第17話 遊んで学ぼう!
その後アリスは新しいビジネスについて家族に提案し、リデルからもらった資金で薄い板を購入した。それをニックに運んでもらい、ロニーと共に手のひらサイズの大きさになるよう切り落とす。8歳になったロニーはすでに10歳のアリスと同じ背丈となり、すっかり見た目は男の子に成長したが、昔と変わらずに文句ひとつ言うことなく、ニコニコとアリスの指示に従っていた。
「よし、こっちには絵を描いて、こっちにはここにこうやって文字を書いて・・・完成よ!」
「??お姉ちゃん、これ何?」
「これはね、カルタって言う遊びだよ!お姉ちゃんが『アリ』って言ったら、ここに『あ』とアリの絵が描いてある板を取るの!これを全部の文字の分作ったら、一通りの文字が覚えられるようなおもちゃができるんだよ!」
(前世の時に働いていたホームセンターで一時期知育玩具を作ろう特集を担当させられて、色々木で作れるおもちゃ調べたんだよね・・・来世で役に立ったなら良かったわ)
「ふーん。よくわからないけど、これ・・・アリなの?」
「え。」
「僕には黒くてモジャモジャしたものにしか見えないけど・・・。」
アリス最大の弱点は、絵心の無さだった。これは前世の時からもそうで、三度の飯よりBLが好きだった久美子は幾度となく崇拝する絵師たちのように推しの絵を描こうと試みたことがあったが、その度に土下座して紙を燃やしていた。自分の描いた絵が推しを侮辱しているとすらも感じるほどに絵心がなかったためだ。
幸いにも妄想力だけはあり、アイデアはバンバン生まれてくるので、拙い文章ではあったものの文章に想いをぶつけて吐き出していたのだった。
「やっぱり今世でも神の手は降臨しなかったか・・・。仕方ない。カルタは絵無しにして文字だけにしようかな。それか他のにするか・・・。」
「あのさ、僕が描こうか?アリの絵を描けばいいんでしょ?」
「そうだけど、それは一応売り物にするつもりだから・・・。」
(まぁ私が描いたのもダメになったし、もう1個くらいダメになってもいっか。)
「はい、これでどう?」
「え!え、え、えー、ロニー上手ー!!ちゃんとアリに見えるよー!うんうん、ちゃんと体と足が分かれてて、足も生えてる!」
「えへへ。僕あんまり外で体動かすの得意じゃないから、暇な時はずっと地面に絵を描いてたんだ。絵を描くのなら、お姉ちゃんの役に立てるかな?どう?」
「グワァッ・・・」
アリスはロニーの少し照れたように笑いながら上目遣いの表情に心臓を鷲掴みにされた。
「天使・・・うちの弟が本当に天使すぎて辛い・・・。」
「お、お姉ちゃん?大丈夫?」
「大丈夫、ロニーが可愛すぎてお姉ちゃん幸せで辛いだけだから。ふぅ、ロニーは世界一可愛いだけじゃなくて絵心もあるのね!本当天才すぎる〜。じゃあ、文字はお姉ちゃんが描くから、ロニーはそれに合わせてここに絵を描いていってくれる?内容は一緒に考えようね!」
「うん!」
アリスは何度も何度もロニーの愛らしさに奇声を上げ、時折ロニーを抱きしめながら、試作品を2人で作り上げた。すぐにリデルに見せに行くと、何も指摘なしに手放しで喜び販売しようとするのをニックが止め、いくつかの修正点や説明書を付けることなどを条件に、それらがクリア次第販売を開始することとなった。
「これは子供のおもちゃだけじゃなく、大人も助かるぞー!商業ギルドにいって特許申請しなくちゃな!」
すでにマヨネーズの申請を行ったことがあったため、リデルはすぐに申請に必要な書類の作成を始めた。
この世界の言葉はアルファベットのよく似た26文字の言葉で成り立っている。アリスにとっては見慣れた文字の羅列だったためすぐに覚えることもできたが、農家の子供などは話すことはできても読めない・書けないということは少なくなかった。教会では10歳以上であれば誰にでも文字を教えていたが、大半は子供が通う場所になっているため大人になればなるほど文字を習得する機会は減っていってしまうのだ。
(なるほど。大人の人にも需要があるのか。それなら思った以上に知育玩具は売れそうね!)
その後もアリスは数字が大きくなるほど木が太くなる計算に役立つ知育玩具を発売し、いずれもマヨネーズに次ぐリデルの雑貨店のヒット商品となっていった。
噂を聞きつけた貴族からも特注品のオーダーが入るようになり、噂が噂を呼び、いつしか店には平民以外にも貴族の人向けの商品も並ぶようになった。当初は染め剤が高いことから黒か木の実からできる赤色の2色のみでこれらの玩具を作っていたものも、今ではロニーのセンスで色鮮やかな玩具が並ぶようになっていた。
作り手のロニーはいつの間にか文字を習得し、10歳になっても教会に行こうとはせず玩具作りに集中した。ロニーが文字も1人で書けるようになったことで手が空いたアリスは、更なるアイデアを求め、再び教会へと向かった。
教会には様々な家庭の子供たちが来ており、孤児の子供達も暮らしているため、時折アリスは玩具への反応チェックも兼ねて子供たちと遊ぶのが習慣となっていた。
「あ、アリスお姉ちゃん、今日は来たんだねー!」
いつしかアリスが来ると子供たちは我先にと集まってくるようになっていた。シスター達もアリスが無償で店の玩具を寄付したり、時にはお腹の空かせている教会の孤児達のために食事まで用意するものだから、アリスには頭が上がらない思いだった。
「アリスちゃん、いつも来てくれてありがとうね。」
「いえ、好きで来てるんです!むしろ私も色々ヒントがもらえて助かってます。」
「そう言ってくれて嬉しいけど、その、お家のことは大丈夫なのかい?ほら商人ギルドと揉めているんだろう?」
「え・・・?」
「いえ、知らないんだったらいいのよ。変なこと言ったわね。」
「あの、詳しく教えてください!!」
口籠るシスターからなんとか話を聞き出すと、アリスは子供達とも遊ばずにすぐに来た道を戻った。
(お父さん・・・!パパ・・・!)




