【完結】追放された最強錬金術師、ギルドマスターとして規格外の新人育成〜お前らが栄養剤と思って毎日作れと言ってくるお手製ポーションは特級エリクサーなんだけど、本当にもう俺がいなくても大丈夫か?〜
「レオン、お前はもういらない」
パーティーリーダーのハルトが俺にそう告げた。
宿の一室、周囲のパーティーメンバーも、誰も何も言わない。
パーティー結成から五年、ここ数年は毎日ポーションづくりを求められてきて、戦闘時は後ろに引っ込められてきた。
完全な裏方、いつかこうなる予感はしていたが……。
「いいのか?」
「は?」
俺の確認に目を見開くハルト。
「もうポーションはなくなることになるぞ?」
「何を言うかと思ったら……」
俺の指摘に答えたのは女魔術師のミネス。
「あのねぇ、貴方がポーションづくりをしていたのは、戦闘で役に立たないから、せめて仕事をしてると思わせてあげるためのハルトの優しさよ。それで勘違いしちゃったなら哀れとしか言いようがないわね」
戦士グルドがそれに続く。
「可哀想になぁ? 何も出来ねえからあんな栄養剤程度で役に立ってると思いこんでたわけだ」
なるほど……。
「わかった。脱退は構わないけど、今後はこのポーション、自由に売るけどいいんだな?」
「はいはい。好きにしろよ。というかポーションの専売契約だってお前のためにしてやってた配慮だっての。いい加減気付けよ」
「ああ、じゃあ、元気でな」
「待てよ」
宿を去ろうとした俺にハルトが声をかけてくる。
振り返ると……。
「忘れもんだよ!」
ポーションが俺の頬をかすめて壁に叩きつけられた。
ガシャンと音がなり、中の液体が周囲をびしょびしょに濡らした。
「ぎゃはは! いいねえ。もうこんなもんいらねえもんなぁ!」
「そうね……」
グルドとミネスも続けて持っていた瓶を叩き割る。
ご丁寧にミネスが魔法で蒸発させ、掃除も完了。もう彼らに、俺のポーションは一つもなくなった。
「あばよ! お前がいなくなれば俺たちは今以上に活躍できるし、稼げるんだ」
「せいぜい栄養ドリンクの販売で食いつなげることを祈っててあげるわ」
「そもそも夜に宿を出て生きていけるかもわかんねえからなあ? 俺たちの介護なしじゃ」
三人が口々に好き勝手言う言葉を背中に受けながら、俺はパーティーを離脱したのだった。
♢
「さて……ラッキーだった」
雑用ばかりで前線に出ることがなくなって二年。
ハルトの頭にはもう残っていないようだったが、俺を前線から退けたのはあいつの指示だ。
新人育成、という名目で、ちょうどミネスとグルドが加入したタイミングで俺を後ろに下げた。
その代わり補助役として、錬金術師である俺の特技を生かしたサポートを頼まれ、用意したのがこのポーションだった。
「いや、ポーションのくくりじゃ、ないんだけどな」
あいつらが二年間”栄養剤”と思って飲んでいたものは、身体能力を倍以上引き出す秘薬だ。副作用は強制的な超回復。
副作用込みで有用な軌跡の薬品、それがこのポーション……いや……。
「錬金術的にいえば、エリクサーか」
飲み薬の中でも著しく高い効果を誇るものを、錬金術師はそう呼ぶ。
身体能力の向上と成長を促す薬。
正直に言えばこれだけで食うのに困らない稼ぎが見込めるんだが、そうしなかったのはハルトが俺に”専売契約”をさせていたからだ。
パーティーメンバー以外へは提供しない。その代わり一定の金額を支払い続けるという契約。
それも今日で終わり……。
「さて……どこかで店でも開くか、それとも……」
薄暗い街を歩きながら、これからの可能性に胸を膨らませていた。
♢
翌朝、早速冒険者ギルドへ来た。今後の計画を考えていたら早く目覚めてしまったのだ。
「あ、レオンさん! どうしたんですか? こんな時間に」
「実はな……」
受付嬢に声をかけられパーティーを脱退した旨をつたえたのだが、俺の想像していた以上に驚かれた。
「レオンさんを手放すなんて……レオンさんのポーション、いえ、エリクサーの価値はギルドも認めていますし……もちろんパーティーメンバー外には知らせていませんでしたが」
「それももう知らせてくれて良くなった」
専売契約も今はない。俺が自由に売っていいのだからむしろ知らせてくれたほうが助かる。
「今後どうされるのですか? 希望でしたらパーティーを斡旋しますし、しばらくソロでと言うならギルドが全面的に強力しますよ」
「そこまでしてくれるのか?」
「当然です。レオンさんのエリクサーは大変貴重ですし、もしも何かあってしまえばギルドとしても大きな損失となってしまうでしょう」
どうやら想定していたよりも公営ギルドは俺のことを高く評価してくれていたらしい。
「競合するから言いにくかったんだが、私設ギルドでも作ろうと思うんだ。世話になったし出来るだけ迷惑かけない場所にしようと思うんだけどいい場所あるかな?」
