80. 七首竜
「剣と魔法」と言えば、ダンジョンとコレです。
そこに姿を現したのは、細長い首を多数はやした「怪物」だった。
「あ、あれは?!」
「ど、ドラゴンだと?!」
ゲントの叫びを聞くと、確かにそれは「ドラゴン」と見える。
「首が七つ……『七首竜』ですか」
――その由真の声は、あくまで冷静だった。
「そ、そんな、……七首竜が、こんなところにっ……」
ユイナの声は完全に引きつっている。
「七首竜……」
その名を口にして、晴美は「相手」を観察する。
確かに、細長い首は七つ伸びている。そのいずれにも、蛇を思わせる頭部があり、それぞれが意思を持つかのごとくうごめいている。
「竜だと?」
「っざけんな……」
平田と毛利が立ち上がり、その「怪物」に目を向ける。
「……それがどうした! この聖剣を食らえっ!」
「っざけんなオラ!」
二人が飛びかかる。
その瞬間、七つの首のうち二つがそちらに向かい、一つは火を、もう一つは暴風を放つ。
火を食らった平田はプレートアーマーが火だるまになって倒れ、暴風を食らった毛利は10メートル以上吹き飛ばされた。
「なっ、えっ、えっと……【降雨】!」
おろおろしながら、度会聖奈が杖を振るう。それで水が振り、平田のプレートアーマーの燃焼は下火になった。
「……火を消すには、風系統魔法で気流を遮断する方がいいんだけどね」
それを見た由真が、晴美の耳元でつぶやく。
確かに、現代人の科学知識を応用するなら、散水よりも酸素遮断を使うべきではあった。
「七首竜について、あえて説明してやる必要があるか?」
未だ火に巻かれた「勇者様」と、吹き飛ばされて意識を失った「拳帝」を見下して、マガダエロは冷然と言う。
「できれば、ゆっくりとご説明していただきたいところですね。僕たちは、なにぶん物を知らない若者ですから」
由真が、マガダエロに向かって正面から言葉を返す。
「あいにくだが……貴様にだけは、時間など与えん!」
マガダエロは鋭くいい、そして剣をかざす。そこから、黒い雷撃が放たれる。同時に、七首竜の七つの首からも、一斉に炎が吹き出た。
由真は、棍棒を右に左に振り、合計8本の攻撃線を全て切り払う。
「やはり……説明などいらぬではないか!」
それを見たマガダエロは、すぐさま第二撃を放つ。由真は、それも棍棒を横なぎにしてなぎ払った。
「仕方ないな……」
由真は、棍棒を構え直してため息をつく。
「七首竜は、七つある首の一つ一つが意思を持ってて、それぞれが敵の動きに反応して、火炎、暴風、闇系統の力で攻撃できる。同時に、その七首の意思は、胴体にある『コア』の管理下にあって、最適な行動を採れるように制御されてる。あと、しっぽにも視覚と聴覚があって、振り回してつぶすこともできるから、背後を取ればいい、って訳でもない」
――由真は蕩々と説明する。
「なんで、そんなこと知ってるの?」
「上位の魔物のことは、サニアさんから聞いてたから。……正直、説明で口を動かすのはあっちにやらせたかったんだけどね」
そう言われて、晴美は我に返った。
(由真ちゃんに、何から何までおんぶにだっこじゃない!)
魔法と物理による戦闘だけでなく、敵に関する情報収集すら、もっぱら由真が一人でこなしている。
それに対して自分は、由真ほどの戦力も持たない上に、それをここまで「温存」してきた。
無様に転がっている「勇者様」をあざける前に、自分とて、やるべきことがある。
「それじゃ……私が魔法で七首竜を攻略するしかないわね」
そういって、晴美は槍を構える。
「もうこれ以上、戦力の温存はいらないでしょ? 由真ちゃんに任せきり、って訳にはいかないから、そろそろ行くわよ」
「ああ、そのとおりだ。これ以上後ろでのんびりやってちゃ、A級冒険者の名が廃るってもんだ」
そういって、ゲントが剣を抜き前に踏み出した。仙道と和葉もやはり進み出る。
「『風よ輝く水をまといて敵を討て』……」
そして、後ろからは詠唱の声が通った。
温存されていた戦力は、当然疲弊はしておらず、士気もたまりにたまっています。
その戦力が、次回、ドラゴンに挑みます。