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プロローグ 前世の記憶蘇りました

 物心ついた時からなんだか違和感を感じていた。

 自分の透き通るような髪もエメラルド色の瞳も、当たり前なのに当たり前に思えない、なんだか変な感じだった。


 この違和感の正体が分かったのは、いつものようにお父さんのお店のお手伝いをしようと扉を開けた5歳の春。

「お父さん、何かお手伝いすることある?」


 いつも通り、優しい笑顔で迎えてくれると思ったお父さんは、知らない男にキスされていた。


「お、お父さん・・・!」

 その光景を見て、私は鼻血を出して倒れた。

 後にお父さんは言う。慌てて私の元に駆け寄ると「BL最高」と言う謎の言葉を繰り返していた、と。



 ♢



 倒れた私は目が覚めるとこれまでの違和感の正体に気がついた。私には前世の記憶、『橋本 久美子』の記憶があったのだ。

 3度の飯よりBLが好き。生粋の腐女子だった私は、とても3児の父とは思えぬ美しい父のキスシーンで記憶が鮮明に蘇った。とはいえ今世のアリスとしての記憶もあるため、久美子の35年間分+アリスの5年間分の40年間の記憶があるような形だ。


 久美子は高校生の時にBLの世界に足を踏み入れると、そこからどんどん沼にハマっていき、オリジナルグッズを作りやすいという理由で、ホームセンターに就職。仕事はハードだったものの、稼いだお金で好きだけ同人誌やBL漫画・CDを買い漁るという独身生活を送っていた。

 そんな生活の中、好きなCPカップリングのオンリーイベントの帰り道。その日も両手、リュックとパンパンに戦利品が詰まっていた。

 重い荷物とは裏腹に軽い足取りで電車のホームに向かう階段を登っていると、目の前に女子高生が降ってきた。久美子は女子高生と一緒に階段を落ち、そこで記憶は終わっている。


(多分階段から落ちて死んだのかな〜。あの子、ふらふらしてたから大丈夫かなぁって思ったんだけど、まさか倒れてくるとは・・・私も運がなかったなー。それより縁✖️赤の同人誌読むの半年前からずっと楽しみにしてたのに読まないで死ぬなんて、死ぬに死にきれん。私が死んだら家にあるものとPC破壊してくれって頼んでたえっちゃん、ちゃんと任務遂行してくれたかな・・・。)



「アリス!良かった、目が覚めたんだね!!血が出て倒れるから心配したよ。」

「あ、お父さん。」


 アリスが久美子の記憶を懐かしんでいると、父のリデルが涙目ながらに近寄ってきた。

「どこか痛いところはないか?」

「うん、もう大丈夫!・・・それより、後ろのおじさんはだぁれ?」


 扉の横には先ほど父にキスをしていた男が立っていた。アリスにとってもちろんリデルは父親であるという気持ちもあるのだが、父もその男も容姿が整っており、不快な気持ちになるよりも好奇心・興奮の気持ちの方が勝っていた。


「初めましてお嬢さん。私は商人を営んでいるジャン=ヒューズという者です。以後お見知り置きを。」

「こんな奴覚えなくていい、アリス。本当に大丈夫か?」

「リデルは相変わらずつれないな。」

「ジャン様、初めまして。アリスと申します。よろしくお願いします。

 お父さんとはどういう間柄でしょうか?」

「おや、リデルの子にしては随分しっかりした子だね。

 お父さんとは腐れ縁でね、この街の商人ギルドに異動になったから久しぶりに顔を見にきたんだよ。お父さんの力にもなれると思ってね。」

「余計なお世話だ。」


 リデルはジャンを見て拗ねたような顔をし、それを嬉しそうにジャンが笑ってる。


(なるほど、ジャン✖️リデか。)


「まぁお嬢さんも起きたことだし、私はそろそろ失礼するよ。またね、リデル、アリスちゃん。」


 ジャンはひらひらと手を振り去って行った。

 ジャンが出て行くなり、兄のニックと弟のロニーが部屋に入ってきた。

「鼻血出したんだって?ぶーダッセェの。」

「アリスお姉ちゃん。たいじょうぶ?」


 兄ニックは今年で10歳、弟ロニーは3歳になる。記憶が戻る前はニックの強い口調や時折手を出してくるのが怖くてあまり近寄らなかったアリスだが、もうニックのことを怖いとも思わなかった。


「2人ともありがとう。うん、もうなんともないの!それよりお腹空いちゃった!ご飯食べよ!」


 アリスはぴょんとベッドから降り、ニックとロニーの手を引いてキッチンへ向かった。


「3人とも両手を合わすんだ。そう、ロニーも。よし。では、祈りを捧げよう。」


 所謂「いただきます」の代わりに神様に黙祷を捧げるというのがこの世界の習わしだ。

(そんなことよりもお腹すいてペコペコ・・・早く食べたいー。)


「よし、じゃあ食べようか。」

「わーい!え・・・」


 出てきたのは塩味のスープににんじんの葉が浮いたものとじゃがいもが1人一個ずつ。これだけだった。

 前世の記憶が戻る前はこれが毎日続いても当たり前だからなんとも思わなかったが、記憶が蘇った今となっては我慢できなかった。


(うん、まじでただの芋。塩。こんなの絶対栄養不足になっちゃうわ。

 ・・・よし、私、決めたわ。チートスキルで世界を駆け巡るのはお決まりよね!久美子の記憶フル活用してまずは生活改善してやる!!)



 こうして久美子、もといアリスの挑戦は始まった。


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