「私設ギルド……! いいじゃないですか! レオンさんは盟主にうってつけですし、正直我々公的なギルドではサポートしきれない冒険者でも、レオンさんが錬金術でサポートして育成してもらえたら、地域が活性化してこちらも助かります!」
良かった。ギルド側も俺の提案を悪く思っていないようだ。後は元Sランク冒険者のギルドマスターが首を縦に振ってくれればいいのだが。
「詳しいことはマスターをお呼びするのでお話してください」
「助かる」
本来ギルド冒険者が立ち入れない奥の部屋へと案内された。
♢
「……ほう。ならばとっておきの場所がある。ここから遠くないから見てみるか?」
「ロックの仕事は良いのか?」
「まさに今が仕事中だ。レオンが私設ギルドを作るならこちらとしても協力したい。いわばお前に時間を投資しているようなもんだからな」
ガタイがよく気風の良いギルドマスター。
普段から仲がよくこうして喋ったりするんだが、いくら仲が良くても仕事の話は誰にでも平等にするところがコイツの良いところだ。
「随分と買ってくれるんだな。よろしく頼む」
「馬で半日くらいの場所になっちまうが……お前なら走ったほうが早いな」
「まぁそれはそうだが……半日走るのか……」
「なに、俺に着いてくりゃすぐだ」
「おい……」
ロックは一線を退いたといえどSランク級の実力はまだ健在だ。
そのスピードについて来いときたか……。
「どうした? 馬を借りるか? 半日もかかっちまうがな」
「いや……走るよ」
追いかけるのがやっとだったが、体も鈍っていたし良い運動だ。
流石に息は上がったが、昼になる前に目的地へ到着した。
「ここって……」
「あぁ、今のギルドが移転する前の建物だ。ここじゃあ公式ギルドとしては不便だったから今の場所に移転したが、環境はこっちの方がいいかもしれねぇな」
ロックの言う通り建物は古いが、ある程度整備すれば十分に使えそうだ。
何よりも周りに何もない。これならば外で訓練することだってできる。
「ここならそれなりにやっていけそうだな。だが、持ち合わせが少なくてな……支払いは分割で購入もしくは売り上げが入るようになってからでも良いか?」
図々しいことは承知の上だ。
金はハルトたちに奪われて無いし、ソロでモンスターを討伐していったとしても建物と土地を購入する金額まで稼ぐには時間がかかってしまう。
「ローンを組んでもいいんだが、お前、あのエリクサーは何本ある?」
「ん? ああ、手元にあるのは7本だ」
「よし。全部買う。というか、それが建物代でいい」
「はぁ!? いくらなんでも」
建物を購入するのには安すぎて割に合わない。ロックが友情割引をしてくるはずもないんだが。
「ああ、もちろんそれだけじゃぁねえ。専売契約だ。だが、お前のとこのギルドでも売っていい」
ロックの目は本気だ。
それも、しっかりと仕事用の目だった。
つまりそれで採算が取れると見込んでいるわけだ。
「俺のとことお前のところ、そこでしか手に入らねえ。しかも安い値段では渡さねえ。おそらくAランクでも上位じゃねえと手が出ねえな。お前の元パーティーはAランクだが下位だからな。喉から手がでるほど欲しくなるだろうよ」
「良いのか?」
「ああ。お前のとこに若いのは送り込む。育ったらこっちの仕事もいくらか受けてくれよ?」
「願ったり叶ったりだ」
♢
ロックのおかげで建物も人材も手に入った。
「トム、タン、キャサリー、シンディー。今日からここでよろしく頼む」
建物は長年使われていなかったようで、中はホコリだらけで荒れている。
「すまないが、みんなは清掃と備品の調達を頼みたい。俺はエリクサーの錬金を全力で行う」
「「「「はい」」」」」
エリクサーは丸一日かければ五本錬金できる。
本格的に稼働すればそんな時間は取れないんだ。ロックのとこに出すことを考えれば今のうちにできるだけ量産したい。
私設ギルドの運営を始めるまでの間、俺はできる限りエリクサーを錬金して、働いてもらう従業員たちには建物の整備と清掃を行ってもらった。
数日間、みんなが一生懸命に働いてくれたおかげで、見違えるほど綺麗になった。
それと同時に、俺もエリクサーづくりで進展が得られていた。
「ありがとう! これなら冒険者たちも来てくれるだろ」
「マスターもお疲れ様です……。まさかあのエリクサーを短期間でここまで作られるとは驚きです……」
受付嬢として雇ったシンディーがそう言ってくる。
そう。俺はここ数日で、エリクサーの製造方法の改良を行っていた。結果……。
「まさか百本以上作るなんて……」
「やればできるもんだな……それにしてもシンディー。大丈夫か? 顔色が良くないぞ」
「いえ……。マスターの働きぶりを見ていればこのくらいなんともありません!」
なるほど。
俺が働きすぎるのも良くないわけか……。
