表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/451

8. 第二王子

さらに新キャラが出ます。

 アルヴィノ王子の金切り声が、落ち着いた男性の声に遮られた。目を向けると、扉が開かれ、青いマントを羽織った金髪碧眼の青年が、紫色のコートを着た老人を伴って立っていた。


「え、エルヴィノ……」

「兄上……異世界召喚を行われたようですが、陛下の勅許は賜っているのでしょうか?」

 歩みを進める青年が、アルヴィノ王子に言葉を向ける。


「ドルカオ。私は、そなたに召還の儀の執行を許可した覚えはない」

 青年の後ろに付き従う紫色のコートを着た老人が、ドルカオ司教に向けて言う。


「エルヴィノ殿下! 神祇長官台下!」

 女神官が、そう叫んで立ち上がり、そのままひざまずいた。


「こちらが、異世界から召喚された方々ですか? ずいぶんと大勢ですね」

「殿下、これは前代未聞の規模にございます。ドルカオ、陛下の勅許もなく、私にも断りを入れず、これほどのことをしでかすとは……」

 青年と老人は、由真たちの近くまで歩み寄っていた。


「ドルカオ、どういうことか説明せよ」

 老人が問う。しかし、ドルカオ司教は目線をそらして押し黙った。

「話せぬ、というか。神祇長官たる私に対しても……」

「やむを得ません、神祇長官。私が直接話を聞きましょう」

 鋭い眼光を帯びた老人を制するように言うと、青年は一歩前に進み出た。

「神官ユイナ・セレニア、アスマ公爵エルヴィノが命ずる。この異世界召喚につき、包み隠さず申し述べよ」


 女神官ユイナ・セレニアは。

 ことの次第を「包み隠さず」口にした。


 本来は、国家存亡の時に限り、国王臨御の下で行われるべき「異世界召喚」。限りなく「禁制」に近いこの儀式を、アルヴィノ王子は「王位継承者たる第一王子として」独断で実施した。

 執行に際しては神殿の神官を多数動員する必要があった。本来ならば、神官の頂点に立つ神祇長官タルモ・フィン・ナイルノが自ら執り行うべきそれについても、王都セントラの司教たるミニコ・フィン・ドルカオがやはり独断で取り仕切った。

 その上で、召還された40人のうち、「ギフト『ゼロ』」と判定された1人は追放し、残り39人をもって兵団を組織する。この兵団は、アルヴィノ王子の配下に置かれる。それがこの計画だった。


「申し訳次第もございません。神官ユイナ・セレニア、死罪の覚悟をもって、ここに殿下に申し上げます」

 その言葉で、女神官の説明は終わった。


「神官ユイナ・セレニア、卿に罪はありません。【勇将の声】に背き得ぬのは致し方のないことです」

 青年は、女神官にそう告げると、召還された2年F組の面々に向き直った。


「申し遅れました。私は、ノーディア王国第二王子、アスマ公爵エルヴィノ・リンソ・フィン・ノーディアと申します。皆さんの意にかかわらずノーディア王国が異世界召喚を行ったことにつき、衷心よりお詫びいたします」

 アルヴィノ王子やドルカオ司教とは大違いの丁重な態度で、青年――アスマ公爵エルヴィノ王子は由真たちに深々と頭を下げた。


「まず最初に説明しておくべきだったことなのですが……我々の行う『異世界召喚』、これにより『異世界』からこちらに召喚された方について、元の『世界』に戻っていただくための術式は、現時点で……開発のめども立っていません」

 つまり「元の世界に戻ることはできない」。それは、何よりも重要な「大前提」のはずだった。

「そのようなことから、我々としても、『異世界召喚』は、真実危急存亡の(とき)に限り、必要最小限の範囲において行うべき、最後の手段としておりました……が、今回、このような事態となってしまいました」

 そういうと、エルヴィノ王子は改めて頭を下げる。


「皆さんには、その意に関わらず、この世界にとどまっていただかざるを得ません。我がノーディア王国は、『異世界召喚』で来られた方に対しては、『異世界召喚保護特例法』に基づき、臣民ないし住人とみなし一定の保護を行うこととしております。ギフト云々で、生存を脅かされるような事態は、この法に反するところであり、あり得ません。その点はご安心ください」

 ――いきなり生命の危機にさらされることはない。油断はできないものの、由真は警戒の水準を下げる。


「皆さんが受けられている手続きは、我がノーディア王国における成人儀礼『謁神式』に当たります。『ギフト』の確認が済みましたら、次は『クラス』を指定して守護神に奉告し、一定の『スキル』を得て、さらなる学業、あるいは職業活動に取り組んでいただくことになります。そこは、王国の臣民ないし住人と同様です。いきなり軍団に配属させられ軍役に就かされる、ということはありません」

 そこまで言うと、エルヴィノ王子は、傍らの老人――神祇長官タルモ・フィン・ナイルノに振り向く。


「王都セントラ司教ミニコ・フィン・ドルカオは、こたびの件につき事情聴取と審判を受けねばなりませぬ故、皆さんの『謁神式』については、残余の神官により執り行わせていただきます」

 王子が丁重な態度を貫いたためか、神祇長官もまた、由真たちに対して丁寧に振る舞った。ドルカオ司教は、エルヴィノ王子が従えた衛兵たちに拘束されて、神殿から退出させられた。


「……それでは、皆さんこちらへどうぞ」

 残った神官の一人が、そういって由真たちを案内した。

「兄より優れた弟など(ry」―そういう関係です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「この法に反するところであり、あり得ません。その点はご安心ください」 召喚したうちの一人をどの様にしても紛れ込むはずのない状況で、紛れ込んだ村娘として殺そうとした一味の言葉の法律に全く重み…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