第38話 私は黙っていません
春が来て、エリザベータは聖アメリアル学校魔法学科の2年生へと進学した。この学校に通うことは貴族にとっても誇りであるため、大半は代わり映えの無い顔ぶれだった。
(ふぅ。アリスがいないと思うとつまらないわね。でもアリスの喜ぶ顔が見たいから屋敷でも魔法を使える許可がもらえるよう、頑張らないと!)
「エリザベータ様、ご機嫌よう。今年度もどうぞよろしくお願いいたします。」
「ええ、よろしく。」
始業式が終わり、教室での担任教師の挨拶が終わるや否や、エリザベータの元には代わる代わるに各貴族の子息や令嬢が挨拶に伺った。
(これも侯爵家の務めだけれど、流石に疲れたわね。もう挨拶も終わったようだし、帰ろうかしら。)
「あ、エリザベータ様、門までご一緒させてください!」
「私も!」
「荷物持ちましょうか?!」
「・・・皆様お気遣いありがとう。ですが私たちは同じクラスメイト。そのような扱いは結構です。では皆様ご機嫌よう。」
エリザベータの冷ややかな微笑みは近寄ろうとした者達を凍らせ、エリザベータは長い巻髪をブンブンと靡かせながら馬車へと急いだ。
「ラーゲルレーヴ侯爵家のエリザベータ様でいらっしゃいますね!?」
(・・・また、今日は一段と皆さんしつこいわね。)
「・・・そうですけど、私急いでいますの。」
「これは失礼いたしました!私イクラム子爵家長男、エドヴァルド = イクラムと申します。どうぞお見知り置きを。」
「ご丁寧にありがとうございます。それでは失礼いたします。」
「お待ちください!」
「・・・まだ何か?」
「エリザベータ様の騎士役をしていた者は男爵家の者とトラブルを起こし退学になったと聞きました。今年度からは魔法学科の生徒と騎士学科の生徒でパーティを組む授業もございます。どうぞ私を次の騎士役に指名いただけませんでしょうか?私は騎士学科の中でも腕が立つ方で」
「結構です!それより、騎士学科で起きたトラブルについて、少しお話を伺えるかしら?」
エリザベータはにっこりと微笑みながらエドヴァルドに詰め寄った。
エドヴァルドは進級試験でアリスと対戦したダグ=ヴェストという男爵家の男について、そして試験で起こったことを説明した。
「まあ私も土煙が酷くて何が何やらという感じではありましたが、試験後の様子は2人とも酷いものでした。元々彼はよからぬことをしているようでしたので、退学になってくれて安心しましたよ。」
「よからぬことってどんなことですの?」
「あ、いやそれは・・・」
エドヴァルドが言葉を濁そうとすると、エリザベータは彼の手を両手で包み込み
「お願いいたしますわ。私は私の騎士とは秘密事はしたくないんですの。」
と目を潤ませて言った。
エドヴァルドは頬を染め、困ったような表情をしつつ、エリザベータの望むがままに知っていることを全て明かしたのだった。
話が終わり馬車に戻ると憤慨しているエリザベータの態度を心配した執事のセバスが声をかけてきた。
「お嬢様、遅かったですね。何かございましたか?」
「アリスの髪を切った犯人が分かったわ。ヴェスト男爵の子息だそうよ。」
「ヴェスト男爵ですか。それで、どうなさるおつもりで?」
「・・・アリスは気にしないよう言っていたけれど、私の友人を傷つけた罪は償ってもらうわ。お父様は屋敷にいらっしゃるかしら?」
「本日は夜は屋敷にお戻りになられるご予定だったかと。」
「そう。ならお父様が戻ったらすぐに知らせて。」
「かしこまりました。」
(許さない。卑劣な手段でアリスを痛めつけるなんて。アリスの仇は私が討つわ!!!)
♢
夕食を終えエリザベータが部屋で本を読んでいると父アルベルトの馬車が見えた。
エリザベータは執事が呼びに来る前に玄関へ走り、父を出迎えつつ自身の要望を伝えた。アルベルトは既にジャンからアリスが学校を辞めることへの謝罪とこれまでの侯爵家への感謝を伝えられてはいたものの、退学に至った事件の詳細を聞いたのは初めてだった。
アルベルトは抑えきれない怒りのままに話し続けるエリザベータを引き連れて自室へと向かい、椅子に座って一息ついてから返答した。
「お願いよ、お父様!男爵家に乗り込ませて!」
「エリー、男爵家に乗り込んでどうするんだ?アリスがお前のかけがえのない友人だと言うことはよく分かる。だがアリス1人のために侯爵家が男爵を粛清してどうするんだ?我が領内からも反発が来るだろう。」
「ええ、分かっていますわ。お父様、私ももう17歳。侯爵家の娘として無闇にその名を振りかざすことができないことは重々承知です。」
「ならば諦めなさい。その子息も退学処分になったそうじゃないか。それで十分だろう。」
「いいえ。アリスは精神・肉体ともに彼から酷い仕打ちを受けました。退学処分で済むなんて許されません!せめてアリスに正式に謝罪させなければ!!」
「だがな」
「お父様、モリスの葉・・・エンジェルリーフをご存知ですか?」
「な!エリー、その名をどこで!」
目を見開いて驚くアルベルトに対し、エリザベータは微笑み返した。




