第35話 騎士ってすごい
アリスはそのまま朝を迎えるまで目を覚まさなかった。
「お腹すいた・・・。わー目腫れてる。」
アリスが匂いにつられて一階のキッチンに向かうと、ジャンは何も言わずにいつもの笑顔と変わらずに迎え入れた。
「おはよう。よく眠れた?朝ごはんできているよ。顔洗っておいで。」
「うん・・・。」
(わーなんか恥ずかしい!もうすぐアリスの歳でも17歳になるのに!あんなにパパに泣きついて!)
「お姉ちゃん、おはよう。」
「ロニー、おはよう。」
リビングにはロニーが座っており、ニックとリデルはすでに店に立っているようだった。
「はい、どうぞ。さ、今日の恵に感謝して、食べようね。」
ジャンと3人で手を合わせ、当たり前になったパンとスープとオムレツを頬張った。
「パパ、今日も美味しい!」
「ふふ、たくさん食べてね。」
(ジャンって本当大人・・・何も言ってこないわ。)
朝食を終えるとジャンに促され庭で髪を揃えてもらうことになった。
「アリスちゃんの髪は本当に綺麗な髪だね。・・・休み中にはきっと肩まで伸びると思うよ。」
「うん。昨日泣いたら大分気持ちもスッキリしたの。パパ、本当にありがとう。」
「アリスちゃんの力になれたなら良かった。はい、できたよ。」
「ありがとう!」
アリスは綺麗に揃った髪をふわりとなびかせくるりとその場で回った。
「お姉ちゃん似合ってるよ。」
「ロニー、ありがとう。」
「今日はロニーくんもお仕事お休みしてみんなで街にお出かけしない?リデルには確認済みだよ。」
「本当!やったー。ロニー、ケーキでも食べましょう。」
「うん!」
「よし、じゃあ支度して行こうか。」
アリスは部屋に戻りお出かけ用の服に着替え、鏡を見ると今までのロングヘアーが嘘だったようにスッキリとした髪型に驚いた。
(うん、仕方ない。ショートだってとっても似合ってるじゃない!うん!)
今まで編み込みをしてつけていたリボンは短い髪では難しかったため、カチューシャのように上で結うようにして使った。
「じゃあリデル行ってくるよ。」
「ああ、楽しんで、なっ!」
ジャンはアリスに見せつける様にリデルに口づけをした。
(キャッ、キャーーーー!!!)
「お、お前っ!!全く・・・!さっさと行って来い!」
「ふふ、行ってきまーす!」
真っ赤になるリデルにジャンが笑いかけ、ジャンは呆れ顔のニックと、目をキラキラさせているアリスの手を取り街に向かった。
ジャンの計らいでアリスは思わぬ元気をもらい、その日は1日何もかも忘れてただただ久しぶりの自由時間を楽しんだ。
「パパ、ロニー今日は付き合ってくれてありがとう。明日はエリーの家に家に行くけど、明後日からはお店手伝うからね!この休み中に新しい商品も考えるからね!」
「まあお姉ちゃんいつも頑張りすぎちゃうから、休みくらいはのんびりしなよ。」
「ロニー!もう、もう!いつも可愛いんだから!ありがとう!」
ロニーは抱きつくアリスに恥ずかしそうに抵抗しながらも口角が上がっており、ジャンはそんな2人のやり取りを嬉しそうに見つめた。
(・・・アリスちゃんが元気になってくれて良かった。)
翌日アリスがラーゲルレーヴ邸に行くと、エリザベータはアリスの髪を見て泣き崩れてしまった。
「わわわわわわ、私のアリスが・・・アリスのあんなに綺麗な髪が・・・!!!」
「エリー、泣かないで!昨日パパが綺麗に揃えてくれたんだよ、この髪型も似合うでしょう?」
「ウッウッ・・・似合ってるわ。とても素敵。でも、アリスいつも素敵に髪を編み込みしてて、私も、お揃いに、してたのに!!!!誰?誰がやったの?アリスにこんなことして許さないんだから!」
「もうエリー!試験で起きたことなんだから、仕方ないのよ!泣かないで。せっかくのお休みなんだもの、遊びましょう。」
(エリーに目をつけられたら流石に退学にもなったし可哀想だわ)
アリスがハンカチで泣き崩れた顔を優しく拭くと、エリザベータはいつになく真剣な眼差しでアリスを見つめてた。
「・・・ねえアリス、本当に大丈夫?」
「もう!髪はまた伸びるし、大丈夫だよ!」
「違うわ、そのことじゃないの。私、アリスから言うまで何も聞こうとしてきませんでしたけど、騎士学科の方々からたまに声をかけられることがあるの。中にはアリスのことを悪く言う方もいたわ。もちろんそんな人は二度と私に話しかけられないように仕返してやったけれど・・・。」
(そっか、エリーには言わないようにしてたけど、ずっと前から知ってたんだ。)
「心配かけてごめんね。実はね、あんまりクラスに馴染めてなくて、でもハンナとシリウス、フェルっていうお友達もちゃんといるの!だから本当に大丈夫だよ、ありがとう。」
「そうなの。アリスのお友達だものね、きっと素敵な方々でしょうね!いつかお会いしたいわ!」
「うん!3人ともとってもすごい子達だし、魔法の適性もあるみたいだから、二学年からはエリーと一緒にやれるかもしれないよ!そしたら仲良くしてあげてね!私は・・・。」
アリスは言葉を不意に込み上げてきそうになった涙を唾と一緒に飲み込んだ。
「・・・私は適性がやっぱりなかったみたい。適性の有無によって騎士としての役割が変わってくるから、二学年からは私は国内の防衛とか、そっちの訓練になるらしくて、正直迷ってる。」
「え?」
「このまま学校を続けるかどうか悩んできちゃったの。貴族の爵位があればパパ達が正式に婚姻関係だって認めてもらえるって思って入学したけど、騎士学科の子達はみんなもっと真剣に取り組んでて、なんだか申し訳ないなって思ってきちゃった。みんなが私のこと嫌になるのもすごくわかるの。」
「そんな!アリスは頑張ってるじゃない。騎士になるためなのか家族のためなのか、その志は違くてもアリスは他の生徒以上に取り組んでいるわ!その姿勢は讃えられこそ、貶されるなんておかしいわ!!」
「エリー、ありがとう。でもやっぱり騎士になるってすごいことだと思うの。それは一年間一生懸命取り組んできたからこそ、よくわかったわ。主人のために命をかけて守ろうとする姿勢、私にはきっと無理。私だったら自分の命の方が大切に感じてしまうもの。」
「アリス・・・。」
「でもね!私には私でできることがまだまだ沢山あると思うの!学校で学んだことも無駄にはならないし、これからもお店をもっともっと大きくさせて、いつかはギルドの方から頭を下げさせてやるのよ!」
「ええ、ええ!そうね!私もアリスの役に立てるならなんでもするから遠慮なく言って頂戴!同じ学校に通えなくても、私たちはずっと友達よ。」
「エリー、ありがとう!」
アリスはエリザベータを力強く抱きしめ、エリザベータは堪えきれずにアリスの肩を濡らしたのだった。




