86. 神の白鳥
勇者様ご一行も凱旋しましたので…
「勇者」一行の「主力部隊」もダンジョンから帰還して、砦に戻ってアルヴィノ王子に拝謁した。
「この討伐部隊は、ダンジョンのマスト、魔将マガダエロとその眷属だった七首竜を討伐、加えて配下のサイクロプス35体、オーガ7体にゴブリン82体も殲滅いたしました」
平田正志らとともに拝謁に臨んだユイナは、事実だけを淡々と説明した。
「さすがは異世界ニホンより召喚された勇者、見事な武勲だった」
「……光栄の極みにございます」
アルヴィノ王子の言葉に、平田はそう応えた。
そして、モールソ神官が、この砦に鎮座する守護神たる軍神ナルソへの「奉告」を行う。
「我らがノーディア王国の守護神たる軍神ナルソ様、神官マルコ・リデロ・フィン・モールソが申し上げます。ノーディア王国第一王子アルヴィノ・リンソ・フィン・ノーディア殿下の命を承けた『勇者』マサシ・バルノ・フィン・ヒラタ殿とその一団は、王国を長きにわたり害しておりましたダンジョンを見事制圧致しました。これもひとえに、ナルソ様の神威とアルヴィノ殿下の武威のたまものにございます」
きらびやかに荘厳された神像に向かって、モールソ神官が告げる。
「神官マルコ・リデロ・フィン・モールソを認証した」
軍神の言葉が返ってきた。モールソ神官は頭を上げる。その表情は「喜色満面」だった。
「ダンジョン制圧に関して、神官ユイナ・セレニアが告げた戦果のうち、七首竜、サイクロプス34体、オーガ7体にゴブリン82体、これらは全て、『雑兵』ユマが討伐したものである。その勲は、ひとえにユマに帰すべきものと判断する」
続く言葉に、モールソ神官の「喜色」は凍り付き、平田正志の顔からもにわかに血の気が失せた。
「な……何の話だ……」
アルヴィノ王子は、怪訝そうな表情で軍神像を見上げる。
「アルヴィノ・リンソ・フィン・ノーディア。神前であるぞ」
敬語を使わなかったことをとがめるかのように、軍神は言葉を下す。アルヴィノ王子は息を詰まらせた。
「そのユマの『クラス』について、大地母神様より神勅が下された」
続けられた言葉に、その場の全員が息をのむ。
今回召喚された中で、ただ一人「ギフト」を持たなかった「雑兵」。価値のない「住人」を巡り、「大地母神様より神勅」とはどういうことなのか。
「ユマは、召喚者初期教育の期間内に、その力量を十二分に養い、比類なき勲を上げた。よって、その『クラス』を『雑兵』より転じて『魔法大導師・無系統魔法』に昇らせる。その『レベル』は、現世の秤をもって測ることを得ないものであるが故に、『0』と示す」
――その言葉を認識し理解しえた者は、この場には皆無だった。
「大地母神様の神勅は、以上である。魔法大導師・無系統魔法レベル0、ユマの今後の扱いについては、大地母神様の神意を忖度し、我はあえて介入しない。
なお、『魔法大導師』及び『無系統魔法』の意味については、我があえて説明する必要はない、と判断する」
それは、ノーディア王国の支配層にとっては当然の常識だった。
「魔法大導師」は、系統魔法のスキルが「レベル10」に達した者にのみ認められるクラス名。
そして「無系統魔法」は、聖典に記されている「創造神が過ちに堕ちた世界をただすために用いる『滅びと再生の魔法』」である。
彼らが「雑兵」「住人」と蔑んできた「小娘」。
その「醜いアヒルの子」は、実は大地母神が認める「神の白鳥」だった。
その事実を突きつけられた彼らには、もはや「祝勝」の気運などみじんも残っていなかった。
――いかがでしょうか?
作者としては、この程度では「ざまぁ」などとはとても言えないと思っています。
(実際のところ、由真ちゃん本人が何かした訳ではありませんし)