「ずっと掃除ばっかりで悪かったな。これ一本ずつサービスだ。遠慮なく飲んでくれ」
それにせっかくだ。この改良版エリクサーの効果も見たい。
「ちょっとレオンマスター! これエリクサーじゃないっすか! 流石にもらえませんよ!」
「トムの言うとおりですぜ! 売り物でしょう!?」
「飲んでみたい気持ちはある。でも安易に受け取れない」
四人からは遠慮されてしまう。
「気にせず今日は飲んでくれ。売っていく側が味や効果もわからないまま説明できないだろ? 覚えるのも仕事だ。それに疲れも吹っ飛ぶ! 飲んで明日からまた元気に頼む」
「「「「ありがとうございます」」」」
ゴクゴクと一気に飲むものもいれば、キャサリーのように匂いを嗅いだり舐めたり色々と調べながら嗜んだりと様々だった。
「マスター、エリクサーに能力開花の効果もあります?」
キャサリーが首を傾げながら尋ねてきた。
「いや、流石にそんなものはなかったはずだが」
「今まで魔法を使えませんでした。ですが今は、手に魔力を集中すれば魔法を発動できる気がするのです」
試しに外に出て魔法を放つ素振りをしてもらったのだが、手から電撃が発動し、岩に命中したのだ。
彼女は元々魔力は持っていたが、魔法は使えなかったはず。
「マスター、間違いなくエリクサーに付与がついている。数日の努力の賜物」
普段は最低限の言葉しか話さなく大人しいキャサリーが初めて笑ってくれた。
俺も嬉しい。
まさかエリクサーにそんな付与まで出るとはな。
♢
準備が全て整い、私設ギルド運営初日なのだが……。
最初にやってきたのは、ロックからの紹介でやってきたという女冒険者ー人だった。
「あ……あの、私ソフィアと言います。レオンさんが私設ギルドを作ると聞いたのできました。是非、私を弟子にしてほしいんです!!」
「弟子?」
「はい! ギルドマスターのロックさんからも推薦してくれたんです! 私のような初心者はこっちで活動した方が伸びると。レオンさんの力をお借りすれば活躍できるはずだと!」
ロックの推薦か。
公的なギルドと私設ギルドの最大の違いは、専属冒険者の有無だ。
仕事の斡旋や生活物資の供給が目的であるギルドの機能に加え、私設ギルドは冒険者の囲い込みを行う。
専属冒険者は私設ギルドでの仕事を優先したり、一部の売上を収める必要がある代わりに、ギルドから様々な恩恵を得るのだ。
ギルドによっては固定の給与を出して冒険者を囲い込む場合もある。
そして俺が作ったこのギルドでは、エリクサーの提供と、それに基づいた育成が、専属冒険者のメリットだった。
「わかった。ソフィアはソロ冒険者なのか?」
「はい。実は……私が弱いせいでメンバーに加入させてくれるところを見つけられなかったんです」
「一回腕前を見せてくれるか? 俺と模擬戦してもらいたい」
「は……はい!」
緊張で声を震わせるソフィア。
従業員組も固唾を呑んで見守っていた。
「武器は何が良い?」
「剣術を少々やっていましたので剣がいいです。普段は主に魔法ですが」
見た目通り魔法使い。
だがパーティーを組んでいるわけじゃないなら、多少なりとも武器は扱えたほうがいいだろう。
模擬戦だからソフィアに怪我を負わせたくはない。
「ちょっと持っている剣見せてくれるか?」
「え? あ、はい」
見せてもらった武器を実際に持ってみたり振ってみる。
「なるほど……、大体分かった」
これを参考にして、重量や重心、形は全く同じ模造剣を二本錬金した。
片方をすぐにソフィアに手渡した。
「す……すごいです! い……一瞬で!」
「どうだ? 振り心地に違和感があれば微調整できるけど」
「いえ……これなら……あ、でも……」
ソフィアが言いよどむ。
「なんでも遠慮なく言ってくれ」
「で、でしたら……魔法の伝導率が少し、良くなりすぎているんです」
ソフィアの剣は一部杖としての効果も持っていた。
伝導率はたしかに元のものを下回らなければいい、くらいで考えていたんだが……。
「よく気づいたな」
「いえ……昔から道具のことだけはわかるんですが……」
「良い才能だ。じゃあ……」
ソフィアから作った剣を受け取って、もう一度錬金を施す。
「これならもとの剣のまま、使い心地に差が出ないだろ?」
「はいっ!」
道具の差異に細かく気づく才能は重要だ。
特に俺の使う錬金術では、最も重要視される能力といってもいいだろう。
もしかするとソフィアは──。
まあ今は、模擬戦に集中しておこう。
「これなら俺もソフィアも死ぬことはないから遠慮なく全力でかかってきてくれ。魔法も状況に応じて使って構わない」
「はい!」
「じゃあ、コインが落ちたらはじめだ」
錬金したコインを指で弾く。
一瞬見入るようにその光景を眺めたソフィアだったが、すぐに剣を握って集中する。
「行きます!」
ソフィアの剣が炎を纏う。
