがいる。
気づけば僕達は謎の殺意に囲まれていた。
「ですが契約書に書かれている事は、守っていただかないと困りますから……」
法外な契約を結び、武力を利用して更に脅しにかかる。
前世の世界なら速攻で捕まるけど、ここは法も警備もしっかりしてない異世界。
違法行為もバレにくいってワケだ。
「不満があれば何なりとお申し付けください……命の保証はできませんが」
ここは借りる相手がいない貴族のたまり場、つまり最後の砦だ。
失えばお金を調達することはできず、待っているのは破産する未来のみ。
選択肢は存在しない。
自分の首を繋げるために、お金を借り続けるだけだ。
「この書類以外で契約に関わるものは? それと、ここに記載されている金額が正しいって認識でいいよな?」
だが僕は取り乱さなかった。
今できる事、確認できる事を冷静に一つずつ確かめていく。
「何か気になる点でも?」
「もう間違いはなくしたいって話だ。何度も再計算してたら、両方めんどくさくて仕方ないだろ?」
「そういう事でしたか……ご安心ください、契約に関するのはこの書類のみで、内容も”正確”ですよ」
正確、ねぇ。
嘘ばっかりと愚痴を言いたくなるが敢えて抑える。
イヴが使えない以上、ここを一人で突破するのは難しい。
だから、今後の為に契約に関する話は”確定”させたかった。
「なら安心した。複製した書類を貰っていいか?」
「こちらを」
「助かる」
懐から取り出した書類を受け取る。
内容も先程目を通したものと一切変わりはない。
「では失礼する。色々とすまないな」
「いえいえ。お金を返す事以上に大事なこと等ありませんから」
全てが終わったのを確認し、僕はソファから立ち上がる。
イヴは相変わらず立ったまま動かなかったので、僕が肩を掴んで無理やり歩かせる。
「また会いましょう。クロト様」
その様子をローエンは不敵な笑みで見送っていた。
「すみません……ご主人様の前だというのに取り乱してしまいました」
ガーランド領に帰った後、馬車の中ですら喋らなかったイヴが最初に発したのは謝罪の言葉だった。
頭を深く下げ、表情の変化が少ない顔が悲しみに包まれている。
イヴにとってローエンという男はそれほど取り乱す相手だったのだろう。
「謝る必要はない。そうだな、申し訳ないと思っているなら二つ、僕の命令に従え」
「なんなりと」
僕は頭を下げる姿を見たいワケじゃない。
真実を知りたいだけだ。
イヴの頭をあげさせ、僕は二つの命令を出した。
「一つ目、何故ローエンに怯えたのか」
「っ!!」
「洗いざらい全部話せ。逃げようとしたら許さんぞ」
「……かしこまりました」
意図的に声を低くさせ、目を鋭くさせて圧をかける。
イヴも主人の覚悟を悟ったのか、少し嫌そうではあるが僕の命令を飲んだ。
「そして二つ目は……」
ニヤリと笑う僕の表情にイヴは珍しく怯えている。
くくっ……覚悟しろよ?
