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私、聖女じゃなくて壁になりたいんですが!?  作者: KANAN
第1章 環境整備
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第4話 普通だけど普通じゃないみたい?

「アリス、お前は天才だ〜!!!!!」

 リデルが抱きつき頭をわしゃわしゃと撫でる。

「ちょ、お父さん苦しいよ!」


 喜ぶリデルの一方で、ニックは何も言わず、視線を下に向けた。

 この世界の教育制度は整っていない。5歳のアリスは文字の読み書きは一切できないし、10歳になるニックも教会が定期的に開催している寺子屋のようなものに参加して少しずつ覚えているほどだ。

 

(これくらいなら算数のレベルだけど、計算は苦手なのかな?)



 そして一週間後、同じように採取してきたコッコの卵を元に卵ケーキを作り、アリス達は広場を訪ねた。今回は行きもニックが看板を持ってくれたおかげでアリスは体力を温存したまま広場に着くことができた。


「あ、サムさん!また横にいいですか?」

「おう、来たのか。こないだのケーキ、俺のガキも喜んでたからよ、また残った分は串焼きと交換してくれや。」

「こちらこそお肉とっても美味しかったです!ありがとうございますっ!

 でも今日は売り切っちゃうと思うから、サムさんの分は避けておきますね。」

「お、随分自身ありげだな。まぁ頑張れよ!」


 アリスは先日の販売をしっかりと振り返り、今回は成功させる自信があった。


 こないだの販売で失敗だったことは2つ。

 1つは卵ケーキというものをみんなが知らないこと。店の袋は紙袋しかないから中身が見えなくてどんなものか分かってもらえなかった。

 2つ目は「ケーキ」というのがここでは「甘いもの」しかないということ。お父さんに聞いたところ前世のようなホットケーキすら存在しなそうだった。

 砂糖が高級品なのでもちろんケーキも贅沢品。100リアルの安い値段でケーキが買えるわけがなく、アリス達の販売していた「卵ケーキ」は名前からして胡散臭さが漂っていたのだ。

 

「今日からこれは【たまごパン】に改名します!で、今日はニックが看板を押さえてくれてるから、私がたまごパンを持って、ロニーはこれね。」

「なぁにこれ?小さいたまごパン?」

「これは試食。興味を持ってくれた人がいたらどうぞって一つ渡してあげてね。」

「試食?タダで食わせんのかよ!そんなのもったいねぇだろ。」

「ううん、これでいいんだよ!ニックだって中身が何か分からないものを買うのって嫌でしょ?美味しいって思ってもらえればたくさん買ってくれるはずだから、今日はたくさん試食してもらうの!」


 ニックはアリスの試みを怪訝そうな顔で眺めていたが、たまごパンも全てアリスの手作り。ニックは不満そうにしながらもそれ以上口を出さなかった。


「よしっ、じゃあ日も高くなってきたし、今日も声出して頑張るぞー!」

「おー!」

 ロニーとアリスは天高く拳を掲げ、今日もリデルの雑貨店の手売りが始まった。



 お昼の時間になり、サムの店は今日も列を作るほどに繁盛していた。アリス達はその並んでいる人たちに見せるように行動した。

「たまごパンはいかかですかー?ふわふわしていてお子さんでも食べやすいですよ〜!」

「あら?パンを売っているの?」

「はい、卵で作ったパンになります。外側もとっても柔らかいので、お子さんでも簡単に食べられますよ!」

「これ、どーじょ。」

「あ、まだ買うわけじゃ」

「それは試食と言って無料でお配りしているものなので、ぜひ食べてみてください。」

「え、無料なの?本当にお金は払わないわよ?」

「はい、どうぞどうぞ。」

 アリスはニコニコ笑いながらロニーに持たせていた試食のパンを1つ女性へ渡した。

 

「あら、本当に柔らかいわね。これはパンの中の部分なの?」

「いえ、これは外側も全部柔らかくて、パン1つが全部柔らかいんです。ただ日持ちはしないので早めに食べてください。」

「白パンより柔らかいのに、これで100リアルなのね?驚いたわ。・・・じゃあ2つ貰おうかしら。」

「ありがとうございます!」


 怪しんでいた女性も実際に試食をしてみたことでその柔らかさに目を丸くしていた。


「ねぇ、そのたまごパン?っていうのはそんなに柔らかいの?無料タダでくれるなら私も1つ欲しいわ。」

「あら、じゃあ私にも試させて。」

 その様子を見ていた女性達も次々と声をかけ、ロニーは「どーじょ」と言いながら試食を配り歩いた。


(無料という言葉は、いつの時代も女性の心を掴むよね。順調順調。)


 そしてあっという間にこの日用意していたたまごパンは売れて行き、昼のピークの時間を過ぎた時点で残り3個となった。


「やった!あと少しだね!今日は完売しそう!ロニーのおかげだよ〜ありがとう。」

 ロニーは嬉しそうに笑い、アリスはたまらずロニーを抱きしめた。


(ハァ、私の弟なんでこんな天使なの・・・)


「なぁ、なんでこのパンが子供向けなんて分かるんだよ。」

 この日は看板持ちの仕事で黙って後ろに控えていたニックが不意に口を開いた。

「え?」

「お前こないだはそんなこと言ってなかったのに、なんで急に今日は女の人のとこばかり近付いてったんだよ。」


 ニックは眉間に皺を寄せてアリスを見つめた。

「・・・あれは、こないだサムさんが言っていたことで気付いたの。パンって周りが硬いでしょ?柔らかいパンもあるけど、値段が高いから一般的にはライ麦のパンが食べられてて、小さい子にとってあのパンは食べづらいんじゃないかなって。だからこのたまごパンは子供がいそうな女性がターゲットになりそうと思ったの。」


 アリスが答えると、ニックの大きな瞳からポロポロと大粒の涙が溢れ出した。


(え、ええええええ。ニックが泣いてる!?)


 アリスもロニーもどうすることもできず、その場でオロオロとするだけだった。


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