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88. 神祇院にて

戦いが終わって、新章に入ります。

 異世界ニホンから召還された39人の男女。

 彼らは、ベルシア神殿における「初期教育」の最終段階で、ドルカオ県セプタカにあるダンジョンの攻略に当たった。


 彼らのうち、「勇者」平田正志、「賢者」度会聖奈、「魔法導師(風系統魔法・雷系統魔法)」嵯峨恵令奈、「拳帝」毛利剛の4人は、「勇者の団」の主力部隊を構成し、このダンジョンを見事に制圧した。

 また、他に26人が、この「勇者の団」の武勲を支えた。

 主力の4人と支援に当たった26人は、そのまま「勇者の団」として王国兵団に採用される。


 他方で、召還された39人のうち残り9人は、この武勲に何の貢献もできなかった。彼らについては、「力及ばざる者」と認定せざるを得ない。

 ベルシア神殿としては、この9人は王国の庇護より外すこととした。彼らは、以後単なる臣民として暮らすことになる。



「以上が、セプタカのダンジョン攻略の顛末です」


 王宮に隣接する王都中央神殿。王国の神殿全体を束ねる「神祇院」の庁舎もここにある。

 その中枢にある神祇理事会議室において、ベルシア神殿教務主任をつとめる神官マルコ・フィン・モールソは、居並ぶ神祇理事たちの前で報告を終えた。


「なお、神祇官候補生、神官ユイナ・セレニアは、『勇者殿の団』を指導すべき立場にありながら、その任務を怠り、今回のダンジョン攻略をむしろ妨げすらしました。セレニア神官の神祇官研修は失格と認定すべきである、と、併せて申し上げます」

 そういって、モールソ神官は一礼して席に座った。


「マルコ・フィン・モールソ。そのような虚言をこの場にて吐き続けるとは、厚顔無恥も極まりないな」

 上座からの声。

 この場の頂点に君臨する神祇長官タルモ・フィン・ナイルノが、冷徹な目でモールソ神官を見据えていた。


「卿の言うダンジョン攻略の際に、アスマ公殿下が保存されたムービは、私もしかと見せてもらった。それ以外にも情報源はある。……それとも、あえて聖堂に赴き、三主神様に真偽のほどをお尋ねせよ……とまで言うつもりではあるまいな?」

 その言葉を聞いて、モールソ神官の顔色は忽ち蒼白になる。


「セプタカの武勲は、『雑兵』……いや、『魔法大導師』ユマ殿を筆頭に、卿の言う『力及ばざる者』の一人『聖女騎士』ハルミ・フィン・アイザワ殿、そして卿が神祇官失格と言ったユイナ・セレニア神官、彼女たちの力量によるものではないか」

 そう言葉を続ける神祇長官に反駁できる者は皆無だった。


「セレニア神官を神祇官に任ずる件については、すでに勅許を賜っている。卿の言説ごときで、今更覆ることはない。また、卿の言う『力及ばざる者』については、セレニア神官が『初期教育』修了を認定する旨の上申はすでに受け、私の方で承認する旨を返答してある。ベルシア神殿が30人に対して行う修了認定はいざ知らず、セレニア神官の行う認定も、卿らごときに覆すことはできぬ」

 神祇長官は、モールソ神官を見据えつつ言葉を続ける。


「それと……卿を神祇官に推挙するごときは、私がこの職にある間はあり得ぬ、と、そう心得よ、マルコ・フィン・モールソB2級神官よ」

 そこまで言うと、彼は大きくため息をつく。


「今回の召還……人数も手続も大問題だと思っていたが……それどころでは済まなくなった。神祇理事諸君は、そのことを十分認識しているか?」

 問いかけられた神祇理事は、定員10人で現任9人。

 うち、王都セントラ司教ミニコ・フィン・ドルカオは「謹慎」を命ぜられていて、出席しているのは他の8人。彼らの誰からも返答はない。


「ユマ殿は、『無系統魔法』の『魔法大導師』。セレナ様の神勅をナルソ様が仰せになった以上……否定しようはない。……我々が……あるいはノーディア王国が……あるいは『この世界』そのものが、『過ちに堕ちた』。それを『ただす』ために現れた……それがユマ殿……いや、『ユマ様』ということであろう」

 聖典に記された「無系統魔法」。その意義は、神祇理事たる者は当然知っている。


「ユマ様は……『創造神』のお力を使うことができる……いわば、顕現された『創造神』。そのユマ様を……カロニア神殿は『臣民』として扱わずに『住人』として虐げすらした。……ユマ様は、ノーディア王国をお恨みになる恐れとて十二分にある。……そこは、それこそセレニア神官とアイザワ騎士殿が身近で支えたことで、多少なりとも御心が癒やされていることを祈るほかあるまい」


 ノーディア王国の神官たちの頂点に君臨する神祇長官。

 その彼が、「雑兵」とされていた「住人」を「ユマ様」と呼ぶ。

 王国の秩序を根底から覆すその言葉。


 しかし、今現在、ノーディア王国に現前し、そしてセプタカのダンジョンをたやすく陥落してみせたその人物「ユマ」。

 その存在を認識してしまった以上、神祇理事たちも、「王国の秩序」などという些末なことに己を主張するいとまなど全くない。


 その「力」――「神の怒り」となりうるそれに対する畏怖。その「力」を向けられることに対する恐怖。

 神祇理事たちの心は、それに埋め尽くされていた。

この神官は、相当にアレな御仁です。

この期に及んで、未だ神祇長官に虚偽報告が通じると思っている程度には。

(冒頭の数パラは、「モールソ神官が報告した内容」であり、事実と異なる点があるということです)


神祇長官は、こういう立場です。

そしてドルカオ司教は謹慎中。

これが、この時点の神殿首脳陣の勢力図になります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 無能な働き者は殺す以外ないし、味方であったらさらに始末に置けない ましてや虚偽を報告するのはねぇ…
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