第40話 ヴェスト男爵家
侯爵家の筆頭執事であるセバスの能力はアルベルトが一目置いているだけあり、翌週には学校内で起きたと言う噂の事実確認が完了していた。
「旦那様、エリザベータ様が仰る通り、学校内でエンジェルリーフの使用が目撃されておりました。」
「・・・続けろ。」
「はっ。今回退学処分となったのはヴェスト男爵家四男、ダグ=ヴェストという者になります。土魔法が扱えると言うことで、アリスさんとの進級試験での模擬試合において禁止されているにも関わらず魔法を使用。土煙を発生させ、クラスメイト達が見えない所でアリスさんを何度も殴りつけ、髪を切りつけたそうです。
またこの少年は日頃から大柄な体格でクラスメイト達数名を従え、気に入らない者がいれば暴力を振るっていたようですので、今回の退学処分はそれらも踏まえた学校の判断のようですね。」
「仮にも騎士を目指す者のやることとは到底思えんな。モリスの件はどうだ?」
「はっ。こちらもこの少年の取り巻きの生徒数人の使用が確認されました。しかし既に学校側も事実確認を行なっていたようで、使用が確認された者は身体検査の上異常なしと判断され、今回は口外しないことを約束にお咎めなしとなっております。」
「異常がなかったのか?」
「はい。私も念のため彼らの様子を伺って来ましたが、中毒症状等は見受けられませんでした。恐らくですが、エンジェルリーフとして販売をするためには魔法を使って葉を痛めないように乾燥させるか、葉が完全に枯れる前の状態であることが必要とされています。彼が持っていたのは状態が悪かったのではないでしょうか。」
「なるほど・・・いずれにせよ男爵家が絡んでいる可能性は高いな。すぐに出発する準備をしろ。」
「かしこまりました。」
♢
セバスの報告から三日後、アルベルトはエリザベータとともに男爵の領地へと向かう馬車の中にいた。
王の住む城を構える首都シアルから馬車で四日、首都の整備された道も見えなくなり、窓の外にはどこまでも田畑が広がり始める。窓の外には子供から老人までもが農作業をしている姿が見えた。
「もうすぐだぞ。」
アルベルトの一言でエリザベータが再び窓の外を見ると、初めて訪れたエリザベータでさえもすぐに男爵の家が近いことがわかった。美しい田園風景に似つかわしくない、一際大きな屋敷が前方に立っていたのだ。
アルベルトが門を通ると、男爵と思われる男が今起きたかのようにジャケットを羽織りながら慌てて階段を駆け降りてきた。
「こ、これはこれは、ラーゲルレーヴ侯爵、一体急に、どうされたのですか!?」
「いやね、娘のエリザベータがどうしても森に行きたいというものだからね、どうせならば男爵の管理するモリスの木々を見せるのが1番良いかと思ったんだが、急にすまないね。」
「お初にお目にかかります。ヴェスト男爵。私はラーゲルレーヴ侯爵家長女、エリザベータ=ラーゲルレーヴです。本日は私の我儘で急な来訪となってしまい申し訳ございません。ですがどうぞ無礼をお許しください。」
「お、おお貴方がエリザベータ様ですか。私はベット=ヴェスト。お噂はかねがね。」
「あら私の噂だなんて、嫌ですわ。どんな噂かしら。」
「もちろん侯爵様と奥方様に似てとても美しく、魔法学科でも素晴らしい成績をお納めだとか!」
「まぁ。有難うございます。・・・確か男爵様の御子息も同じ聖アメリアル高等学校に通ってらっしゃるんでしたわね?」
「あ、ええ、まあ。」
動揺しているベットを見て楽しそうに微笑み続けるエリザベータをアルベルトは諌めるように、2人の間に割って入った。
「ベット卿、急で申し訳ないが長旅で疲れてしまってね。数日泊まらせていただきたいのだが、いいかね?」
「え、ええもちろんですとも。すぐにお部屋をご用意させますのでこちらでお待ちください。」
「お気遣い感謝する。」
「お父様、私少し外を歩きたいのですがよろしいですか?」
「構わんが・・・ベット卿、よろしいですかな?」
「ええ、この辺りは治安も良いですし、今日は天気も良いですからな。おい、誰か案内を」
「結構ですわ。屋敷の周りを散策したらすぐに戻りますので。門から出なければ問題ないでしょ?」
「まあ屋敷内ならば良いが、すぐに戻りなさい。いいな?」
「は〜い。」
エリザベータが去った後、ベットに案内された客間には煌びやかな装飾品や絵画が飾られていた。出された紅茶も一流品のものだった。
「これはこれは、素晴らしいですな。我が侯爵家よりも素晴らしい装飾品です。この茶葉も南国の輸入品ですかな?」
「いやいや、ただの趣味ですよ。その紅茶は香りが強いのですが、この菓子とよくあいましてね。お口にあったようで良かったです。」
「男爵がこのようなお趣味をお持ちだったとは、初めて知りましたよ。しかし以前訪ねた際にはなかった物ばかりですが、最近買われたのですか?」
「時期は忘れましたね。侯爵がいらっしゃったのも随分前ではありませんでしたかな。」
「ははは、そうでしたかね。中々仕事が忙しくてね、男爵にもモリスの管理を任せっきりになってしまっておりますが、問題はないですか?」
「・・・問題なぞ起きるはずもございません。侯爵より男爵の爵位とともにこの地をいただいてからと言うもの、我がヴェスト家は代々この地を管理しております。モリスの木に関しましても例年通りに対応するだけですよ。」
「これは心強いお言葉だ。」
アルベルトはまた紅茶をひと口飲み、ニコニコとベットと見つめ合った。




