第1話 欲望の目覚め
新連載です、よろしくお願いしますm(_ _)m
「……はっ!?」
目が覚めた時、そこは物が少ない部屋だった。
窓やドアの装飾がどこか中世のヨーロッパみたい。
……ヨーロッパみたい?
いつ、そんな場所に?
旅行に行った覚えはないぞ。
ここはどこなのかと辺りを見回していると、壁にかけられた全身鏡が目に入る。
「これが僕……? 誰だこの可愛いイケメン!?」
黒髪ショートで外国人みたいな金色の眼。
身長が少し低いが、外見が中性的なのでこれはこれでありだと思う。
てか、なんだこれ。
僕の姿と全然違……うっ!?
「ああああああああああっ!?」
突如として流れ込んでくる、僕じゃない記憶の数々。
自分だけど自分じゃない記憶が違和感を生み、酷い頭痛に苦しめられる。
耐えがたい苦痛は二~三分だけ続き、そこからは徐々に収まってくれた。
「はぁ、はぁ……」
「ご主人様、大丈夫ですか?」
と、荒い呼吸をする僕の元へ、ドアを開けて一人のメイドが近寄って来る。
長い黒髪にメガネをかけ、知的な印象を与える美少女。
そして身体は上から下までしっかり肉がついており、思春期の男性ならイチコロにできるスペックを持っていた。
こんなに美しいメイドに会った事は一度もない。
だけど、今の僕の身体は会った事がある。
何故なら持ち主の記憶がそう言っているから。
(そういうことか……)
分かった……ようやく分かった。
僕がどうなっているのかを。
「転生したのか、僕は」
クロト・ガーランド。
この身体の名前だ。
僕は異世界という新たな地で、知らない男性の肉体に転生してしまったらしい。
「記憶の混乱ですか。一度、聖女様に診てもらった方がよろしいかと」
「大丈夫……もう落ち着いたし、何よりイヴの説明が分かりやすくて助かったよ」
「ありがとうございます」
イヴというのがこのメイドの名前。
僕はイヴから記憶の整理も兼ねて、クロト・ガーランドという男について教えてもらった。
年齢は18歳。
立場は辺境伯でここの領主。
両親は僕のワガママっぷりと家の借金に耐えかねて辺境伯の爵位を僕に譲り、この土地へ送ったのだという。
ワガママ、ねぇ。
「フェルナン帝国の領地だっけ? 国の一部を支配しているのに、人がほとんどいないって事は」
「事実上の追放ですね。この辺りの土地は作物が育ちにくく、魔王軍との距離も近いですから」
「広さだけはあるけど……なぁ」
この領地を保有するフェルナン帝国。
一応、この世界で二番目に大きい国らしい。
軍事力はあるし、お金も豊富で人もいっぱい。
だけど魔王軍が現れてからは立場が急変した。
魔王軍の力は凄まじく、一番近かった国はそのあまりの強さに敗北し、今では七~八割を占拠されてる状態らしい。
フェルナン帝国も魔王軍に対して黙ってはいられず徹底抗戦……したはいいけど敗北。
幸いにも魔王軍とフェルナン帝国の間に支配されかけた国が挟まってたおかげで、本格的な侵攻まではされてない。
が、侵攻までは時間の問題。
魔王軍を恐れたフェルナン帝国の一部貴族や住人は国外に逃亡しちゃって人材不足に。
軍事力も、お金も、人も。
みーんないなくなって、絶賛弱体化中ってワケだ。
「若い僕に辺境伯を任されるって事は本当に人がいないんだね」
「従者も私のみ。住人は逃げられない者か難民、違法に住んでいる盗賊で構成されています」
「実質寄せ集めじゃん、それ」
本当に人やお金がないから土地の管理権をバラ撒いてる状態らしい。
確かに管理する者がいたら税金が入り、その一部が収入として帝国に入る。
楽して金稼ぎできる素晴らしい策だ。
ただ、任される側からしたら溜まったものじゃないけど……
「しかし珍しいですね。ご主人様が領地について真面目に考えるとは」
「……まあね」
あぁ、そっか。
元のクロトは不真面目でワガママだったから、皆から嫌われてるんだっけ。
この土地の領主を任されたのも、勝手に好き放題して勝手に死んでくれって両親からのメッセージか?
(で、領地の改革が必要として。やらないといけない事は)
お金を集める。
人を集める。
だけどその為には魅力となるものが必要。
魅力を作るには安定した基盤が必要で。
その基盤を作るには、貧しい土地をなんとかする必要があって……
「めんどくさい」
「はい?」
クソ真面目すぎてやる気がでない。
生きる為に働いている感じがして、僕は物凄く嫌だった。
(転生してもこれかぁ……)
前世でもそうだ。
クソ真面目に生きて、
欲望も我慢して、
誠実ないい人としてひたすら頑張り続ける。
その結果、何もないからっぽの人生が誕生した。
何のために生きているのか。
何を目的にすればいいのか。
ただ、なんとなくで日々を過ごし続け、気づけば少しずつ病んでいった。
「……」
「ご主人様?」
ふと、横にいたイヴの身体を見る。
大きい。凄く大きい。
少し動く度にぷるんと揺らし、存在感をアピールしている。
ブラジャーとメイド服という二重の装甲をまとっているにも関わらず、感じてしまうこの重量感。
いいなぁ。
この禁断の果実を、好き放題できたら凄く幸せな気持ちに……
「胸、揉んでいい?」
「え? 構いませんが……」
つい欲望を口にした。
そしてあっさりOKされてしまった。
マジかよ。
あっさり幸せに手が届いたぞ。
いいのか本当に。
「では……」
イヴはいいって言ったんだ。
ここはしっかり堪能するとしよう。
もみっ
「っ……!!」
瞬間、手に広がったのは未知の感覚だった。
小さい手からはみ出すほどの脂肪に全てが包まれる。
指先から手首まで。
あますことなく感じるその柔らかさは、揉む度に程よく反発し至高の体験を与え続ける。
これが胸……女性の胸。
クソ真面目に生き続けて、女性とそういう関係になった事がない僕からすれば、一つの幸せな世界を知った気分だった。
「満足しましたか?」
「あぁ、凄く」
かなり恥ずかしい事をされたハズなのに、イヴの表情は一ミリも変わっていない。
しかし、これが女の子の胸……
いけない事をしたけど、心の中は幸せな気持ちでいっぱいだ。
女の子って、こんなに素晴らしい存在だったのか。
そして僕は気づく。
(欲望まみれでいいじゃん)
せっかく生まれ変わったんだ。
クソ真面目に生きて、楽しくない人生を送った前世とは違う。
今回は欲望の為に、欲望を叶える為に生きよう。
清く正しい真面目な領主は嫌だ。
やるなら欲まみれな悪徳領主を……
「イヴ」
その為にはやっぱり領地改革は大事だ。
ざっと見ただけでもここは酷い。
「僕には目標ができた」
「なんでしょうか?」
大規模な改革をして税収を安定させなければ。
そして安定して収入が入ったら……
「最高のハーレムを作るぞ」
「はい?」
目指すは女の子に囲まれた環境。
女の子に好き放題できる領主。
欲望に忠実で、欲望を叶えられる最高の環境。
第二の人生なんだ。
僕は好き放題やりたい。
「興奮したら喉が渇いたな……イヴよ、甘いジュースを持ってこぉい!!」
「かしこまりました」
イヴの胸によって何かが目覚めた僕は、こうして欲望まみれの領地改革を開始する事となった。