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7. 見捨てることは絶対できない

引き続き、彼女の見せ場です。

「渡良瀬君、あなた……女の子になってる……のよね?」


 相沢晴美のその言葉で。

 ようやく、その事実が、クラスメイトたちに明かされた。


「遠目でも、おかしいと思ったのよ。それに、女神官さんは『性別は女』、『彼女の』って言うし……性別は自己申告してるから、間違いでそんなこと言うはずもないもの」

 そういって、相沢晴美は大きくため息をつく。


「こんな『異世界召喚』なんてことに巻き込まれた現状じゃ、科学的な説明なんて全く無意味よね。はっきりしているのは、この『異世界召喚』で不具合が起きて、『男子』のはずの渡良瀬君は『女子』になってしまった。レベルとかギフトとかが『ゼロ』っていうのは、たぶん、その不具合の影響だと思うわ」

 相沢晴美は、渡良瀬(わたらせ)由真(よしまさ)の状況に対してすら、冷静な観察力を向けていた。


「『男子』が『女子』になってしまった。それも、こんな危険な『異世界』で。最悪の事態よね。自我が崩壊するほどの危機よね。少なくとも私は、今の渡良瀬君を見捨てることは絶対できない」

 由真の目を見据えて、相沢晴美ははっきりと言い切った。

 自分の置かれた状況。それに気づいてくれた。それに同情してくれた。そして、この状況に置かれた自分を「見捨てることは絶対できない」とまで言い切ってくれた。

 その情に触れて、由真の胸の奥から熱がこみ上げ、そして瞳が潤む。


「いや! ちょっと待て!」

 叫び声が、その空間を引き裂く。氷の壁に阻まれていたドルカオ司教が、ようやく身体を出してきた。

「貴公らの召還は、我らの貴重な血税をもって行われている! 故に、我らは、国家にとって有益なギフトを持つ者しか保護することはできん!」

 ドルカオ司教が口にした「貴重な血税」。その言葉に、クラスメイトの多くが息を詰まらせる気配を見せた。


「我らとて、酔狂でこのようなことをしている訳ではない! 臣民の納得を得られるよう、適切な対応が求められておるのだ! Sクラスの二人には従者をつけて世話をしよう。Aクラスの五人も同様だ。BクラスとCクラスの諸君についても衣食住は保証する。しかし、ギフトのない者に、貴重な血税を使う訳にはいかぬのだ!」

「……だったら、そもそもこんな『異世界召喚』のためにその『貴重な血税』とやらを使うのがおかしいでしょう?」

 ドルカオ司教の「演説」は、相沢晴美の冷徹な声に遮られた。


「ここにいる、神官? 聖職者が目算で20人近く。渡良瀬君を取り押さえようとした兵士だけでも8人。予備の人員もいるのでしょう? その人件費は? 日当は? 全て、あなたの言う『貴重な血税』から支払われている。違いますか?」

 続く言葉に、ドルカオ司教はぐっと声を詰まらせる。

「あまつさえ、SクラスとAクラスには従者をつけて世話をする? その必要経費はどこから出ているのです?」

 その問いかけに対する答えはなかった。


「残念ながら、この場では私たちに地の利が圧倒的にない。あなたの思惑を完全に封殺するのは無理でしょうね。それなら……私につけられる『従者』には、この渡良瀬君を指名します。それなら、あなたの言う『貴重な血税』の無駄遣いは、一切ありませんよね?」

「なっ、いや、それは……Sクラスの貴公に奉仕する者は、こちらが責任をもって……」

「責任を持って一挙手一投足を見張って牽制できる者をつける? お断り……と言いたいところですけど、私たちには地の利がありませんので……渡良瀬君を従者筆頭とし、かれ……彼女の命令に絶対服従する、という条件の下で、あなた方の人選する『従者』とやらを受け入れましょう」

 この場を率いている司教に対して、相沢晴美は堂々たる態度で要求した。


(相沢さん……すごいな……)

 その姿を前にした由真は、ただ嘆息するよりない。「男子」のはずの自分は、これほど冷静な観察力と洞察力をもって、これほど堂々と交渉することなど、到底できない。そのおかげで、この「異世界」における「生存」の道が開けようとしているのだからなおさらだった。


「きっ、貴様!」

 それまで黙っていたアルヴィノ王子が叫ぶ。

「先ほどから黙って聞いていれば、何様のつもりだ! 己の立場がわかっているのか!」

「その言葉は、そのままあなたに進呈しますよ、兄上」

お昼にもう1話予約投稿します。

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