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私、聖女じゃなくて壁になりたいんですが!?  作者: KANAN
第1章 環境整備
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第16話 文字を習得!

 店の賑わいが当たり前になる頃には、アリスの念願だったペラペラの布団を交換することも叶った。それも1人1つ布団を購入することも叶った。

 ジャンの家で貰った不要な布を使用していたことがジャンにバレ、ジャンから布団をプレゼントすると何度も言われていたのだが、リデルが食事などのジャンが共に使うもの以外は一切受け取らないと頑なな態度だったためこれまでずっと同じ布団を使い続けていた。


 年越しを薄い毛布で家族4人抱き合って震えながら過ごすことはもうしなくていい。そのことにアリスは安堵した。

(ニックも大きくなってきて、お父さんいつもほとんど布団かぶってなかったし、今年は間に合って良かった。)


 そして本格的な冬を迎え、春がきて、季節が過ぎ去って行ってもマヨネーズブームは終わらず、リデルの雑貨店は隙間風も無くなり、アリス達は成長する身体に合わせて新しい服も着られるようになった。



 そしてアリスは10歳の誕生日を迎え、ニックは15歳、ロニーは8歳となっていた。

「アリス、10歳のお誕生日おめでとう。10歳になったから教会で文字を習えるようになる。明日から行って来ていいぞ。これはお前用のペンとノートだ!」

「え、私のノート?こんな貴重なもの・・・。それに、私がいなくなったらお店が回らないよ!」

「俺がアリスの代わりに明日から手伝うから心配すんな。」

「ニックくんはもう立派な商人ですからね。アリスちゃんに代わって、リデルの面倒をしっかり見てくれますよ。」

「おい!何だよ俺の世話って!」

「お姉ちゃん、僕もお姉ちゃんに教わったから簡単な計算くらいはできるし、商品の説明ももっともっと覚えるから大丈夫だよ!」

「・・・みんな、ありがとう!大好き!!」

 アリスは優しい家族達と共に誕生日を過ごした。それは毎日毎日店の手伝いに明け暮れ、時には辛く当たられることがあっても、家族にそんなことは一切見せずに頑張ってきたアリスにとって努力が報われた瞬間に思えた。



 ♢



「じゃあ、行ってきまーす!」

 翌日からアリスはニックが通っていたと言う教会へ行くことにした。前世の記憶があるアリスにとっては他の子供よりも文字を習いたいという欲求が強かったのだが、この世界では貴族などの子供ですら幼少期に通う学校はなく、貴族であれば家庭教師、平民であれば教会が無償で開いている授業に参加するのが一般的だった。

 教会の場合は10歳以上の子供のみが参加できるという条件があったため、ニックに混ざって何度か行きたいと要求したこともあったアリスだが、全て断られてしまっていた。


(ここが教会か。前世の教会のイメージに近いな。)

 教会は白い建物に太陽のマークを象った像が屋根についており、初めて行くアリスでもすぐに見つけることができた。


「こんにちわ。貴方は新しい子かしら?」

「はい、昨日で10歳になりました!リデルの雑貨店の娘、アリスです。よろしくお願いします。」

「あら、しっかりした子ね。じゃあ貴方はこちらにいらっしゃい。」

「はい!」


 案内された部屋にはアリスと同じくらいの子や大きな子もおり、みんなでシスターが黒板に書く文字を1つずつ声に出して覚えていくというものだった。文字の他にも数字の読み方数え方など、どれも初歩的な内容ではあったが、アリスは1つ1つ丁寧にノートに記していった。

 ノートを持っている子供は少なく、大半の子供は指で空をなぞるようにしていた。


(やっぱり紙って貴重なんだな・・・。)



 それからアリスは毎日教会に通ったが、次第に行くかどうか悩み始めた。なぜかというと、毎日同じ内容の授業しかやらないからだった。

 アリスがより難しい内容を求めると、シスターは聖書をアリスに渡し、これを読んで勉強しなさいとだけ言った。仕方なしに聖書を読み、分からない言葉があればシスターに質問するという日々を送ると、分厚い聖書すらもひと月ほどで読み終えてしまった。


 教会は強制参加のものではないため、10歳以上であればいつでも好きに来て良い、つまり来なくても良いということだ。家庭の事情で来られる日がバラバラの子供もいるためその配慮で毎日同じ内容の授業を行っているのだが、アリスのようにある程度の覚える力がある子供であれば数日で来なくなることもあった。

 しかしアリスが店の手伝いに戻ろうとすると家族は反対し、アリスに教会に行くように伝えた。これはアリスに文字を覚えろと言うことではなく、これまで家のことばかりで友達と遊ぶことなどの機会が少なかったアリスに対しての愛情だった。


(はぁ〜、聖書ももう10回くらい読んでる気がする・・・。内容もよく分からなくてつまんないし、BL小説か漫画でもあれば1年だって読んでいられるのに。)


「ねぇ、アリスちゃん。また問題出して〜!」

 毎日通っていても中々覚えられない子もおり、アリスは時折そういった子達の面倒を見るようになっていたため、アリスの名前はクラスのみんなが知っていた。

「レナちゃん!いいよ。じゃあね、この石がパンだとするでしょ。ここにパンが3個ありました。お腹が空いてたので1個食べちゃったら、残ったパンは何個?」

「俺なら3個全部食べるから残りはねぇ!」

「ちょっと、邪魔しないでよ!・・・えっと、3個から1個なくなるから・・・2個ね!」

「正解!」

「アリスちゃんが教えてくれるとシスターが黒板で書くのと違って分かりやすいから好きー!」


 アリスにとって同世代の子達と遊ぶのは、親戚の子供の面倒を見ているような気分で、どうしても友達のようには感じられなかったが、それでも一生懸命に覚えようとする子供達の姿を素直に応援してあげたいと思っていた。


(何だか先生になったみたいだけど、シスターの授業より楽しんでくれてるからいっか。あれ、これ使えるんじゃない?)


 アリスはこれからのことを考え、グフフフと不気味な笑みを浮かべるのだった。



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