第3話 失敗は成功のもと!
「まだあんまり人がいないね。」
翌日アリス達は正午の鐘が鳴る前に広場に到着した。
「お姉ちゃん大丈夫?」
「ハァ、ハァ、だ、大丈夫よ、ありがとう、ロニー。」
思ったよりも木の看板は重たく、広場に来るのがやっとだった。
(これは軽量化を早くしないと、毎日続けるのはしんどいかも・・・)
息を整えたアリスは広場の中央の噴水に登り、周囲を見渡した。
「う〜ん、とりあえずあの人気の串焼き屋さんのとこがいいかなぁ。隣で売ってもいいか聞いてみよ!」
アリスは昼前でも数人客が来ている串焼き屋の隣に狙いを定め、店員に話しかけた。
「すみません、ここの隣で手売りしてもいいですか?この卵ケーキを売りたいんですけど。」
「あぁ?まぁ別に構いやしねぇよ。」
「ありがとうございます!」
アリスはペコリと頭を下げ、店の隣に並ぶように店を構えた。
(強面だけど、それでもワイルドイケメンって感じね。この世界の人たちはなんでこんなみんなカッコいいの・・・ワイルドイケメン、受けでも攻めでもいいよね・・・ムキムキの筋肉ってなんだか萌える。グフッ)
「お姉ちゃんお顔怖いよ?」
「な、なんでもないのよ!!お昼になると人がたくさん来るから、そしたら呼び込み頑張ろうね!」
妄想が捗るとつい顔が緩んでしまうアリス(旧久美子)だったが、天使のように愛らしいロニーにその顔を見られると流石に羞恥心の方が勝るのだった。
「いらっしゃいませー!リデルの雑貨店の卵ケーキはいかがですかー!!」
「いらっちゃいませー!」
「ふふっ、可愛いわね。何を売っているの?」
アリスの狙い通り、まだ流暢に話せない3歳の天使ロニーは若い女性客のハートを射止めた。
「コッコの卵ケーキです。1個100リアルです。おひとついかがですか?」
「卵ケーキ?聞いたことがないけど・・・」
「ふわふわでお口にいれるとシュワって消えて、とってもおいしいよ!」
「うーん、じゃあせっかくだから1つ貰おうかしら。」
「「ありがとうございます!」」
その後も串焼きを買いに来た女性客が時折立ち止まっては買ってくれたが、日が暮れ始めてもまだ半分以上残っていた。
「うーん、思ったより売れないねぇ。パン屋のパンは硬そうなものばかりだったから、もう少し売れると思ったんだけど。」
「おい、チビども、調子はどうだ?」
串焼き家にはひっきりなしに客が訪れ、忙しそうにしていた。男性はサムという名で、店が混雑していた時に暇だったアリス達は時折サムの手伝いをしてあげたことから、雑談をするくらいには仲が良くなった。
「全然です・・・。もうお客さんも減っちゃったし、そろそろ帰らないと。」
がっくりと肩を落とすアリスを見かねたサムは
「まぁ始めからうまくいくことなんてねーのよ。よし、この串焼きと交換でどうだ?」
と提案してくれた。
「え!いいの?」
「俺ももう少しで店じまいするし、今日は手伝ってくれたからな。お駄賃だ。1人1本で3本でいいな?」
「あ、あの、できたらお父さんの分も・・・」
「ハハッ、3本も4本も大差ねぇからいいよ!ほらっ!」
「ありがとうございます!!」
この世界で初めて手に入れた肉。恐らく5つ上のニックですらも食べたことがなかったのであろう。目をキラキラさせて3人はサムからもらった袋を受け取った。
「あの、たまごケーキ、20個もないんだけど、いいですか?」
「気にすんな!俺んとこはまだそこの坊主と同じくらいのガキしかいねぇし、俺も甘いもんは苦手だからケーキは食べねぇよ。」
「え。」
アリスはすぐさまサムに袋を渡し、その場で一口でいいから食べてくれるようせがんだ。
渋々ケーキを口にしたサムは目を丸くした。
「驚いた!これは甘くねぇんだな。それに今まで食べたものの中で1番柔らかい!これならうちのガキも食えそうだ!ありがとな!じゃあ残りをもらっていくな!」
「サムさん、こちらこそありがとう!また作ったらよろしくお願いします!」
「よしっ、帰ろう!ロニー串焼き持てる?落としちゃダメよ?」
「うんっ!」
アリスが帰り道も地獄の看板運びを覚悟して看板を持ち上げようとすると、ニックがスッと看板を取り上げた。
「・・・もうケーキもねぇから代わりに運んでやるよ。」
アリスは「お兄ちゃんありがとうっ!」と抱きつくと、ニックは照れ臭そうにそっぽを向いた。
家に帰るとリデルが心配そうに店の前で立っていた。
「おかえり!大丈夫だったか?」
「うん!」
「お父さん見てみて〜。これもらったんだよ!」
「これは串焼き肉か?すごいじゃないか!!大成功だな!!」
「ううん、半分以上売れなかったの。これは串焼き家のおじさんが交換してくれたの。」
「そうか。まぁでも、3人でよくやったよ!」
リデルはアリスを慰めようと努めたが、アリスの頭の中は今回学んだことをどう改良していくか、そのことでいっぱいだった。
初めて食べた串焼き肉は、前世で嫌というほど肉を食べていたにもかかわらず、今まで食べたどの食べ物の中でも美味しく感じた。ニックもロニーも、リデルですらも頬を染め、肉に感謝し無我夢中で平げた。
そしてアリスは改めて思った。これが当たり前に食べられる生活にしたいと。
夕食後皿を洗いながらリデルは宥めるようにアリスに話しかけた。
「アリス。店のことはもう心配しないでいいから、いっぱい遊んできなさい。」
「ううん、お父さん。私諦めてないよ!むしろ今日気づいたことがたくさんあってね、早くリベンジしたくてたまらないの!」
これまでのアリスであれば思い通りに行かないことがあったらすぐに匙を投げ、泣いてリデルに縋るような普通の5歳児だった。アリスの成長に、リデルはまた瞳を潤ませた。
「・・・なあアリス。お前なんでサムさんに20個渡そうって言ったんだ?」
不意にニックが口を開けた。
「あぁあれ?だって串焼きは1本500リアルだったでしょ?4本くれたから2000リアル。卵ケーキは1個100リアルだから、交換ってことなら20個渡さないといけなかったんだよ。」
ニックはポカンとした顔をした。リデルも同じように目を大きく開き、口が開きっぱなしだ。
(あれ、私変なこと言った・・・?)
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