なるほど確かに、この攻撃には伝導率の僅かな差異が大きな影響を及ぼすだろう。
こちらも同じく剣に魔力を伝わらせる。
「はぁぁぁぁ!」
──ガキン。
模造剣同士が激しくぶつかり合う。
同時に纏っていた炎がこちらを包むように動き出したが……。
「なるほど」
「えっ……」
予め纏わせていた魔力に水属性を付与することでソフィアの魔法はあっけなく焼失する。
なるほど。ソロの実力としてはCランクの下といったところか。
パーティーを組めばCランクの依頼は大抵こなせるだろう。
魔力もそこそこあるようで、育てがいがありそうだ。
「はぁ……はぁ……と……とても敵わないです」
地面に倒れてしまった。ソフィアくらいの実力ならば冒険者パーティーに加入できそうな気もするがな」
「よし、ではこれを飲んでもう一回模擬戦をしてみるか」
持っていたエリクサーを渡そうとしたが……。
「え……!? 良いんですか? 一瓶金貨十枚も必要なんですよね!?」
「あー、ロックの方はそういう価格設定にしたんだな」
金貨十枚はAランク相当の依頼を達成した報酬額とほとんど同じだ。
Cランクがやっとのソフィアではそう簡単に手が出るものではないだろう。
だが……。
「ソフィアは俺の弟子になったんだろう? この程度ならそのうちいくらでも稼いでもらうから心配するな」
「わ、わかりました……」
遠慮がちに受け取るソフィア。
エリクサーなんて消耗品だ。使わずにいるのは宝の持ち腐れになる。
ソフィアの才能は十分感じたし、このギルドはエリクサーで増強した力を使って稼ぎを出すのが基本方針。
専属冒険者にはこうして支給することはもう、決定済みだ。
「うわぁ!! 凄いです! 疲れが一気に吹っ飛びました! おまけに力が漲ってくるようで……」
「よし、じゃあ続けてみようか。今度は俺も本気を出すが」
「え!?」
「はぁぁぁぁ!!」
俺は先ほどより強力な魔力を剣に伝わらせる。
魔力による光で輝くほどまでに強化された剣をソフィアに向けた。
だが、ソフィアの剣はそれよりも激しい輝きと火炎で包まれていた。
更に、ソフィアは先ほどとは比べものにならないくらいのスピードで向かってくる。
剣の素振りは間一髪で避けたが、風圧で生み出された火炎が後方の岩にまで当たり、若干溶けていた。
「す……すごい! エリクサーの効果がこ、これほどまで……」
「ふう……流石にこの力のぶつかり合いはお互いに危険だな。ソフィアの戦い方は大体わかったからここまでにしておくか」
本人には言わないでおいたが、模造剣だけで戦っていたら俺は負けていたかもしれない。
いくらエリクサーを使用していたとはいえ、負けてしまっては師匠としての面目もないからな。
「エリクサーがここまですごいとは……」
いや、これはエリクサーの力だけではない。
ソフィアに元々秘められていた能力が、エリクサーを飲んだことで引き出されたのだろう。
俺の錬金したエリクサーは飲んだ人によって、魔法習得や能力開花など様々な効果が出るようだ。
「今のソフィアならソロでもBランクのモンスターなら難なく倒せるはずだ。エリクサーの効き目もまだ数時間保つから試しに討伐してみるか? 最初は危険だから俺も同伴する。丁度良い依頼がきているんだ」
ギルドランクB相当のジャイアントモンキーを討伐する依頼書を渡す。
「こ……こんな恐ろしいモンスターを私がですか……?」
「大丈夫だ、今のソフィアならきっと倒せる。それに、いざとなったら必ず俺が助けるから身の危険は心配するな」
「はい!」
ギルド自体も俺がいなくともしっかりと運営できるようになっている。ここは彼達に任せ、俺とソフィアで討伐へ向かった。
♢
ソフィアの強化された火炎魔法が、ジャイアントモンキーの顔面に命中した。
最初に模擬戦をしたときとは比べものにならないほどの火力だ。顔まで溶かしてしまったのである。
そして二体目のジャイアントモンキーは、持っていた剣であっという間に真っ二つにした。
「す……すごい! まさか私だけで倒せてしまうなんて……」
依頼書にはジャイアントモンキーを一体討伐のはずだったのだが、二体もいたのだ。
だが、俺が参戦する前にソフィアが難なく倒してしまったのである。
「俺の出番は全くなかったな」
「これも師匠が作ったエリクサーの賜物です」
「買い被りすぎだ。ソフィア自身の能力にもっと自信をもて」
今回の討伐は、今までのソフィアにとっては本来倒すことなどできない相手だっただろう。
だが、そんな相手を二体も倒したおかげで彼女のステータスが更に上がったはずだ。
エリクサーを飲んだ状態で挑めば、次回はジャイアントモンキー程度なら一人でも倒せるだろう。
俺にとって初めての弟子ができ、ソフィアは毎日コツコツと着実に力をつけていった。
♢
「師匠、やりました! ジャイアントモンキーを四体討伐してきましたよ!
