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私、聖女じゃなくて壁になりたいんですが!?  作者: KANAN
第1章 環境整備
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第12話 無双できないじゃん

「やっぱり異世界転生ものといえばマヨネーズだよね!」

「いせ?」

 アリスの不思議な言葉をいつもロニーはくりくりとした瞳で見上げて首を傾げる。

(くぅ〜!うちの弟、本当天使!!!)


 アリスがだらしのない顔でロニーを抱きしめ、ロニーが苦しそうに、でも嬉しそうにはしゃぐのは、もはやリデルファミリーの定番だ。ニックももうそれについては何も触れず、

「これもやっぱり試食ってやつをしながら売るのか?」

 と聞いた。


「う〜ん。そうだね。試食をするならこれ単体で食べるより野菜とかと付けて食べてもらった方がいいんだけど、野菜も無料じゃないしなぁ・・・。」

「でもこれ見た目だけだとちょっと酸っぱい臭いもするし、買わないんじゃないか?」

「ジャンさんに聞いた話だと、サラダを食べる家庭ではお酢を油や塩を混ぜたものをかけるって聞いたから、お酢の匂いは大丈夫だと思うんだけど。・・・これ、いくらで売れると思う?」

「・・・そうだな。使ったのは卵とお酢と油か。卵は原価無しで、油も家にあったものだし、お酢が1瓶5000リアルだったから、うーん。500リアルくらいでどうだ?」

 アリスの問いにニックは真剣に考えた。今までなら計算もできない、物の価値も分からないニックだが、ジャンの下での修行はしっかりとニック商人として育て上げていた。


「そうだね、お客さんに売るなら油も私たちが普段使うのとは別にした方がいいし、500リアルは最低でも欲しいかな。でも、ニックなら串焼きとマヨネーズが同じ価値で売られてたらどっちを買う?」

「え、そりゃ、マヨネーズは美味しいけどやっぱり串焼きかな・・・。」

「でしょ?マヨネーズはあくまでも調味料だから、これだけじゃお腹一杯にはならない。その日暮らしの私たちみたいな平民は多分買わないと思うんだよね。でもたまごパンくらい安い値段で売るには、これにはお酢も油も使わないとだし・・・。」


 そう、マヨネーズはこの世界において馴染みのないもの。ドレッシングの存在しない世界でマヨネーズの美味しさを伝えることができれば、たまごパンよりも中毒性のあるこの味は間違いなく店の目玉商品になる。しかし、貴族やジャンのようにある程度安定した収入のある平民を除き、食べるものに困る日もある平民たちがマヨネーズに金を出すか、というのは別の問題だった。


「なら俺らが売るのはやめたらどうだ?商人ギルドを通して販売するってこともできるんだよ。俺らの店みたいな知名度の低い店が考えたアイデアをギルドが買ってくれるんだ。契約もそのアイデアそのものを買ってもらうか、ギルドを通して飲食店とかに売ってもらうってこともできるんだぜ!」

「う〜ん・・・。」

「なんだよ、まだなんか問題がありそうか?」


 ニックからの提案は決して悪いものではない。確かにアリスたちが自分たちで手売りしてもある程度余裕のある平民しか手を出してはくれないだろう。それならば飲食店や貴族相手にもコネクションを持っているギルドを通した方が話が早い。


「確かにギルドを通すのは良い話だと思うんだけど、私はこれをうちのお店の目玉商品にしたいと思ってるの。きっと一度食べたら美味しいってわかってもらえるし、今はなんだって味付けは塩か香草だけど、マヨネーズがあればグッと味が変わるでしょう?絶対ヒット商品になると思うの!

 でもギルドを通しちゃうと、どうしてもうちのお店の名前が消えちゃうわ。」


 これはプリンの話をした時にジャンから聞いたことだった。ニックの言う通りギルドとの契約は2種類。

 アイデアそのものをギルドが購入し、その製造方法をギルドが販売するパターン。もしくはギルドを通じて、ギルドの持つ取引相手に商品を紹介・卸してもらうパターン。

 今回ニックが言っているのは後者であったが、後者の場合は都度ギルドへの手数料も発生し、ギルドから「**の店が開発した」と紹介はしてもらえるものの、あくまでもギルドを通しての取引となるため店の知名度が上がることは少ないという。また一度ギルドを通した契約をした場合、後から自身の店のみでの販売を制限するような特許申請を行うことはできないということだった。


「・・・アリスはすげぇな。そこまで考えてんのか。でも、じゃあどうするかな・・・。」

「わかんない。マヨネーズを入れる容器も考えないとだけど、お酢を買ったお金で売り上げもほとんど無くなっちゃったし、やっぱりまだしばらくはたまごパンを売ろうかな。」

「そっか。まぁまた手伝えることがあれば言えよ。ジャンさんにも聞けそうなら相談してみるよ。」

「うん、ありがとうお兄ちゃん。」


 アリスのマヨネーズのアイデアそのものは悪くなかった。しかし、アリスたちのような手売りの子供からも購入をしてくれる平民を相手にするには、平民の収入を踏まえて価格設定をする必要がある。一方で安くしては利益はほとんど出ず、マヨネーズに関してはお酢と油、容器も手配する必要があるならば500リアルで原価ギリギリ。アリスはまた頭を抱える日々を過ごすことになった。



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