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第7話 親睦

色々な方に読んでいただくために投稿時間を試行錯誤しています。少しでも面白いと思っていただけた方は是非ブックマークをして更新をお待ちください!

「──おはようございます! エドガーさん!」

「お、おはようございます……」


 目を開けると枕元にメアリーがいた。何やら嬉しそうな顔をしている。


「見てくださいエドガーさん! 雨です! 本当に雨が降っていますよ!」

「おお、そのようですね」


 窓から外を見ると、雨が地面を激しく打ちつけていた。これだけ降れば畑も十分潤い、乾いていた水路も満たされることだろう。


「──おい! あんたら! えっと……、エドガーさんよ!」

「はい、何でしょうか……?」


 突然扉を叩かれたので私は扉を開け応対する。そこには雨で頭も肩も濡らしたベンの姿があった。


「本当に降りやがった! 本当に雨が降ってるんだ!」

「ええそうですね」

「疑って悪かったよ! あんた一体何者なんだ! 天候操作までしちまう大魔導師様かなんかなのか!?」

「私はただ空に浮かぶ雲から天気を読んだだけですよ。これも全て先人たちの残した知恵のおかげです」


 私はそんな特別な力がある訳じゃない。天候の予測については戦争において重要な要素となるから勉強しただけに過ぎない。


「そうか……。いや、まだ半分は信じられねぇが、あんたが本当にそんな凄い人だと分かった。……それと昨日は何の礼もできなくて申し訳ない気持ちで一杯だった。おかげで助かったよ。良かったらこれ受け取ってくれ」

「そんな……。私はただ移住のご挨拶のつもりで差し上げたのですから、どうかお気になさらず……」

「いや、そうはいかねぇよ」


 ベンは私の手にかごいっぱいの食べ物を押し付けた。

 中には野菜やパン、干し肉などが入っている。厳しい暮らしをしていると言うのにこんなに受け取る訳にはいかない。


「あんたらもワケありなのは分かってる。これから収穫までの間の食べ物なんかもってないだろ? 毎日獣が取れるとは限らない。だからこれは助け合いだ。あんたは俺たちが不安な時に食べ物を持ってきてくれた。今度はあんたらが安心して暮らせるまで少しでもその手助けをしたい。……どうか受け取ってくれ」


 彼のそこまでの熱情を前に、これ以上断るのは失礼になると思った。


「……分かりました。それでは頂いたこれらと私たちが取った猪肉で料理を振る舞わせてください。メアリーが作る料理はとても美味しいんですよ」

「え、エドガーさん! そんな人様をおもてなしするほどの腕では……!」


 メアリーは私の腕を掴みバシバシしてくる。

 だがこうして積極的に他の大人と関わる機会を設けた方が良いだろう。それは彼女が今後生きていく上で、トラウマを乗り越え社会での居場所を見つけるのにきっと役立つ。


「……そこまでエドガーさんが言うなら食べてみたいと思ってきたな……。嬢ちゃん、いいかい……?」


 ベンは膝を曲げて目線の高さをメアリーに合わせ、初めて笑顔を見せてメアリーにそう言った。不器用な作り笑顔ではあったが、彼の優しさが滲み出たような行動に思えた。


「え、えっと……、その……、あまり期待はしないでくださいね……」


 メアリーは私の後ろに隠れモジモジしながらも引き受けてくれた。


「ところでエドガーさんよ、あんた、酒はいける口かい?」

「ええ、まぁ、付き合いで飲むぐらいなら……」

「そうか! それじゃあちょっと今日はエドガーさんの歓迎会代わりに酒を開けるから一緒に飲もうや!」


 そう言い残しベンはへへへと鼻を擦りながら一度自分の家に戻っていった。


「それではメアリーさん、こちらも準備をしましょうか」

「そうですね!」






 それから私とメアリーが手分けして料理の用意をしていると、小走りで酒瓶を抱えたベンがやってきた。


「へへ、久しぶりに楽しい酒が飲めそうだ」

「そこの椅子にお掛けになってお待ちください」

「おう、ありがとうな」


 ベンは机の上に宴会のセットを広げ始めた。


「いい匂いがしてきたなぁ」

「もう少しでできますよ」


 メアリーは次々に完成した料理をテーブルに運ぶ。品の中には酒のツマミになるものもあった。

 急遽作ることになったにも関わらずこうした気配りができるのは、きっと元の家庭で昔は大切に育ててられていたのだろうと思う。

 こうして彼女の優しさや魅力を知る度に、それを壊してしまったという罪の意識が真綿で首を絞めるように重く心にのしかかってきた。


「はい、これで全部です!」

「おお、これは凄いな!」

「さあ、エドガーさんも食べましょう?」

「え、ええ……、そうですね……」


 机の上に並んだ料理の数々は、限られた材料から作られたにも関わらずまるで店でオードブルを頼んだかのように豪華に見えた。


「──それじゃあエドガーさんとメアリーちゃんの新しい生活を祝って、乾杯!」

「乾杯!」

「かんぱーい! ……って、私はジュースですけどね!」

「ははは!」


 久しぶりの酒だというのに料理が美味しすぎるせいでつい飲みすぎてしまう。

 だが出会ったばかりのベンと打ち解けるにはアルコールはいい橋渡しなってくれた。


「……いや、そうか! エドガーさんは魔法が使えるのか!」

「そうなんですよ! ワイルドボアを仕留める姿はとても格好良かったです!」

「ああそうだ! それだが、村の皆も猪肉をありがたく貰っていた。明日からは農作業で外に出ると思うから、その時何かお礼されるかもな。うちの村は皆いいやつばかりだから、遠慮せず受け取ってくれ!」

「そうですか。それでは楽しみにしています」


 結局その日は夜まで宴会が続くことになった。

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