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95. 王宮

ようやく到着しました。

 地下鉄の列車が停車したところで、向こう側から扉が開かれる。やはり若い男性が3人現れた。


「皆様、こちらへどうぞ」


 そういって先導する彼らに従い、一行は列車から降りた。

 駅名表示は「宮内府前」。階段の登り口を通り過ぎ、明けられていた扉も過ぎたところで下り階段が現れた。

 降りた先にはさらにホームがあり、1両の列車が停車していた。


「これは、王宮内移動用の車です。宮内府の官吏や侍従、それに団体が宮殿に上がるときに使います」


 その列車――というよりは、地下を走るだけの路面電車のようなものは、ほんの数分ほど走って、別のホームにたどり着いた。


 降りたそこは、島式1面2線と単式1面1線のホームが並んでいる。

 由真たちが降りたのは島式の方で、そこから階段を上ると、程なく地上に出る。


 眼前には、大きく広がるファサードを構えた石造りの建物があった。

 言われるまでもなく、これが王宮なのだろう。


 由真たちは、先導する男性たちに従い、ファサードから中に入り正面の広間に通された。


 そこには、先客がいた。

 一人は、昨日も顔を合わせたタルモ・フィン・ナイルノ神祇長官、そしてもう一人は――アスマ公爵エルヴィノ・リンソ・フィン・ノーディアその人だった。


「皆さん、お疲れの上に、これから長旅に出るというところで、誠に恐縮です」

 そのエルヴィノ王子は、そう言って、由真たちに頭を下げる。

 この人物は、王国第二王子という地位にありながら、由真たちに対しても常に丁寧な態度で接する。


「実は、拝謁に先立ち、親任式を執り行うこととなりましたので、皆さんにも、拝謁に先立ちそちらにも立ち会っていただきたいのです」

「し、親任式?! あ、あの、ど、どなたの、でしょうか?!」

 エルヴィノ王子の言葉に、ユイナはとたんに動揺を示す。


「一人は、ユイナ・セレニア新神祇官の親任式です」

 穏やかな微笑を浮かべたまま、エルヴィノ王子は応える。


「へ?! え?! わ、わたし?!」

「ちなみに、親任式は、国王陛下が(みずか)ら官吏を任命する儀式のことで、S級官吏、典型的には大臣などは、これをもって任命されます。神祇官は、S級又はA級、すなわち、この親任式をもって任ずるか、又は、神祇長官が勅命を奉じて任ずるか、そのいずれかとなります」

 もはやまともに言葉も口にできなくなってしまったユイナに替わって、王子は蕩々と説明した。


「え、えっと、あの、その……」

「神祇長官はS級神祇官の中から親補することとされています。通常は、神祇長官を補職する際に、S級神祇官への親任式と長官への親補式を一度に行うことになります。その例外は、ナイルノ長官が40年前に任官されたときだけですね」

「え、あの、はい、その、い、今、殿下が、お、仰せに、なられた、とおりで……」

 ユイナは、未だ言葉に詰まっている。


「まあ、総合レベル61の神官レベル60ですから、当然S級とすべき、と、陛下の御意を賜りましたので」

「へ?! へいかっ?!」

 またしても、ユイナは、彼女らしからぬ素っ頓狂な声を上げた。

「昨日の件は、昨日のうちに陛下にも申し上げてある」

 横合いから、ナイルノ神祇長官が補足した。


「あの、ユイナさん、おめでとうございます……なんですよね?」

 パニックに陥ったようにすら見えるユイナを見かねて、由真はそう声をかけた。

「ええ、大変にめでたいことです。S級神祇官は王国に二人きりですから」

 エルヴィノ王子がそう言うと、ユイナは言葉も失い目をしばたたかせる。


「まあ、『一人は』ユイナさん、ってお話でしたし、他にも親任式を受ける人がいるんでしょうから、気を楽にして大丈夫だと思いますよ。……他の人が、どんなお大尽かは知りませんけど」

「もう一人は、新ナスティア城伯ユマ閣下です。S級冒険者に任ぜられることになりました」

 ユイナを慰め励まそうとした由真の背中に、エルヴィノ王子のそんな声がかぶせられる。


「…………は?」

「もう一人は、新ナスティア城伯ユマ閣下、S級冒険者への任官です」

 おそるおそる振り向いた由真に、王子はにこやかな笑顔のまま、同じ言葉を繰り返した。


「あの、その、じょうはくゆまかっか、というのは、どちら様で……」

「あなた様ですね、ユマ殿。七首竜を伴った魔将をも屠り、セプタカのダンジョンを見事陥落してのけた、真の『英雄』です」

 非情な答えだった。


「私の方でコーシア県を知行としてお渡しする、とは申し上げたのですが、それには時間もかかるであろうから、早期に授けられるものを、ということで、離宮のあるナスティアの城伯位を……ということになりまして、こちらが、爵位記です」

 そういって、王子は上等な紙を由真に向けた。

 仕方なく受け取ったそれには、「ナスティア城伯に封じナスティア市を知行させる」と記されていた。


「えっと、あの、その、つまり、ユマさんは、臣民、騎士爵、男爵、子爵を飛ばして……」

「今この瞬間から、知行地を持つ貴族の仲間入り、ということですね」

 ユイナの言葉にエルヴィノ王子が応える。

 彼女は、どうやら話せる程度に平静を取り戻したらしい。その代わり、今度は由真が言葉を失ってしまったが。


「S級冒険者の件は、ゲントさんの意見も聞きました。彼は、当然だ、と言っていましたね。王国建国以来420年の歴史において、『S級冒険者』は過去4人の任官例がありますが、いずれも、時の魔王を倒す前に任官されていますから」

「ユマ様は史上5人目となりますが、器量からすれば当然でしょうな」


 ナイルノ神祇長官とエルヴィノ王子のそんな会話が、由真にはどこか遠くのことにしか感じられない。


「さて、時間になりました。続きは落ち着いてから、ということで……これより、陛下ご入来です」


 エルヴィノ王子がそう告げた。


 いよいよ、そのときが来た。

ということで、ユイナさんと由真ちゃん、あっさり「成り上がり」完了です。


このお話の世界観では、いわゆる「成り上がりもの」のような貪欲で刺激的なお話にはなりませんので…


駅にホームの配置については、細かい描写を割愛するために専門用語を出しています。念のため補足すると


単式:線路1本の片側にホームが設置されている形

相対式:線路2本を挟むように単式ホームが相対する形

島式:線路2本に挟まれるようにホームがある形


となります。


なお、国王陛下は、次回登場します。

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