第37話 アリアの魔法
「アリス、ロニー、よく来たな!!」
「トルドおじさん!久しぶり!!」
ロニーは定期的に荷物の受け取りにトルドに会っていたが、アリスは試験勉強期間から学校に通っている間トルドに会うことはなかったため久しぶりの再会となった。
「また背が伸びたか?髪は切ったんだな!さっぱりして似合うじゃねぇか!!」
「ありがとう!おじさんは今日も素敵なお髭よ!」
「ガハガハッ、ありがとよ!アリス、久しぶりに来たんだから工房を見てくか!?新しい機械も入れたんだわ!」
「いいの!?ロニー、せっかくだから見させてもらいましょう!」
ガハガハと大きな声で笑うトルドの後に続いてアリスとロニーは工房内を見学させてもらった。
(工房を見学したのは12歳、もう5年も前なのね!いつになってもこういう職人さん達の作業を間近で見られるのってワクワクする!!)
「ガハガハッ!お前さんのような娘っ子がこんな汚ねえ工房を見て興奮してんのは珍しいな!!今は春休みだろ?またいつでも来たら見せてやるからよ!」
「あ・・・。」
「あ、あのさ、おじさん、新しい工房に入った機械ってさ!」
「いいのよ、ロニー。」
トルドの問いに言葉を詰まらせるアリスのためロニーが話を変えようとしたが、アリスはそれをにっこりと断った。
「トルドおじさん、私もう学校は辞めることにしたの。元々騎士になろうとして入ったわけじゃないし、おじさんやパパみたいに魔法が使えたらなって思ったけど魔力がないみたいだからそれも無理だし。だったらお店のためにまた何かした方がいいかなって!」
「なんでぇ、そうなのか。まぁ人間が魔法を使うってのは中々難しいだろうが、アリアは使えてたからお前も使えるようになるかと思ったんだがなぁ。」
「あ!!!そう言えば確かにパパが前に回復魔法の使い手だったって言ってた!すっかり忘れてたわ。・・・でも魔法は限られた人だけなんだよね?ママは貴族でもないのにどうして魔法が使えたの?」
普段おっとりしているロニーですらもアリス同様母のことが気になり、2人は食い気味に身を乗り出してトルドを見つめた。トルドは少し困ったような表情を浮かべ、髭をかいた。
「・・・お前さんらリデルから聞いてねぇのか。」
「聞いてないわ!お願いトルドおじさん、どうやって普通の人間が魔法が使えるようになったのか教えて!」
「だがなぁ、リデルが言ってないんだったら・・・。」
「お願い!!」
トルドは上目使いで2人を見つめ、それから長いため息をついた。
「・・・仕方ねぇなあ。冒険者ならみんな知ってるようなことだから言うがよ、この王国には精霊の森ってのがあるんだよ。お前さんらの住んでる街、王国の首都シアルのダンジョンの中にな。ダンジョンは分かるか?」
「うん。学校で習ったわ。モンスターが排出される不思議な空間のことよね。そこには不思議なアイテムもあって、王国はそれを見つけた者の対価とする一方でモンスターの退治を冒険者達に依頼しているのだと聞いたわ。だから私たちの街には冒険者の人たちが沢山いるのよね?」
「ああ。お前さん達の家は中心街から西の方向に離れているから見たことはねえかもしれないが、シアルのダンジョンの入り口は中心街から東に進むとあってな、中心街からもそこまで離れてねぇから何かと便利なんだわ。」
「・・・精霊の森に行けばおじさん達のように精霊と契約できるの?」
「いや、行ってもそれが叶うかはわからん。現にリデルもアリアと一緒に精霊の森に行ったが、あいつは精霊に気に入られなかったわな!ガハガハッ!」
「でも、ママはそこで精霊と契約したのよね?」
「おい、アリス。お前さん間違ってもそこに行こうとするなよ。お前さんの力じゃダンジョンの1階層目ですら大怪我するぞ。精霊の森はな、ダンジョン最奥、10階層目を抜けた先に広がってると言われてる。俺も聞いた話だから詳細は知らねえが、俺の知る限り無事に帰ってきたのはリデル達のパーティだけだ。それも偶然アリアが光の精霊と契約して回復魔法が使えるようになったから軽い怪我で済んでんだ。
行っても魔法が使えるようになるのかもわからねぇ、ギャンブルみたいなもんだからな。そんなことするなら店のために新しい商品開発した方が何倍も儲かるってもんよ!」
「・・・そうだね。教えてくれてありがとう、おじさん!ロニー、日が暮れちゃうからそろそろ帰ろっか。」
「ああ、また工房が見たくなったらいつでも来いや!気をつけて帰るんだぞ!」
「うん!トルドおじさん、またね〜!」
アリスとロニーはトルドから受け取った荷物を馬車に乗せ、家路についた。
「アリスお姉ちゃん、やっぱり魔法が使いたいの?」
馬車の窓から夕日を見つめて黙り込んでいたアリスにロニーが呟くような声で聞いた。
アリスはフルフルと頭を横に振った。
「・・・魔法が使えたら貴族になるのは簡単だし、精霊と契約できた者は選べれた者だって認識が強いから馬鹿にされることは無くなるだろうなって思ったけど、でもそれだけよ。それだけのために危険なことはできないわ。心配しないでロニー。」
「そっか。ならいいんだけど・・・。」
「それより新しい商品を考えなくちゃね!カルタやリバーシは街の人たちからの購入は減って来てしまったし、また何か考えるわ!」
「うん、楽しみにしてる。」
アリスとロニーは真っ赤に染まる馬車の中、にっこりと笑い合った。




