94. 王都入り
作中で1ヶ月半を経て、一行はようやく王都に入ります。
晴美たちのステータスについては、ここでは判定されない。
「あの、長官台下のご祈祷から、お察しかもしれませんけど、この神殿は、軍神ナルソ様の影響が強く、祈祷も預言も、軍事関係が優先されてしまうんです。ですので、アトリアに行ってから、大地母神様の神殿で、改めてステータスを判定させてもらいます」
ユイナはそう説明した。
彼女は「祈祷法」と「預言法」がいずれも「レベル10」という最高水準にあるため、彼女がかかわる祈祷では、大地母神とのやりとりが可能になる。
そんなユイナですら、この神殿では、軍神ナルソの影響が避けられないらしい。
ただ、明日の「拝謁」に際しては、C3班の6人を含む9人全員が同席を認められるという。
「『仲間外れ』を出すと、『ユマ様』の御機嫌を損ないますから、といったら、台下もあっさり了解されました」
――冗談口だと思って苦笑すればいいのか、やめてくださいと正面から言うべきなのか、判断に迷ってしまう。
ともかく、この日は神殿に泊まる。
夕食は、スープ、生野菜のサラダ、ステーキ、チーズ、ビスケット、それにパンが2切れ。「Sクラス」の晴美に毎日提供されていたのと同じ内容だった。
久しぶりに、柔らかいベッドに横になり、十分睡眠も取って、いよいよ出発となった。
神殿のあるベルシアは、王都セントラの郊外に位置する。
ベルシア駅を通る列車の行き先は、一部の例外を除けば全てセントラ北駅だった。
由真たちの一行は、この日正午にセントラ北駅から発車する特急に乗り、アスマ州の州都アトリアに向かう。
それに先立ち、王宮に参内して国王の拝謁を得るため、朝7時半発の急行に乗ることになった。
セプタカに向かうときと同様の手順で駅に入った由真は、改札に「シンカニオ・急行」と記された看板があるのに気づいた。
周囲を見ると、南寄りに「普通改札はこちら」という看板があり、そこから廊下が延びている。
「急行以上と普通で、改札が違ってたんですね」
「あ、気づいちゃいましたね、やっぱり」
思わずつぶやいた由真にユイナが反応した。
「出入りの関係とかもあるので、長距離と近距離は入り口を分けてるんです。ホームも、急行以上は北半分、普通列車は南半分を使うことになってまして」
そう言いつつ、ユイナは手提げ鞄から札と切符を取り出した。
「お昼の特急に乗る手前までは、私が持っている団体券で行きますので、皆さん、はぐれないようにお願いしますね」
そう言われて、一行はユイナに付き従う。彼女が札と切符をかざすと、後ろに続く10人もそのまま通ることができた。
改札から伸びる通路。その窓から南側を見ると、そちらにも別に木製の通路があり、ホームには柵も設けられていた。
由真たちは、東寄りのホーム――昨日シンカニオが到着した方に降りる。
そこには、セプタカに向かったときと同じ、二階建て8両編成の列車が待っていた。今回は、由真も二階の二等室に入ることを許された。
列車は、定刻の7時半に発車した。
「この時間の急行は、ベルシア始発なので、定刻で動きます」
そうユイナは説明した。
車窓は、しばらく家並みが続いてから、人気のないホーム、そして壁を通過し、そこからは田園風景になる。
発車から15分ほど経過して、左手に線路が別れ、停車する列車の横を通過していく。
「ここは、北門駅といって、セントラの北の関門です。急行以上なら通過できますけど、普通の列車は、ここでいったん止まって、乗客が検査を受けないといけないんです」
ユイナが説明してくれた。
「え? それじゃ、普通列車だと、毎回、ここで止まって検査されるの?」
「ええまあ。ここは王都ですから、出入りは無制限ではないんです」
晴美の問いに、ユイナは苦笑交じりで答える。
鉄道があり列車が走っている環境でありながら、都市は城塞化されていて出入りが制限される。
地球の文明水準と比べると、「現代」の部分と「中世」の部分が妙なところで混在している世界だった。
城壁も通過すると、とたんに町並みが現れる。さらに5分ほどで、列車は終着駅に到着した。
頭端式のホーム。その奥にある改札を抜けると、すぐ右手に衛兵が並んで立つ扉があった。
「神祇官候補生ユイナ・セレニア、大導師ユマ様ご一行10人とともに参りました」
そういって、ユイナは札をかざす。
衛兵は、深く頭を下げて、そして扉を開けた。ユイナと由真たち10人が通ったところで、その扉は閉ざされる。
そこは――煌めくシャンデリアがつられ、絢爛たる壁画に飾られ、足下は柔らかいカーペットが敷き詰められていた。
「これは、王都特別地下鉄の駅です。王都の三ターミナル、政庁、神祇院、そして、王宮を結んでいます」
そうユイナが言うのと相前後して、男性が3人、彼女たちに歩み寄ってきた。
彼らに先導されて、ユイナが先に進み、由真たちもついて行く。
程なく現れた階段を降りると、島式のホームの片側に3両編成の列車が停車していた。
中間の車両に全員が乗ったところで、扉が閉ざされ、列車はしずしずと走り出した。
「王都には、地下鉄が二種類あります。一つは、一般の住人も使う『王都一般地下鉄』、もう一つが、この『王都特別地下鉄』です。こちらは、王宮・政府・神祇院の官吏、軍人、それと、特別な許可を受けた人だけが使うことを許されています」
「今回は……特別、ってことかしら?」
「はい。陛下への拝謁がありますから」
短く尋ねた晴美に、ユイナも短く答える。
穴蔵の中を走る列車は、駅を三つ通過した。
流れ去るホームに掲げられていた駅名表示は、一つが「政庁東門」、一つが「政庁西門」、一つが「神祇院前」だった。
10分ほどで、列車は――アナウンスも車掌の案内もなく――駅に到着した。
王都に入るのも、入ってから王宮にたどり着くのも、手順がいろいろ面倒なのです。
(ユイナさんがフリーパスの権利を持たされているため順調にクリアはしていますが)