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私、聖女じゃなくて壁になりたいんですが!?  作者: KANAN
第1章 環境整備
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第15話 マヨブーム

 あれから数ヶ月後、サムの店にはもうアリスは立っていなかった。


「サムのおっさん、ちっす!・・・あれ、あの女の子は今日はいないんだな?」

「お!カイル戻ってきたのか!その様子なら今回のクエストも達成できたみたいだな。お疲れさん。アリスちゃんは元々出張販売みたいなもんでね!よし、ほらよ!」

「ん?俺まだ頼んでないよ?」

「アリスちゃんがお前のおかげでマヨネーズが売れたからって、お前がきたら無料で串焼き渡してくれって頼まれてたんだよ。マヨ焼き5本分でいいんだろ?」

「マジかよ!別に俺、なにもしてねぇんだけどな。」

「まあ次のクエストまで暇してんなら、ここからずっと西の方に行けばリデルの雑貨店って店があるからよ。そこにアリスちゃんがいるから、会いに行ってやれや。アリスちゃんもお前に会いたがってたからな。」

「オッケー!行ってみるわ!」



 ♢



 アリスがサムの店を去ったのは、カイルがきっかけだった。あの日カイルがマヨネーズ付きの串焼きを購入後、冒険者ギルドでパーティメンバーに振る舞ったのだ。

「カイル!なにこれ、変なのが付いてるじゃない。」

「お前、買い物もまともにできんのか?いつものサムのおっさんのを頼んだだろ。」

「カイル・・・バカ。」

「まぁまぁ皆さん、カイルくんが抜けているのは今に始まったことじゃありませんから。落として食べれば大丈夫ですよ。」

「・・・お前らいい加減にしろ!それはサムのおっさんとこの新作だよ!!ふんっ、お前らは知らねーだろうがな、それはマヨネーズって言って、めちゃくちゃ美味いソースなんだぜ!それを落として食べるなんて、あーあ。これだから田舎もんはやだな。」

「なっ!し、知ってるわよ!これが、そのマヨなんちゃらってやつね!名前は聞いたことあるわよ!」


「おい、またカイルんとこのパーティが騒いでんな。」

「ハハッ、いつものことだろ。」

 カイルたちのパーティは5人組。剣士・魔法使いなどバランスの良い構成で、まだ若い年頃に関わらず、着実にクエストを達成していくことから、周囲からもそれなりに期待されている有名なパーティであり、同時にギルドでいつも喧嘩していることも有名なことだった。


「な、な、なにこれ、美味しいーーーー!!!!!こんな美味しい串焼き初めて食べた!」

「美味いな、こりゃ。」

 そんなカイルのパーティが恐る恐る口にした、サムのマヨネーズ付きの串焼き。サムの串焼きは冒険者ならば誰でも知っているくらい有名な屋台で、そこの新商品、というだけでも冒険者たちは食いついた。カイルたちが無我夢中で平らげる様子を見たことで、マヨネーズの見た目に対する抵抗感も薄れ、翌日にはサムが店を開ける前から冒険者たちが屋台を囲んでいた。


 アリスは1瓶しか持って来ていなかったため、その日は正午の鐘が鳴る前にマヨネーズソースを全て使い切ってしまうほどだった。

 この騒ぎは連日続き、たちまち冒険者たちの間では「マヨネーズ」が大ブーム商品となった。

 

 アリスの目的はあくまでも店を大きくしていくことなため、『サムの店のマヨネーズ』という印象がつく前に、『リデルの雑貨店のマヨネーズ』の印象をつけるため、早々にサムの串焼き屋の手伝いを切り上げた。

 サムもこれを快く快諾し、サムの店のマヨネーズがなくなったら

「リデルの雑貨店で買えるぞ。」

 と冒険者へ店の案内までしてくれるほどだった。


 串焼き屋で売り上げたお金は材料費に全て使い、アリスはすぐにマヨネーズの大量生産に取り掛かった。サムの協力もあり、リデルの雑貨店には毎日たくさんの冒険者が訪れるようになっていった。時には長蛇の列ができ、ロニーが道にはみ出さないよう整列を促したほどだ。

 マヨネーズを買い求めに来た客達は、リデルの雑貨店で日々売れ残っていた傷薬や火付け石などの日用品もまとめて買う人が多く、たちまちリデルはこれまでの何倍もの売り上げを達成することができた。



「よっ!賑わってんね!」

「あっカイルさん!戻ってたんですね!カイルさんのおかげで店は毎日繁盛しています。本当にありがとう!」

「俺は別に何もしてねぇよ。」

「ううん、他の冒険者さん達が言ってました!カイルさん達があまりにも美味しそうに食べるから、絶対食べたいって思ったんだって。」

 アリスの純粋無垢な笑顔に、カイルは照れ臭そうに鼻をかいた。


「あのね、これお酢を少し多めにしてるからサムさんのとこのより少し酸っぱいんだけど、その分日持ちするから持って行ってください。」

「お、マヨネーズか!あんがとな!今度冒険行く時はアリスちゃんとこで揃えてから行くわ!」

「ありがとう!」

 カイルが去って行くのを、アリスは姿が見えなくなるまで手を振り続けた。



 その日のマヨネーズも売り切れ客足が途絶えると、リデルと一緒にアリスとロニーが店を閉める。

 そしてリデルが夕食の支度をしている間にアリスとロニーで翌日分のマヨネーズを作る。ニックがギルドから帰ってくれば一緒に手伝い、時にはジャンさえもマヨネーズ作りに協力した。

 翌朝はサムの店が開く前にニックがサムの店へマヨネーズを届けてからギルドに行き、アリスとロニーはリデルとともに店を開ける支度をし、接客を行う。

 これが最近の日課だった。


 店の売り上げは順調で、食卓が芋と塩のスープだけになる日はもうなかった。



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