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79. 魔将マガダエロ

サイクロプスは所詮「雑魚」。そんなレベルの強敵が来ます。

「サイクロプスの群れすら、あっさりと一蹴するとは……当代の勇者は、なかなか侮れぬな」


 そう口を切る男。その外見は、ここまで現れた魔物どもとは異なり、長身で筋骨隆々とはしていても、人間の男性のそれだった。

 しかし、青を通り越して紫色に見える肌の色が、常人との違いを示していた。

 光系統魔法を使う晴美には、相手の帯びた「ラ」の強さもわかる。それは――ダニエロとサイクロプス34体を全て合わせたよりも、さらに強大だった。


「来やがったか、本物の魔族が」

 そういって剣を構えるゲント。


「あ、あれが、魔族?」

「はい。その中でも、特に強い個体です」

 晴美の問いに答えつつ、ユイナも錫杖を構えた。晴美も、それ以上の追求は後回しにして槍を構える。


「てめぇは、確か……魔将マガダエロ……だな?」

「私の顔を知っていたか、冒険者ゲント・リベロ」

 ゲントの問いに、相手――魔将マガダエロが答える。


「へえ、俺も顔を覚えられてたか」

「貴様は、ノーディアでも数少ない現役A級。当然顔は知っている」

 そういうと、魔将マガダエロは晴美たちの方に目を向けた。


「そこのプレートアーマーの男……『マクロ』を持っているということは、貴様が『勇者』か」

 魔将マガダエロの目が平田正志を射貫く。

「そ、そうだ! 俺は、異世界『ニホン』より召喚された、マサシ・バルノ・フィン・ヒラタだ! 仲間たちとともに、貴様を倒す!」

 平田は、聖剣「マクロ」を突きつけて、真っ正面から宣言した。


「言っちゃいましたね」

「そうね。これ、秘密だったんじゃ?」

「公開は、してませんでしたけど、あの、勇者様の名が広まれば、必然的に明かされる話、だとは思いますけど……」


 傍らで聞いていたユイナと晴美は、そんな言葉を交わしてしまう。


「……ってこたぁ、ひょっとして、ユマにハルミ、センドウとカズハも……」

「僕以外、合計39人は、彼の言う『異世界ニホン』から召喚された……ということになってますね、王都の神殿によれば」

 ゲントの問いに、由真がそう答えた。


「え、いえ……由真ちゃんも含めて40人、アルヴィノ王子とドルカオ司教に無理矢理召喚されました」

 神殿側の勝手な解釈ではない「真実」を、晴美は補う。


「へえ、あのアホ王子に生臭司教に、んな大それたことができたのか」

「……候補の調査と、召喚に必要な『ア』と『ラ』の術式設定は、私がやりました。規模を勝手に拡大したのは、モールソ神官とドルカオ司教ですけど」

 そういって、ユイナは深いため息をつき、そして晴美たちに向かって深々と頭を下げる。


「今まで、黙っていて申し訳ありませんでした。皆さんを、この世界へ無理矢理引きずり込んだ、その召喚術式を行ったのは……他でもない、この私です」

 この一件の「張本人」は他ならぬ自分だ、と、ユイナはそう告白した。


 召喚された直後なら、恨み言をぶつけたかもしれない。

 しかし、ユイナとは一月以上のつきあいができた。彼女の能力と人柄に触れて、それでもなお恨みを向けるなど、少なくとも晴美にはできなかった。


「召喚を行った、じゃなくて……無理矢理行わされた、ですよね。『神祇官候補生』として」


 そこへ穏やかな言葉をかけたのは、由真だった。

「この一件」の「最大の被害者」。性別を変えられ、鍛え抜かれた身体能力を失い、「雑兵」として虐げられた彼女。

 彼女こそ、「張本人」に「恨み言」を向ける資格がある。

 その彼女は――ユイナの「立場」に対する理解を、言葉にして口にした。


「とにかく、その話は、後回しにしましょう。僕たちは……たぶんラスボスと、対決している最中です」


 それで、晴美は我に返った。ユイナも、深く下げていた頭を上げる。

 見ると、魔将マガダエロと「勇者」平田は、未だにらみ合いを続けていた。


「ここまで、晴美さんも仙道君も和葉さんも、ユイナさんにゲントさんも、『温存』をお願いしていましたけど……残念ながら、『温存』していた戦力を使わざるを得なくなりましたね」

 続く言葉に、ゲントさえも目を見開く。


「って、ユマ、お前、まさかこれを予想して?」

「ダニエロが『ラスボス』ではない、とは思っていました。第四層以下まであるダンジョンの、第三層入り口まで出張ってきて、偵察隊に石化やら解呪やらを仕掛ける。……明らかに『牽制』ですし、明らかに『上からの指示』ですから」

