第30話 聖アメリアル学校入学しました
そして迎えた入学式の前夜。アリスは家族全員に手作りの組紐をプレゼントした。
「いつも私のワガママを聞いてくれてありがとう。これからまた学校に通って、お店のお手伝いできなくなっちゃうけど、学校でも必ずお店のためにできることを探してくるね!」
「アリス、ありがとう。大切にするよ。でも店はもう充分生活に困らないだけお客さんも来るようになったし、せっかくの学校だ。辛いこともあるだろうけど、精一杯楽しみなさい。」
「お父さんありがとう・・・!あのね、みんなに作ったのはね、ミサンガって言って腕にこうしてつけてね。それで願い事を胸の中で唱えて!願いが叶うときにミサンガが切れるって言われてるんだよ。」
「へー、アリスは本当に物知りだなぁ。」
「もし手首が邪魔なら足首につけてもいいからね!ロニーのは私が結んであげるね。手首でいい?」
「うん、ありがとう。これ、微妙にみんなデザインが違うんだね。」
「うん、編み方を少し変えてみたの。簡単なのしかできないんだけど、パパとお父さんがお揃い。お兄ちゃんとロニーと私の髪紐はお揃いだよ。」
「リデルとお揃いか・・・少し恥ずかしいけど、嬉しいね。アリスちゃん、ありがとう。」
「アリス、ありがとな。俺は引っ掛けて壊さないように足首につけるわ。」
前世ではミサンガなどはキットを使って作ることが多かったため、何もない今は4本の糸を交差して編む一番簡単なものしか作れなかったが、それでもアリスの想いのこもったミサンガは、リデル家の宝物となった。
翌日の入学式。
エリザベータと中で合流できたら、と話していたものの、学科別に整列を余儀なくされ各学科毎に約30人ずつ、およそ100人いる入学生の中から見つけ出すことは叶わなかった。
「皆さん、入学おめでとうございます。聖アメリアル高等学校校長ステファン = アルヴェルトです。今年も国内から沢山の優秀な生徒が入学したこと、大変嬉しく思います。これからはみなさんのそれぞれの特技、スキルを伸ばしていくべく、クラスメイトと切磋琢磨し成長していってください。期待していますよ。」
校長が挨拶をすると、入学生達の至る所から声が上がった。
(おお、この校長先生、人気なのね。有名人かな?)
入学式を終えると事前に振り分けられたクラスで今後のカリキュラムの説明を受けた。担任はいかにも騎士学科の教師というような、大柄なガルド = ゾルファという男だった。
騎士学科の一学年目は基礎体力の向上と座学が中心。そして二学年からは魔力が少しでもあるものは身体能力UPの魔法の習得。ないものは各自のスタイルにあった実戦に向けた動きの習得。そして三学年では魔法学科のものと協力してパーティを組み、実際にモンスターを狩ることが出来る水準に至り卒業、という流れだった。
(うーん私が目指すのは剣士じゃないし、あまり暴力的な行為も好きじゃないからモンスター狩ったりとか興味はあるけど抵抗あるなー。編入試験がないか後で聞いてみようかな。)
ガルドは一頻り手元の資料を読み上げると、
「明日からはバシバシ鍛えるからな!覚悟しろよ!!でわこれにて解散!」
と言い残し、去って行った。
(ふー体育会系ガチムチタイプかぁ。それでもかっこいいけど私どっちかって言うと細マッチョ派なんだよね。)
「ねえねえ、貴方なんて名前?」
アリスが帰り支度をしていると隣の席から声がかけられた。短い赤髪の少女だった。
「私はアリスよ。貴方は?」
「私はハンナ = エールソン。ハンナでいいわ。よろしくね。」
「うん、よろしく。」
「あっ!ねえ貴方はなんて名前?」
「初めまして、私はアイナ = グレヴィリウスです、よろしくお願いいたします。貴方のお名前は?」
ガルドが退室するやいなや、生徒達は一斉に互いの自己紹介を始めた。アリスは一通り声をかけてくる相手の対応をするとそそくさと退室した。
(やっぱりみんな家名持ちなのね。騎士って言ってもお家の付き合いとかがあるのかしら?)
「アリス!よかったわ、そろそろ帰る頃かと思って待っていたの!」
「エリー!入学おめでとう。今日は馬車じゃないの?」
「ええ、馬車での登下校は緊急時以外原則禁止になっているの。でも皆さん近くまでは馬車が迎えに来ているようだけど、私はアリスと歩いて帰りたかったから断ったわ。」
「そうなの、ありがとう、お友達と一緒に帰れるなんて嬉しいわ。じゃあエリーの家は通り道だから家まで一緒に行きましょう!」
アリスが笑うと、エリーはアリスの手をそっと取り、にっこりと笑い2人は手を繋ぎながらエリーの家へと向かった。
「魔法学科はどんな感じだった?」
「そうねぇ、担任の先生は綺麗な女性だったわ。先生がいらっしゃる間は皆さん静かにされていましたけど、いなくなった途端お茶会のようだったわ。見知った顔の方のが多かったから、早々に失礼させてもらったわ。」
「騎士学科もだよ!先生はムキムキの顔に傷のある少し怖い感じの男の人だったけど、先生がいなくなった瞬間、みんな一斉に自己紹介始めて、私びっくりしちゃったわ。それに家名も長くて、私みんなの名前を覚えられそうにないわ。」
「ふふ、まあ高等学校に通うのは大半が貴族の令嬢や子息だからね。コネクションはいくらあっても足りないのよ。騎士学科だと、王家直属の騎士の家系の方も何人かいらっしゃると聞いたわ。その子達と仲良くなれれば同じ騎士でも階級や配属、諸々変わってくるからね。」
「そんなもんなのね・・・私が家名がない平民だって知ったらすぐにどっか行っちゃう子もいたし、はぁ。なんだかちょっと気が重くなっちゃったわ。」
「アリスなら大丈夫よ!こんなに素敵なんですもの、アリスが仲良くしたい子とだけ仲良くすればいいのよ。もし何か嫌なことをされたらすぐに私に言って頂戴?これでも侯爵令嬢ですもの。」
エリーはアリスの手を強く握り、にっこりと令嬢スマイルを繰り出した。
「あはは、うん、何かあったら相談乗ってね。」
(絶対エリーには言えないな・・・)
エリーの家に着き、明日も朝の鐘が7回鳴る頃に家の前に来ることを告げ、アリスは家のある平民街へと足を進めた。学校から家まで1人で歩いたことはこれが初めてのことだったが、学校からはエリザベータのような家柄の人間が住む貴族街、そしていつも行く中心街を抜け、平民街の端という、かなりの距離があった。それでも入学試験のために鍛えていたアリスにとっては大した距離ではなかった。
「よしっ、ただいまっ!」
アリスは家に帰る前に頬を軽く叩き、息を吸い込むと笑顔で雑貨店のドアを開けた。




