第7話 積極的に応援していきます!
家に帰るとリデルはなぜか一緒にいるジャンを見て不思議そうに思いつつも、アリスが嬉しそうに完売したことを話し、そのお祝いにジャンも一緒に夕食を食べようと提案したので、渋々了承した。
「完売なんてすごいじゃないか!良かったな、アリス。」
「ニックとロニーが手伝ってくれたからよ。とりあえずたまごパンが定着するまでは続けたいな!」
「私も1ついただいたけど、確かにとっても柔らかくて、あれなら小さい子供から老人まで誰でも食べられそうだね。」
「うん、お姉ちゃんのパン、すっごくおいしいの!」
この日はサムの串焼きにジャンが買ったパンとサラダが並び、豪華な食卓になった。そんな和やかな夕食の間も、ニックは一言も話すことはなく、時折ジャンを見ては、すぐに下を向き、終始落ち着きがなかった。
夕食も終えると、アリスは疲れたから今日は早く寝よう、と子供達を急かして部屋から出て行った。
アリスはジャンにウインクし、ジャンも照れ笑いをしながら
「おやすみなさい。」
と返事をした。
「久しぶりに、一杯付き合ってくれないか?」
ジャンがそっとワインを取り出すと、リデルは何年振りかの酒に喜びが隠せず(元より隠し事ができないタイプだが)、いそいそとグラスを用意した。
「まぁせっかくだからいただくが、急にお前が家に来るなんて、どうしたんだよ。」
ワインを一口飲み、グラスを見ながらジャンは言った。
「リデルの子供たちは、みんなこの店を守ろうと頑張ってるね。アリスちゃんなんて、あの行動力、本当にアリアにそっくりだ。
・・・この間も伝えたが、私もリデルを、そして子供たちを応援したいと思ってる。どうだろうか、ジャン、ニックくんを私のもとで働かせてみないか?彼は自分の非を認め、欠点を補おうと努力できる人間だ。ゆくゆくこの店を継ぎたいと言っていた。その為には今教会で学んでいる文字だけでは足りないだろう。私が直々に商人ギルドで行っている仕事を手伝わせながら、彼を指導しようと思うんだが。」
ジャンはワインを一気に飲み干し、強く机に置くと
「ニックがお願いしたのか?」
と視線を下にしたまま言った。
「いや、アリスちゃんからの提案だ。でもニックくんにこの話をしたら、彼からも頭を下げて頼んできたよ。」
「そうか・・・。」
ジャンは口を継ぐみ、部屋には水道から垂れる水滴の音が鳴り響いた。
しばしの沈黙が続くと、リデルはジャンの方に体を向け、深々と頭を下げた。
「俺からも頼む、ジャン。俺はアリアに言われたことしかやってこなかったから、アリアがいなくなってからはもうどうしたらいいのか分からなくて、子供たちにも侘しい思いをさせてしまってる。ダメな親父だ。ニックがやりたいと言っているなら、どうかお前の元で勉強させてやってくれ!」
「もちろんだよ、リデル。さぁ、頭を上げておくれ。私は君の力になれるなら、こんなに嬉しいことはないんだから。」
「・・・ジャン。その、俺」
「お姉ちゃん、何してるの?」
部屋から出ていき寝室でニックとロニーが寝たことを確認したアリスは、足音を立てないようにそっと戻り、食卓の横で聞き耳を立てていたのだ。
「ロニー、起きちゃったのね。しー!静かにしてね!今いいとこなのよ!」
小さな声でロニーに言い聞かせ、続きを聞こうとするアリスだったが、
「アリス、大人の話を盗み聞きするんじゃない!」
とリデルに捕まり、この日はそのまま眠るまでリデルに監視されたのだった。
(あー生のBL 音声だったのに・・・)
♢
翌日、ニックはジャンと一緒に商人ギルドに行き、正式にその日からニックの弟子入りが始まった。
ニックを失ったアリスは、翌週から手売りをする際に使う看板を1人で持つこととなったが、これが中々に辛い作業だった。リデルに作ってもらった廃材でできた看板は、ヤスリなどかかってはいないため時折木が刺さり、手を傷つけた。
「これはもう無理〜。手が痛いし重いし、私じゃ持っていけない・・・。」
2回ほどやったところで、アリスは看板を持ち歩くことを諦めた。だが看板は「リデルの雑貨店」の宣伝をする為に重要な役割を果たしていた。アリスの目的はあくまでも店を繁盛させること。手売りは店名を告知する為の一時的な策に過ぎないのだ。
「ねぇお父さん、要らない布ってない?」
「布?うーん・・・うちにはないかなぁ。」
「破れてるのとか汚れてるのでもいいんだけど。」
「うちは破れても継ぎ接ぎして使ってるから、要らない布っていうのはあんまりなぁ。」
「そっかぁ。」
そこでアリスが考えたのは布で作る看板、「のぼり旗」だ。布ならば軽く、支柱は落ちている枝で代用できるため元手がかからないと考えたのだ。
家では手に入らなかったため、ニックを通してジャンに不要な布がないか確認すると、ジャンの家のものを譲ってくれることとなった。
「お父さん、取りに行くの手伝って!」
「え?布なら1人で持てるだろう?」
「いや!お父さんと2人で行きたいの!」
アリスが珍しくわがままを言うものだから、リデルはその日は早めに店を閉めることにし、2人で手を繋ぎながら、ジャンの家へと向かった。