第1話 食の改善始めます
翌日、アリスは朝食の塩スープを飲み干し、開店の準備をする父の元へと向かった。
「お姉ちゃん、今日は遊びに行かないの?」
「ごめんね、今日はお姉ちゃん行かないから、お隣の子達と遊んできてくれる?」
アリスの家は雑貨店を営んでいた。いつもならロニーと一緒に日中は遊びに出かけ、夕方にたまに店番をする程度だったが、今日からは違う。
「お父さん、ウチは貧乏なの?」
アリスの言葉にリデルの手が止まった。
「・・・アリス、誰かに何か言われたのか?誰だ?お父さんがアリスを傷つけるやつはぶっ飛ばしてやるからな。誰に言われたんだ?」
リデルは食い気味にアリスの元へ駆け寄ってきた。
この父親は娘に激甘のようだ。
「もうっ違うよ!なんとなくそうなのかなーって思ったの。」
アリスの返答にリデルは俯き、眉を下げ
「すまない。お前たちに侘しい思いをさせてしまって、本当にすまない。」
と言った。その姿は垂れ下がる耳が見えるようだった。
「ううん、別に気にしてないよ!でも、私みんなのためにこのお店を繁盛させたいなって思ってるの。だから、お手伝いさせて欲しいなって。」
「アリス・・・!!なんていい子なんだ!!!」
リデルは目をウルウルさせながらアリスに抱きついた。
(お父さんはワンコ系泣き虫男子。はい。これは受けですね。)
落ち着いたリデルから話を聞くと、この店は亡くなった母の実家が営んでいた店をそのまま継いだものだった。そして母はロニーが生まれた3年前、病気で亡くなった。母のツテで繋がっていた客も段々と来なくなり、今では1日に数人客が来るか来ないかの店となっていた。
そしてここはアメリアル王国の首都シアル。中心街からは少し離れた場所にはあるものの、毎月の土地代を支払うだけで父は精一杯だったのだ。
「本当に情けない父ですまない・・・。」
「お父さん大丈夫よ!私に任せて!この店にしかない目玉商品を私が作るわ!待っててね!」
アリスは店を飛び出し、中心街へと向かった。
「まずは市場調査!」
街の広場に出ると、屋台が並び、平日の昼間だというのにたくさんの人で溢れていた。
「さすがは首都・・・そして良い匂い・・・。」
屋台の香りにお腹を空かせながらも、端から順に店に入っては置いてある商品や価格を確認を繰り返した。
「うん、今日はここまでにして、そろそろ日が暮れてきたから帰ろう。
私じゃ入れないお店もあったけどなんとなく、物価は分かった。1リアル1円くらい。置いてあるものとかは中世のヨーロッパみたいな感じかな?
手に入りやすいもので、かつ私が作れるものか・・・。」
アリスはぶつぶつと独り言を呟きながら家路についた。
その夜の夕飯は具なしのオムレツと塩スープだった。
「え、お父さんこのオムレツどうしたの?」
オムレツが食卓に並ぶのは珍しい。
「たまには芋以外も食べたいかなと思ってな、今日もお客さんは来なそうだったからコッコの卵を採ってきたんだ。」
「え、採ってきた?」
「アリスは知らねーのかよ。コッコは森に行けばいるんだぜ。お父さん、俺も明日は一緒に卵を探すよ!」
「いや、お前は教会で文字を教えてもらってるだろう。文字を覚えることは大切だからな、ちゃんと行きなさい。」
「はぁい。」
ニックは不貞腐れた顔をしていたが、アリスはそんな2人の様子も会話もちっとも頭に入ってこなかった。
「卵は無料・・・?無料で手に入る・・・。卵でできるもの・・・。」
アリスは眠気が襲ってくるまでベッドに入ってもずっとブツブツと何かを唱えていた。
♢
翌日アリスが1人でコッコの卵を採りに行くと伝えるとリデルから猛反対を受けた。コッコは野生動物のため、下手をすると大怪我を負うこともあるということだった。
2日連続で店を休むことを良しとしないリデルをなんとか説得し、『置いて行かないで』という瞳で眺めていたロニーも一緒に3人で森へ向かった。
森に入って1時間も経つ頃、
「コッコーーーーー!!!!!」
と大きな鳴き声が森に響き渡った。3人は声の元へ静かに向かい、リデルがコッコを引きつけている間にアリスとロニーでコッコの巣から卵を盗んだ。
リデルが言っていた通り、コッコは近寄ってきた人間を前脚と嘴で追い払おうとする、好戦的な生き物だった。
「やったね、これでまた今日もオムレツ食べれる?」
「ううん、ロニー。これはオムレツにはしないの!美味しいものに変えるのよ!」
「昨日採った卵がまだいくつか残ってるから、それで今日もオムレツにしような。」
「やったー!」
父を真ん中に3、人は手を繋いで夕暮れの中を歩いて帰った。
その日の夕食はロニーの要望通り、父特製オムレツが食卓に並んだ。
オムレツを作る父の横でアリスはキッチンにある調味料を確認した。
塩と油はある。むしろ塩と油しかなかった。
え、材料少な・・・
アリスはまた今夜も頭を抱えるのだった。