「お疲れさま。ソフィアの成長っぷりには驚くばかりだ」
「毎日訓練させていただいたからですよ。師匠の教え方が上手なんです」
ソフィアは剣術をやっていたと言っていたが、独学で学んでいたそうだ。
動きに勿体ない部分が多かったから、少しアドバイスをしたのだが、飲み込みがとにかく早い。
凄い人材を弟子にしたのかもしれないと、最近思う。
「ところで渡した収納ボックスにしっかりと素材を入れてきたか?」
「はい! ここだと迷惑になってしまうので、一旦ギルドの外で出しますね」
物を収納できる魔道具を錬金術で作っておいた。
これを持っていれば、倒したモンスターを持って帰るのに便利なのだ。
訓練場として使っている裏庭へ行き、ジャイアントモンキーを出してもらったのだが……。
「ソフィア……これでは報酬が半減してしまうぞ。しっかりと素材になる部位を剥ぎ取った状態で提出した方が良い」
「すみません! 戦闘は慣れてきましたが、そっちはてんでダメでして……」
申し訳なさそうに言ってくるが無理もない。
俺だって剥ぎ取り作業は嫌いな部類だ。
だが……。
「一流冒険者になるためには、ただ強ければいいってもんじゃないんだ。モンスターの剥ぎ取りも大事な仕事なんだよ。最初は気持ち悪いと思うかもしれないが……やってみるか?」
「は、はい……。頑張ります!」
剥ぎ取り作業は、一流冒険者になるために誰もが経験する最も避けたい作業である。
冒険者はただ強ければいいってわけではない。
だからこそ、このような作業も私設ギルドでは教えることにしている。
彼女も最初は戸惑った表情をしていたが、しっかりと覚えようとしている意思があるようだ。
「最初は気分が悪くなるかもしれない。絶対に無理はするな」
「いえ、たとえ嘔吐してしまってもしっかりとやります!」
無理はしないで欲しい。
まだ伝えてはいないが、エリクサーを飲めば吐き気ならば回復できる。
だが、剥ぎ取り作業に関しては道具に頼らず自力でこなしてほしいのであえて口にしなかった。
本当に気分が悪くなってしまったときの切り札にしておく。
早速必要な道具を持ってきて作業を始めた。
「こっちの部位は食用になる。この切り方では傷がついてしまうからもう少し浅く……」
「え……と、こうですか?」
「……いきなり完璧だな」
基本は一度、多くても二度指摘しただけでソフィアは剥ぎ取り作業も上手くこなしていった。
これさえ一人でできるようになれば、今の彼女なら公営ギルドでもAランク冒険者にだってなれるだろう。
「ふう……ちょっと気持ち悪くなっちゃいましたが、全部終わりました」
エリクサーなしでもやり遂げたのだった。
剥ぎ取った骨や各パーツをしっかりと分けて綺麗に並べてくれている。
ちなみに識別しておくのは剥ぎ取りの基礎なんだが俺は教えていない。
「上出来だ。これならば公営ギルドの依頼も問題なくできるだろう」
「ありがとうございます! これも全て師匠のご教授のおかげです」
「俺は基本を教えただけなんだがな……」
弟子が成長してくれる姿をみれるのがこれほど喜ばしいものなのだと初めて知った。
俺もギルドマスターとして、成長する過程がまだまだ色々とありそうだ。
ソフィアとともに私設ギルドを通してこれからも互いに成長していきたい。
♢ざまぁ
「はぁ……はぁ……おい! ポーションをよこせ! 毒まで喰らってしまった!」
ハルトは助けを求めていた。キングモンキーが振り下ろした拳を間一髪で避けたものの、拳の爆風で吹っ飛んだ上、唾液に含まれている毒まで浴びた。拳が直撃した地面には、大きな穴が開いている。
「あのキングモンキー、なんて強さなの……ポーションはこれが最後の一本よ!」
レオンが抜けた代わりに女魔術師のミネスが後方支援に回っていたのだが、キングモンキー相手では役に立つわけがなかったのだ。
「なんだと!? くそう! 今回のポーションはやけに効きが悪いな……」
「ハルト! 俺も毒を喰らっちまった……半分で良いから分けてくれ……」
「なんだって!? い……一旦撤退だ! 逃げろ!!」
攻撃力が高いグルドまでもが毒を負ってしまったら、キングモンキーを倒す手段など彼らにはない。
なんとか振り切って逃げたものの、三人とも既にグロッキー状態だった。
「うぅ……あの道具屋め……まさかこのポーションただの水じゃないだろうな……全然回復した気分になれないぞ」
ハルトは悔しそうにしていた。
「ハルト……毒が完治した気分がしねぇんだが……」
「グルドもそうなのか! 実は俺もだ。くそう偽ポーションを売るとは何と卑怯な……。とにかく直ぐに治療しに行く必要がありそうだ。このままでは俺たち死ぬぞ!」
普段からレオンの錬金したポーションしか飲んでいなかったため、本来のポーションの効果を忘れていたのだった。
フラフラ状態ではあるが、なんとか街まで戻り公式ギルドの治療専門所へ向かう。
