第28話 大満足じゃなくても満足!
「アリス!!遂に学校からの手紙が来たぞ!!!」
「えっ!」
入学試験から半月が経った頃、聖アメリアル高等学校の校章が描かれた1通の手紙が届いた。
「あ、開けるね!」
アリスを中心にリデル家一同が円になって手紙を見つめる。封を切ると中からはキラキラとした光の粒のようなものが外に溢れ出してきた。
「わ〜綺麗!」
「この手紙自体に何かの魔法がかかっているようだね。」
「ごごごごご、合格って書いてあるわ!!やったー!それに見て、首席合格よ!今年の学費は免除だー!やったー!!!」
「おーー!!アリス、やっぱりお前なら首席で入学も夢じゃないと思ってたさ!すごいな!」
「アリスちゃん、おめでとう。」
「お姉ちゃん、おめでとう!」
「アリス、良かったな。頑張れよ!」
「みんなのおかげだよ。ありがとう!」
アリスはこれまでの頑張りが報われた安心感と自分のことのように喜ぶ家族の笑顔で涙が溢れてきた。リデルもつられてポロポロと涙をこぼし、ジャンはまたいつものようにふふふと笑いながら2人にハンカチを渡した。
「アリスちゃん、本当によく頑張ったね。1ヶ月後からは初めての学校だからね、色々準備しないとね。」
「うん、こっちが入学するまでに準備しとく物のリストかな。えっとね・・・筆記用具とノートと、あれ?」
「どうかした?」
「・・・自身が扱える鉄製武器って書いてある。・・・ん?んーーー!??」
「お姉ちゃん・・・この合格証明書の下の学科名。」
ロニーは合格証明書の下に書かれた馬のマークと金色の文字を指指した。
「わわわわわ私が騎士学科に入学!?なんで・・・!?」
「商業学科じゃなくて騎士学科か。アリス、どうするんだ?お前が行きたいなら止めないが・・・。」
元々筆記試験の出来に自信のあるアリスにとって、騎士学科への入学は考えたこともないことだった。
騎士学科はアメリアル王国の騎士を育てる専門機関の役割を果たし、一般的には現在王国騎士団に勤めているような騎士の家系の子息達が通うと言われているため、まさか雑貨店の娘である自分が騎士学科に入学することがあり得るとは考えたこともなかった。
(騎士になりたいわけじゃないけど・・・でも)
「せっかくだから入学する!首席合格で今年の学費も免除なわけだし、もしかしたら商業学科に編入できるかもしれないわ!騎士学科でだってきっと新しい発見があるかもしれないもの!お店の宣伝にもなるかもしれないし、私頑張ってみる!」
「そうか、アリスがやりたいならそうしなさい。でも騎士学科は体力勝負だからな、辛いこともあるだろう。もしアリスが辞めたくなったら辞めてもいい。お金のことは気にしなくていいからな。」
「うん、お父さんありがとう!やれるところまでやってみる!!」
「ふふ、じゃあアリスちゃん明日必要なものを買いに街に行こうか。ご褒美に好きなものも買ってあげようね。」
「やった!パパとデートなんて久しぶり!!嬉しいー!
あ、私エリーの家に行って報告して来なくちゃ!夕飯までに戻るから、行って来ます!」
「あ、おい!」
アリスは椅子から飛び降りると手紙をそのまま家を飛び出して行ってしまった。
「ったく。」
リデルが手紙を汚さないよう片付けると、ジャンもそっとリデルの手に手を重ねた。
「ふふふ、慌てん坊なのはリデルにそっくりだね。」
「そうか?」
「ほら、ここ髪の毛跳ねてるよ。」
「お、ありがとな。」
ロニーは息を殺して甘酸っぱい2人の雰囲気を壊さないよう静かに様子を観察し、そのまま作業部屋へと入って行った。
♢
「エリー!手紙届いた?」
「アリス!私も貴方に会いに行こうかと思っていたところよ!ええ、さっき届いたわ!魔法学科へ入学よ!アリスは商業学科?」
「ううん、騎士学科だったの、でも首席合格よ!」
「騎士学科?・・・そうなの、でもやっぱりアリスが首席だったのね!すごいわ!!同じ学校に通えるの嬉しい!」
「私もよ!エリーのおかげ。ラーゲルレーブ卿にもお礼を言わないと!」
「アリスが頑張ったからよ!でもごめんなさいね、今日はお父様いないのよ。お父様には私から伝えおくわ!
ねえ、今日は部屋で一緒にケーキでも食べながらお祝いしましょうよ!」
エリザベータの指示に従い、部屋に行くとすぐにメイドの1人が部屋に数種類のケーキと紅茶を運んでくる。侯爵家というだけあり、エリザベータの家では日頃から当たり前のように高級そうなスイーツが提供される。しかし家庭教師の授業の際にはただでさえ無償で授業を受けさせてもらっている手前、アリスは頑なにティータイムを断っていた。でもそれももう今日で解禁だ。
「わ〜ケーキなんていつぶりだろう!美味しい〜!エリー、ありがとう!」
「ふふっ、アリスが喜んでくれると私も嬉しいわ!好きなだけ食べてね。」
アリスは数種類のケーキを皿に取り、満面の笑みで頬張った。
「ねえエリー、久しぶりにリバーシをしない?あ、それにエリーに見せたいものがあるの!」
「ええ、ずっと遊ぶの我慢してたものね。見せたいものってなあに?見せて見せて!」
「うふふ、見て!これ、ロニーが描いてくれたの!!」
アリスは懐から宝物のロニーのイラストを取り出しエリザベータに見せた。
「これ、ジャンとアリスのお父様?」
「そう!そうなのーーー!ロニーが描いたのよ!?すごいと思わない?私の想像を元にイラストにしてくれたの!」
「これ想像なのね!本当にこのポーズを見て描いたのかと思ったわ!とっても上手よ!」
「そうなの。パパったらお父さんとしょっちゅうイチャイチャしてるはずなのに、私にだけは頑なにその様子を見せてくれないのよ!だから仕方なく、パパ達ってこういう風に過ごしてるんじゃないかな〜って妄想しているの。それをロニーにいつも話してるんだけど、それを元にイラストを描いてくれたの!」
「どんなお話なの?私にも聞かせて!」
「エリーならいいわよ。他の人には内緒よ?
・・・最初はお父さん達が出会うところから話は始まるの・・・」
アリスは時間も忘れ、何度も何度も脳裏に描いたジャンとリデルの恋物語を熱く語った。