ローエンのいるあの土地から素早く離れるべく、休む間もなく馬車で移動したから結構疲れている。
だから、この命令で僕は癒されるとしよう。
「今日の下着を教えろ。できる限り詳細に」
「はい?」
これぞ主人の権限。
美少女メイドから得られる最高のご褒美だ。
「えっと、上下ピンク色でレースがついており、ショーツの中心には白いリボンが……」
「二つ目って言ったろ。なんで先に言うんだよ」
「こっちの方が話しやすかったので」
一つ目の隠し事よりスラスラ話すじゃないか。
まぁいい。
イヴが可愛らしい下着を履いてるという事実で、僕は凄く癒されたし。
「ま、僕は大満足したからいいけど。イヴも少しは緊張がほぐれたんじゃないか?」
「え? そういえば大分落ち着いて……ご主人様のスキンシップが安らぎになるとは思いませんでした」
緊張を解くのはついでだ。
あくまで自己満足の命令にすぎん。
直接見たいとか言ってもよかったなー、とは思ったけど。
「で?」
「ローエンに怯えていた理由ですね……分かりました」
イヴの下着は後のお楽しみだ。
本題に入ろう。
「私とローエンは侯爵令嬢と執事の関係でした。両親を亡くし、領主となった私を彼は支えてくれました」
「イヴは領主だったのか?」
「えぇ。領民の不満を解消できない、ダメな領主でしたが……」
そういえばイヴが”現状の領地”について話す事はあっても、”今後の領地改革”について意見する事はほとんどなかった気がする。
大体僕の独断で進めていって、イヴはサポートにまわるのが基本。
(やたら大人しいと思ったら……過去の失敗が原因か)
もっと色々言えばいいのに、と僕は少しだけ不満を思っていたが……
原因がわかってスッキリした。
「借金は増え続ける、トラブルは発生し続ける、他貴族からも遠ざけられ、孤独になった私は……国から爵位を剥奪されました」
まあ、仕方ないか。
国からしても、利益を出さない領主を放置するワケにいかないし。
最後まで抵抗したと思うが、イヴに崩壊した領を立て直す力はなかったらしい。
「爵位を失い、実家が別の貴族の物になった時……ローエンは言いました」
そしてイヴの表情が今まで以上に険しいものとなる。
「”ようやく貴方を利用できる”」
利用……って事は領の崩壊もローエンの計画だった?
ローエンはイヴに何かがある事を知っていたのか?
「突然私の意識は失われ、目を覚ました時には……薄暗い研究室にいる魔族達の姿でした」
「は?」
だが、話は予想外の展開へ進んでいく。
「ちょっと待て、それじゃあローエンは魔族なのか?」
「……はい」
妙な赤黒いオーラはそれか!!
平静を保ちつつ、殺気のようなものを発する姿に違和感を感じていたけど、あれは魔族である事を隠していたから。
闇深いってレベルじゃないぞ……
「魔族は私に受け継がれた”召喚魔法”が狙いでした。構造を理解し兵器として運用する……そのために私は拷問レベルの実験を……」
イヴの呼吸が荒くなり、声のボリュームも少しずつあがっていく。
「何度も薬を投与され、過剰な魔力を注ぎ込まれて、あげくストレス発散の為に何度も拷問を……あああああああああ!!」
「イヴ!!」
そして完全に正気を失い、叫び続けた。
僕はそんなイヴを無理やり抱き寄せる。
「あぁ……あああああああああっ!!」
「落ち着け。一旦呼吸しろ、ゆっくりだ」
「はぁ……はぁ……」
背中をトントンと叩き、イヴに深呼吸をさせて落ち着かせる。
尚も暴れ出そうとするが、僕はイヴを抱きしめる力を強めて存在感を与え続けた。
やがて彼女の動きは収まり、呼吸も少しずつ安定していった。
「ここには僕以外いない。わかったか?」
「……はい」
かなりトラウマになってるみたいだな……
目元からは涙がこぼれ落ち、震えも止まっていない。
強く呼びかけたおかげで、少しは落ち着いてくれたが……
とりあえず、一番気になった事から聞いていくか。
「”召喚魔法”って言ったな? あれはどういうものだ」
「……目を閉じてください」
言われた通り目を閉じる。
すると、
「っ!?」
なんだこの景色は!!
目を閉じた先に、廃墟のような空間が見えるぞ!?
崩れた岩に囲まれた大きな空間。
その空間には存在感がありすぎる、謎の巨大な物体が立っていた。
「まさか……」
前世で似たような物を見たことがある。
というか、この世界に存在していいのか? と疑うレベルだ。
召喚魔法、という事はコイツを召喚するんだよな。
未だ信じられない謎の物体を一言で表すなら、
「ロボット……なのか?」
赤黒い鎧に身を包む、二足歩行ができそうな人型の兵器。
前世でいう”ロボット”が、僕の目の前に存在していた。