「くそう……ここで治すことになるとは……ポーションよりも高額になったのが気に食わん!」
「しかも今回の任務が失敗しちまったから次回はBランクの依頼しか受けられない。下位のジャイアントモンキーくらいしか……」
「あんなの今まで一瞬で倒してきたじゃないの!」
ギルド依頼で失敗したペナルティは大きい。一度でも失敗すればしばらくの間冒険者レベルのワンランク下の依頼しか受けることができなくなる。
しかも五回連続で失敗してしまうと二度と依頼を受けることができなくなってしまうのだ。
「報酬も激減か……」
「気にすんなよハルト! そもそもあんなキングモンキー見たことねぇくらい強かったぞ。ありゃランクSの依頼に匹敵するんじゃねぇのか?」
グルドは体を張って戦うので、相手の強さについては理解ができる男である。
「むしろしばらく放っておけ。他の冒険者も同じ目にあってギルドが慌てるだろう。そうすれば俺たちの罰も取り消しされるだろう。おまけに慰謝料も払ってくれるはずだ」
「さすがハルト!」
ハルトたちは勘違いをしていた。
今まではレオンの作ったエリクサーを飲んでいたから、キングモンキー相当のモンスターを討伐できていただけなのである。
今回の任務失敗になった依頼を引き継いだのがレオンとソフィアだということを知るのは、まだ先のことであった。
♢主人公視点
キングモンキーを相手にソフィアは一人で善戦していた。
流石に心配なので一緒に討伐へ向かったのだが、彼女一人でも戦えているのだ。
キングモンキーの振り落とす拳は剣で受け流し、毒を持った唾液も炎魔法で消滅させ、ついに……。
「す……すごいです! まさかキングモンキーを倒せてしまうなんて……」
ソフィア一人でキングモンキーを一刀両断したのだ。
「俺も驚いた。まさか支援なしでソフィア一人で倒しちまうとはな」
ソフィアがエリクサーを飲んで、毎日上位ランクのモンスターをコツコツ討伐してきた成果が報われた。
しかもソフィアの成長ペースがかなり速い。
エリクサーを飲んだ状態ならば既にランクSの依頼も許容範囲になっているのかもしれない。
もしかしたらエリクサーなしでもキングモンキーを討伐できていたのではないかと疑ってしまうほどだ。
「師匠のおかげです! エリクサーだけでなく、戦い方のコツや体の動かし方まで教えてもらえた成果です」
「いや、俺は基本だけ教えてエリクサーを与えただけだ。それをモノにしたのはソフィアなんだから」
尚、倒したキングモンキーは素材になるし高く売れる。
公式ギルドに戻ったときにギルドマスターのロックに渡しておけばソフィアの資金になるし。
ソフィアが魔道具に収納しようとしていたのだが。
「師匠、本当に持分私だけで良いんですか? 師匠がいなかったらここまで成長できなかったんですよ」
「倒したのはソフィアだ。俺は見守っていただけなんだから俺が受け取る権限はない」
「そうですか……でもせめてお礼がしたいんですけど……」
ソフィアは律儀なところがある。
言い方は悪いが俺はただ仕事としてソフィアを育てているだけに過ぎない。
もちろんソフィアには言ってあるし、了承の上で師弟関係は成立した。
彼女が強くなってくれれば公式ギルドでも活躍も見込めて街がより活性化していくからである。
俺にとってはそれが一番のお礼なのだ。
♢ざまぁ
「おい、これは俺たちAランク冒険者が引き受ける。ザコはもっと安全な任務をやっていれば良い!」
「そんな! ひどいです!」
「うるさい。それにすでに依頼書は俺が持っている。つまりこれは俺たちの任務になるのだよ」
ハルトは他の冒険者が引き受けようとしていた依頼を横取りしていた。
公式ギルドルールとして、ギルド関係者は基本的に冒険者同士の争い事には関与しない。
キリがないほど冒険者同士のトラブルが頻発しているからである。
とはいえ、受付嬢はため息を吐きながら呆れているし、ギルドマスターのロックは遠くから哀れな目でハルトたちを見ていた。
「ふん、所詮俺たちAランクの実力には逆らえないんだから大人しく従ってれば良いんだよ」
「あら、ジャイアントモンキーの討伐なんて楽勝よね」
「俺なら片手でワンパンで倒してやれるぜ!」
ハルトが嫌味を言った後、続けてミネスとグルドも自信満々に武勇伝を自慢をしていた。
だが、それはレオンのエリクサーがあったからこそ倒せたというだけであったことを彼らは知らなかった。
「おい、これを引き受ける。今度はミスはしねーから安心しろ」
「良いんですか? 前回のウッドゴーレム討伐を何度も失敗していましたよね。今回失敗したら五回連続ですよ! 五回連続で依頼を破棄または達成できなかった場合、ギルドカードは没収されますけれど」
受付嬢は彼らの本当の実力を知っていたからこそ確認をとる必要があった。
どんなにダメな冒険者であっても対等にしなければならない。
危険だと判断すればこのように聞く場合もある。
