第22話 リバーシ開発しました!
トルドとはすぐに再会することになった。3日も経たないうちに、トルドは試作品ができたと言って急に店を訪れたのだ。
「わー綺麗な丸!これこれいい感じだよー!」
「んで、こっちが言われてた通り8✖️8のマス目を書いた盤だ。」
「ほーこれがアリスが話してたリバーシっていう遊びか?これでどうやって遊ぶんだ?」
「このままだと遊べないから、ロニー手伝って!」
「うん!」
アリスは新しくできた広々とした作業部屋でロニーと共にトルドが作ってきた丸い木に色を塗った。
「こんな感じで、こっちは白。こっちは黒にして塗ってね。」
「なんでその色?なんか地味だね。」
「でもこの盤の方を緑色に塗るから丁度いいのよ!さ、私が盤を塗るから駒を塗っていって!」
「了解!」
アリスとロニーが作業し終える頃にはリデル達と話していたトルドが作業部屋にやって来た。
「おー色をつけると随分変わるな。完成か?」
「今乾くのを待っているところ。乾いたら駒の反対も塗って完成なの!」
「ほんならこれを使え。着色するって言ってたから持ってきたんだわ。」
トルドは鞄の中から巻貝のようなものを取り出し、アリスに渡した。
「え?何これ?」
「なんだ、お前らマジックアイテムを知らんのか?これは風魔法が封じ込められてるアイテムでな、ここを押すと・・・ほれ、風が吹くだろう。俺らもこれでよく物を乾かしてんだわ。」
「初めて見たわ!すごい!面白いわ!!マジックアイテム、他にはどんなのがあるの?」
「おいおい、お前さんらの部屋にもマジックアイテムをつけて有るだろうが。知らんかったのか?」
「え、どこ!どこ!?」
アリスがキョロキョロと部屋中を探し回るとジャンが面白そうにこっちを眺めていた。
「ふふっ、天井についてる照明も光魔法が閉じ込められているマジックアイテムだよ。キッチンの火だって火魔法を使っているのに、知らなかったんだね。」
(なるほど・・・前世から当たり前にあるものだったから同じものだと思ってたけど、科学の力じゃなくて魔法の力でやってたのね。)
「それにお前さんらの部屋には消音の魔法陣も描いたぞ。どんなに騒いでもリデルに怒られることないだろ!!良かったな!」
「え、消音って音が聞こえないってこと!?知らなかったー。そんな魔法がかかってたなんて・・・。」
(通りでお父さん達の寝室からなんの物音もしないはずだわ・・・)
アリスが肩を落としているのを見て、ジャンはふふふっと不敵な笑みを浮かべた。
「アリスちゃんは好奇心旺盛のようだからね、手を打たせてもらったよ。」
「パパには勝てないわ・・・。」
アリスは家ができてから毎晩隣のリデル達の部屋に聞き耳を立てて過ごしていた。階段の音と廊下の歩く音や声は聞こえるにも関わらず、寝室に入ると音が聞こえなかったのだ。キッチンから盗んだコップを使ってみたり、こっそりと廊下からドアに耳を当てたこともあったが一切音がしなかった。
その反面朝リデルが時折腰を痛そうにしていたりジャンを見ないように恥ずかしがるものだから、アリスは意地でも中で起こっていることを聞こうと耳をそば立てていたのだが、ジャンにはこうなることがお見通しだったのだ。
「お姉ちゃん、ほら、リバーシできたよ。」
ロニーは次々と興味を移すアリスとは反対に、言われたことを黙々とこなす。アリスがマジックアイテムやジャンとのやり取りに夢中になっている間も1人で着色を完成させてくれた。
「わーありがとう!じゃあこれで早速遊んでみましょう!いい?ルールはとっても簡単だから。パパ達も見ててね。
まず中央の4マスに交互に並べる。で、先攻後攻を決めたら相手の駒を挟むように並べるの。挟まれた相手の駒はこうやってひっくり返して、自分の駒になるのよ。最後までマス目が埋まったら、最後にそれぞれの駒の数を数えて、多い方が勝ち!簡単でしょ?じゃあロニーからやってみて!」
「なるほど・・・これならチェスと違って子供でもすぐに覚えられそうだね。アリスちゃんのアイデアは本当どこから湧いて出てくるのか。すごいね。」
「えへへ。」
(本当は私が考えたんじゃないんだけどね。最初に考えた偉人様、ありがとうございます。)
「はい、これで全部置き終わったね。・・・51、52枚!私の勝ちー!」
「あー負けちゃった。これでも数の勉強にもなっていいね。数を読み上げるだけだとつまらないけど、これなら遊びながらできるね。」
「確かに!そういう考えもあるのね!すごいわロニー!ねぇパパどう?これ売れると思わない?」
「あぁ、こういう家で遊べる遊具はカルタかチェスくらいだったからね、これなら流行るんじゃないかな!」
「そんなら俺も噛ませてくれや!この駒と盤を作りゃあいいんだな!1セットあたり700リアルでどうだ?100セット毎で500リアルまけてやるわ!!」
「そんなに安くていいの?」
「この駒の部分は廃材で補えるからな、でも客に渡すなら持った時の手触りが悪くねぇようにヤスリしたりしなきゃ難ねぇからほとんど作業料代よ。その価格でも十分俺も利益が出るさ。」
「ありがとう!じゃあトルドさんにまずは100セット分作れるように依頼するわ。これはカルタ以上のブームになると思うの!だから100セット毎で1000リアル引きでどうかしら?」
アリスがお世辞にも顔付きが良いとは言えないトルドに対して、一切物おじせずににっこりと笑うものだから、トルドはたまらず吹き出した。
「ガハガハッ!気に入った!アリス、お前はもう立派な商売人だな!よし分かった、これがそんなに大量に売れると言うのなら、1セット500リアルで良いわ!」
「トルドさん!ありがとう〜大好き〜!!」
「ガハガハ!よし今日は宴会だー!!!」
「トルド、ほどほどにしてくださいね。」
その日も子供達が寝静まっても大人達の宴会は夜通し続いた。トルドの言っていた通り、大人達がどんなに騒いでいてもリビングの扉を閉じれば音は一切外に漏れ出すことはなかった。
リデルもトルドもまたアリス達が起きても机で潰れたままだったが、この日はジャンに叩き起こされ、トルドはフラフラした様子で工房へと戻って行った。リデルも頭を押さえながら、ジャンが二日酔いに効くというお茶を苦しそうに飲みながら、その日もリデルの雑貨店はたくさんの客を迎え入れるのだった。




