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私、聖女じゃなくて壁になりたいんですが!?  作者: KANAN
第1章 環境整備
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第5話 悪いことはしてないけれど

 ニックは中々泣き止まず、40年分の記憶を持っているアリスでも子供への接し方がわからず、ただただロニーと一緒に心配そうに見つめることしかできなかった。


「・・・おやおや。今日はもうお店は終わりですか?」

 声をかけてきたのはジャンだった。

 驚いているアリスたちにジャンは

「リデルから広場で子供達がて売りを始めたと聞いたのでね、商人ギルドも近いので見に来たんですよ。でも・・・」

 と言い、ニックを見て苦笑いをした。ニックはジャンが来たことで恥ずかしくなったのか、くるっと反転して壁に向かい、服でゴシゴシと顔を拭ったが、蛇口が壊れてしまったのか、一向に涙は止まらない様子だった。


「そんなに擦ると腫れてしまうよ。」

 ニックはポケットから白いハンカチを取り出すと、ニックの方に近づき、そっとニックに渡した。

「落ち着くまで私のとこに来るかい?」

 ジャンからの提案にニックは黙って頷き、アリスも大丈夫という仕草を送った。


 ジャンに連れられニックが去ると、

「お兄ちゃん、どうしたの?」

 とロニーまで瞳を潤ませていた。

「・・・大丈夫だよ、疲れちゃったのかも!お兄ちゃん嫌がると思うから、この事はお父さんには内緒だよ?」

 アリスがそう告げると、ロニーは大きく頭を縦に振った。


 その後も無事に客を捕まえ、サムとの約束の交換分とその日は前回のお礼もかね売り上げから交換に足りない不足のお金を支払い、たまごパンは大成功で終えることができた。

(また買いに来るって言ってくれた人たちもいたし、たまごパンがこれで広まっていけ万万歳ね。)


「じゃあロニー、お兄ちゃんを迎えに行こっか。」

 ニックはジャンに連れられて行ってから戻って来なかった。アリスが看板を運び、2人は商人ギルドへと向かった。



 ♢



 商人ギルドは6階建ての大きな建物で、アリスが1階の受付でジャンの名前を告げると、4階のジャンの部屋へと通された。看板を持って階段を上がることはできなかったため、受付で預かったもらった。


 ジャンの部屋に通され、出された紅茶をアリスが楽しんでいると、ロニーだけ別室に連れて行かれ、入れ替わるようにジャンが入ってきた。

「やぁアリスちゃん、もう体調も良くなったみたいで安心したよ。」

「ジャンさん、ニックお兄ちゃんはどこですか?」

「心配しなくていい、別の部屋でロニーくんと一緒に待ってもらっているよ。」


(じゃあなんで私だけこの部屋に・・・)

 アリスが不思議そうな顔をしているとジャンはふっと笑い、アリスをまじまじと見つめた。


「アリスちゃんはお母さんにそっくりだね。負けん気が強くて、思ったことをどんどんやってのける。」

「・・・ジャンさんはお母さんのことも知っているんですか?」

「君のお父さんとお母さんとはね、昔パーティを組んで色んなところを旅する、謂わば冒険者をやっていたんだよ。あまり言うとリデルに怒られてしまうけど、リデルはとっても腕の立つ剣士だったんだよ。」


(冒険者・・・!やっぱり剣とか杖とか持ってる人がいたからファンタジーっぽい世界だなぁと思ったけど、実在するんだ〜!!)


「君のお母さん、アリアは回復魔法の使い手だったんだよ。美しい外見からは想像もつかないほどにお転婆で。勝気な性格な女性だった。ニックくんを妊娠していることが分かった時もリデルが必死に冒険に行こうとするアリアを止めて、その後はアリアのご両親が営んでいた雑貨店を継いで2人で経営を始めたんだよ。

 私はそのまま旅を続け、商人になったんだけど、アリアが亡くなった時はみんな大変だったね・・・。」


 アリスの記憶の中でも、母の記憶はいつも笑って優しく抱きしめてくれる人だった。2歳下のロニーが生まれた後すぐに亡くなってしまったため、アリスが3歳までの記憶だが、朧げな記憶の中でも優しかった母の愛を覚えている。


「リデルは少し純粋過ぎるとことがあるから、正直商売には向かないと思うんだけれど、それでもアリアの残した店で君たち3人を立派に育て上げると決めているようでね。私はリデルの力になりたいと思っているが、ニックくんも同じだったみたいだよ。今は教会で文字を習い、少しずつリデルの役に立ちたかったみたいだよ。」


 ニックは口調も強く、時折アリス達に手を上げることもあったため、これまでアリスはニックのことを好意的には思っていなかったが、たまごパンの販売は文句を言いながらも力を貸してくれていた。それも父の助けになるなら、と思ってのことだった。

 アリアが亡くなってからリデルが立ち直るまでは、ニックがアリス達の世話をしていたこともアリスは朧げながら覚えていた。


「・・・もちろんアリスちゃんが悪いわけではない。そのことはニックくんも分かっているんだけれど、リデルのために何かしたいとニックくんも焦っているみたいだね。

 アリスちゃんは計算もでき、新しい商品のアイデアを生み出していると聞いたよ。それが本当なら確かにアリスちゃんには商人の適性があるのかも知れないね。」

「そ、そんな大したことじゃ・・・。」


 アリスが行ったことは決して悪いことではない。アリスのおかげで串焼きを食べることもでき、リデルも喜んでいる。今日の売り上げで不足している食材を買えば、更に他の商品の開発もでき、より食卓は豊かになっていくだろう。だが、ニックはそれを自分の力で叶えたかったのだ。自分ではどうすることもできなかった問題を、妹がどんどん行っていくものだから、不甲斐ない自分に対して涙が止まらなくなってしまったのだった。

 10歳のニックが、今とは比べようがないほど豊かに暮らし、高水準の教育を受けていた35年間分の知識があるアリスに叶うわけはないのだが、そんなことを知る由もないニックからすれば、幼い妹がいとも簡単に商売を成功していく様は、簡単に割り切れるものではなかったのだろう。



「アリスちゃんは何か欲しいものでもあるのかな?今日売っていたたまごパンも、あんなに安価で柔らかいパンを作ったのは驚くべきことだよ。歯の弱い子供をターゲットにした女性客向けの提案や、試食という一見リスクがありそうな試みも面白いね。

 もし他に考えているアイデアも売ってくれるのであれば、アリスちゃんの望む額、そうだね100万リアルくらいであれば、ギルドとして購入させていただくよ。

 私としては君達兄妹に仲違いをして欲しくはないんだ。悪くない提案だとは思うんだけどどうかな?」


 ジャンの提案は決して悪い話ではない。今の生活であれば1年は暮らせるほどの額だった。

「・・・ジャンさんは、どうしてここまで私たちを気にかけてくれるんですか?」

「それはリデルとは腐れ縁だし、アリアのことも知っているから気になってね。」

「本当にそれだけですか?・・・率直に聞きます。お父さんのことどう思っていますか?」


 アリスは瞳を見開き、じっとジャンの顔を見つめた。


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