「あん? 俺たちAランクなんだぜ? こんなザコモンスターなんか本来ソロで行ったって良いくらいなんだからな!」
「そうよ! 前回のウッドゴーレムのときはたまたまポーションを買い忘れていただけ。今回は別の街でまともな道具屋から買ったポーションがあるんだから大丈夫よ」
「ま、ジャイアントモンキーなら前に討伐経験あるし問題ないっすよ!」
受付嬢は言われたとおりに依頼を承認した。
いくら忠告をしたとしても、最終決断は冒険者なのだ。
ハルトたちが自信満々にギルドを出て行った後、直ぐに受付嬢とロックが横取りされた冒険者の元へ駆けて行った。
「大丈夫ですか?」
「はい……でも悔しくて……」
「心配すんな。お前らBランクのパーティーだったよな? あいつらよりもお前たちの方が強い」
冒険者パーティーは不思議そうな顔をしてギルドマスターのロックに顔を向けている。
「マスター……どうしてですか? あいつらはAランクなんですよ? 悔しいけど俺たちじゃ……」
「今まではな……。だが、肝心な奴をあいつらが解雇したから今じゃそんな力はねーんだ。ま、結果はもうすぐわかると思うぞ」
「代わりにこの依頼やってみますか? これもランクBですけれど」
「「「ありがとうございます!!」」」
冒険者たちは受付嬢とロックの優しさを感じて嬉しそうな顔になったのだった。
♢
「はぁ!? なんでジャイアントモンキー程度にこんなに苦戦を……ポーションくれ!」
「もうないわよ!」
「そんな!!」
「ハルト! 向こうから更に一体出てきやがった! 撤退した方が……」
「バカいうな! 今回依頼を失敗したらギルドカードを没収されるんだぞ!」
「しかし……この状況じゃ……」
「くそう……なんでこんなザコモンスター相手に……!」
ハルトは負傷しながらもジャイアントモンキーに立ち向かって行った。
しかし、後方支援のミネスは魔力が枯渇し、グルドもグロッキー状態になってしまう。
容赦無くジャイアントモンキーのタックルがハルトを突き飛ばした。
「「ハルト!!」」
既にハルトの意識はない。
今の彼らには無理もなかった。
レオンがいない状態でエリクサーを持っていない状態では本来はCランクのモンスター討伐が精一杯のパーティーだったのだから。
「グルド……こうなったら最後の手段よ。魔道具の煙玉を使って撤退しましょう!」
「しかし……ハルトは意地でも倒せと言ってたが……」
「バカね! ジャイアントモンキーが変異種と言えるような力を手に入れているのよ! これは明らかにギルド側のミスよ! 猛抗議して今回の件もチャラよ!」
「う……ウス」
ミネスもグルドも悔しそうな顔をしながら撤退を決断したのだった。
ハルトを連れ、高級な魔道具を使ってその場から離脱した。
♢主人公視点
俺は公営ギルドに様子を伺うため顔を出していた。
中を見渡したが、以前よりも活気が出ている気がした。
しかも強そうなパーティーがゴロゴロといる。
「ロック、こっちはどうだ? 運営に支障は出ていないか?」
「見てのとおりだぜ。競合するどころか、むしろ栄えてきた。お前のエリクサーの噂が外に広がってな、あちこちからAランクの冒険者がここに足を運ぶようになったんだ」
「お互いに栄えてきたってことか」
俺の運営している私設ギルドも忙しくなってきている。
強くなったソフィアの噂が広まり、新人冒険者たちが集まるようになったのだ。
主に訓練をさせて簡単な依頼をこなすのが主な内容だが、それでも繁盛するようになって嬉しい。
「そういえば、お前が来る少し前に元メンバーが騒ぎを起こしてな」
「ハルトたちか……」
「ま、あいつら今回の依頼で失敗するだろうし、もうここには来れなくなると思うんだが」
ロックの言っていることがすぐに理解できた。
「そうか、あいつら五回連続で失敗か。そんなに無茶をしたのか?」
「ジャイアントモンキーの討伐だったかな。つまり、お前の力がなきゃBランクの依頼もこなせない奴らだったってことだ」
「ソフィアみたいにコツコツと倒していけば強く成れたかもしれないのにな……」
ロックと話していると噂をすればだ。
俺は気づかれる前にこっそりと隠れた。
あまり関わりたくない。
「おい……すぐにハルトの手当てをしてほしい!」
グルドが真剣な表情でロックに頼み込んでいる。一方、ロックはハルトの容態を見て呆れているようだ。
「派手にやられたな。お前ら自業自得って言葉知ってるか? 他の奴から依頼を横取りするからこうなるんだ」
「いいからマスター! 治して! これには訳があるのよ!」
「ほう……だがこんな酷い状態じゃあ治療で治せねーよ。最近ウチで発売することになった高級品のエリクサーを使わねーとこりゃ無理だろうな」
「いくらなんだ!?」
「金貨十枚だ」
グルドとミネスは愕然としているようだ。
あいつらなら今まで俺と一緒に稼いでいた分があるから決して払えない額ではないはず。
金はどこへいったんだ?