 そう言いつつ、由真は棍棒を構える。


「まあ、勇者様ご一行が彼を倒してくれれば、僕たちが『温存』していた分は、使わずに済みますけど」

「……それは、是非そうしてほしいわね。ここまで無理に進んだのは、その『勇者様』の御意向なんだから」


 晴美は、どうにかそんな言葉を口にすることができた。

 晴美たちは、第三層でダニエロを倒した時点で、いったん撤収するよう「進言」はした。

 それを無視して進んだのは平田たちなのだから、自分たちだけで片付けるべきだ。



 そんなことを思っているうちに、平田は毛利を伴ってマガダエロに突撃を開始した。

 マガダエロは、剣を構えつつ、左手を開いて前にかざした。


「うがっ?!」

 毛利が奇声を上げて弾き飛ばされる。その巨躯が地面に叩きつけられて転がった。

「なっ! 貴様っ!」

 それを見た平田が、怒りをあらわに聖剣を振り下ろす。しかしマガダエロは、剣を前方に軽くかざすだけで、平田の斬撃を止めた。


「なにっ?!」

「ふむ、力は悪くないが……技は話にならんな」

 そういうと、マガダエロは平田の聖剣を右下へとさばき、できあがった隙間から顔面へと剣を突く。


「ぬあっ?!」

 平田は慌てて左手で顔をかばう。マガダエロの斬撃は、平田の籠手によって防がれた。

「くっ、くそっ!」

 そこから平田は、横なぎに剣を振るう。しかしマガダエロは、右側から来たその斬撃を剣であっさり左側へと弾き飛ばし、空いた平田の胴に突きを入れた。

「ぐあっ!」

 平田はそのまま弾き飛ばされる。プレートアーマーに守られて、身体には傷を負った様子はないものの、ダメージは少なからずあると見えた。


「……【雷刃】!」


 それまで黙っていた嵯峨恵令奈が詠唱する。

 その杖から雷撃が放たれて――マガダエロの眼前で弾き飛ばされた。


「な?! まさか、あいつも解呪を?!」

「いえ、あれは、ただの魔法障壁です」

 警戒の声を上げるゲントに、由真が淡々と告げる。


「けど、レベル7の雷系統魔法を防ぐなんて……」

 錫杖を構えつつ、ユイナがうめく。


「……【風弾】……【雷槌】」


 嵯峨恵令奈は続けざまに詠唱した。「風弾」はマガダエロの間近の地面を直撃し、そこから砂埃が巻き上がる。

 マガダエロが顔をしかめて目をかばおうとしたところに、その真上から激しい雷撃が下された。


「ちっ」

 マガダエロは、とっさに飛び退き雷撃をかわした。


「へえ、あっちの嬢ちゃんは、なかなかやるじゃねえか」

「風系統魔法と雷系統魔法、両方レベル7です。実戦の戦力としては、あちら側では最強ですね」

 ゲントが嘆息し、ユイナが説明する。「勇者様の団」の個人情報は、今や晒し者状態だった。


「……【風刃二連】……【雷槌】」


 いったん退いたマガダエロに、嵯峨恵令奈は「風の刃」と雷撃で追撃を続ける。


「なるほど……魔法導師は、やっかいだな!」

 マガダエロは剣をかざす。次の瞬間、そこから闇系統魔法の「ダ」が放たれる。

「危ない!」

 由真が身を乗り出して棍棒を振り下ろす。それによって、マガダエロが放った「ダ」は雲散霧消した。


「そうか。やはり、一番やっかいなのは、貴様だったか」

 それを見たマガダエロは、はっきりと由真を見据える。


「き、きさま……貴様の相手は、この俺だ!」

 そこへ、立ち上がった平田が聖剣を振り下ろす。

 しかしマガダエロは、目も向けずに左から右へ剣を振るい、平田をはね飛ばしてしまう。


「そこの女神官と女騎士も、ゲント・リベロがかすむほどの器だが……貴様はそれすらも凌駕している」

 その瞬間、由真の表情が険しくなる。

「もう1体、下から来ます! SS……それ以上の個体ですっ!」

 ユイナが叫ぶ。それは、もはや悲鳴とすら聞こえた。


「気づかれたか。ならば、もう隠す必要もない」


 マガダエロの言葉とともに、その傍らの地面が割れる。次の瞬間、そこに巨大な塊が出現した。

温存に次ぐ温存。

それでもまだ「使わずに済みますけど」という由真ちゃん。


勇者様のブラック鎮守府の下でも、由真ちゃん艦隊はホワイトなようです。

そして、敵にもさらに手札があって――次回に続きます。

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