「そんなに持ってないわ……毎回討伐の打ち上げと遊びで使ってしまったもの……」
「頼むからなんとかしてくれ!」
「ま、理由はなんであれ見殺しにはできねーな……後払いだぞ」
エリクサー瓶をハルトの口元に注いでいった。
「う……ここは……」
「ギルドよ。さ、これから猛抗議の時間よ」
ミネスはロックにギロリと睨みつけている。
コイツら治してもらっておいて何のつもりだ。
「前のキングモンキーもそうだったけど、今回のジャイアントモンキー……あれ変異種よ! あんなのSランクじゃなきゃ倒せないわよ!」
「あ!?」
「おかしいじゃないの。私たちが負けること自体が! Aランクなのよ!」
そうか、やはりこいつら俺が錬金していたエリクサーの効果を理解していなかったようだ。
何度も説明していたが納得していなかったもんな。
むしろポーションが全部このような効果があると思い込んでいたらしいから仕方ないかもしれないが。
「やれやれ……今飲んだエリクサー、誰が作ったか知ってんのか?」
「そうか、俺はエリクサーを飲んで復活できたのか……。だが何故かポーションのような気もする……」
「ほう、味覚は覚えているのか。これを錬金したのはレオンだ」
「「「は!?」」」
ロックが俺の方をジロリと見てきた。
出ていくしかないか……。
「久しぶりだな」
「レオン、お前エリクサーを作っていたのか!?」
「これはあくまでポーションだ。だが俺は何度もお前らにエリクサーのような効果があると言ってきたはずだが、頑なに栄養剤としか言ってこなかったよな」
別にごまかしていたわけではないし、全く信じてくれていなかっただけなのだ。
三人とも呆然としている。
「じゃ、じゃあジャイアントモンキーを倒せなかったのは……」
「このポーションにはステータスを倍加させる効果がある。これも教えたが信じていなかっただろう」
「信じなかったお前たちの責任だ。このエリクサー代はきっちり払ってもらうし今回で五回連続の任務失敗なんだ。ギルドカードは返却してもらう」
ハルトは俺を物凄い顔で睨みつけてきた。
「いや、信じないぞ! そもそもお前が後方で何もしてこなかったからこういう結果になったんだ! 責任を取れ!」
「何の責任だ? お前たちのパーティーにいらないと言われたから従ったまでだが」
「ふざけるな!」
ハルトが襲ってきた。
まぁコイツの性格だったらそうなるだろうな。
だが……。
「な……何故受け止められる……!?」
「確かにエリクサーの効果でお前のステータスは倍増している。だが、俺もこうなることを予想し、挨拶する前に予め飲んでいた。これなら対等だろ?」
「ふざけるな! 後方で何も役にも立たなかったレオンが……」
いちいち説明するのも面倒だ。
拳を払い除けて倒れた拍子にハルトは残念な格好になった。
ロックがすかさずハルトを取り押さえた。
「おいおい、ギルドマスターであるレオンに手を出すのはご法度だよなぁ。ここまで騒ぎを起こせばどうなるかわかってやってたんだろうな?」
「ギルドマスターだと!?」
「レオンは今や私設のギルドマスターだぞ。そんなことも知らなかったとはな。冒険者同士の争いには目を瞑るが、運営側に手を出したお前たちは永久追放となる」
ハルトは必死に捕まった体を振り解こうとしているが、エリクサーを飲んでいるにも関わらずロックには敵わないようだ。
さすがロックが元Sランク冒険者だけのことはある。
もしくはハルトたちが弱体化してしまったのかもしれないな。
三人はギルド会員剥奪どころか、罪に問われる始末となった。
もう二度と冒険者家業はできないだろう。
♢
ハルトたちが姿を消してから一年過ぎたある日のこと。
「師匠! 久しぶりに公営ギルドからの応援要請です! 北部グーデス山脈に討伐対象Sランク級のドラゴンが現れたそうです!」
「わかった。では俺も行くか」
「いえ、今回は私たち弟子達に任せて欲しいんです」
「大丈夫か?」
あまり聞く必要はないかもしれないが。
「師匠のおかげで私たち全員ソロでもA級冒険者まで昇格できたんですから。全員で集まればSランクの上位に匹敵できますよね?」
「そうだな。ソフィアに関してはエリクサーなしでもA級にまで昇格してしまうんだから大したもんだよ」
「師匠の指導の賜物ですからね。では行って参ります」
以前よりも更に効率が上がったエリクサーを十個ほど持たせておいたから大丈夫だろう。
私設ギルドの依頼や公営ギルドの応援は弟子たちに任せられるようになった。
ドラゴン程度なら彼女たちに託してももう安心だ。
新人の冒険者たちの育成をしながら、今日も俺はエリクサーのようなポーションを錬金している。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
広告の下に⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎があるので、そちらからポチッと押していただいて、応援していただけたら幸いです。
よろしくお願い致します。