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78. サイクロプスの大群

ブラック体質でデスマーチなことを進めると、障害も発生しがちになるもので…

「あれはテンプレの『召喚勇者』。晴美が止めてくれないと、うちのクラスに死人が出る」


 先頭に立つ由真が、晴美たちにだけ聞こえるような声で、そんな言葉をささやいた。


「え? 何それ?」

「愛香さんの台詞。例の、オーガとゴブリンに襲われた夜に、『勇者様』は横暴だ、って話になってね、愛香さんがそんなこと言ってたんだ」

 晴美の問いに由真が答える。


「……少なくとも、ここにいる『勇者様の団』の主力部隊と斥候部隊……死人が出てもおかしくないような気はするね」

 軽い口調で由真は言う。


「それは……そうよね、実際……」

 言葉を返すと、晴美の背筋が冷えてくる。


 オーガとゴブリンの大群にしても、正面から戦っていれば、犠牲者が出た可能性は十分にあった。


 ましてダニエロとの戦いは、石化された毛利は、程度によっては落命していたはずだ。

 晴美も、ユイナに拵えてもらったS級アマリトを身につけていたおかげで、ダニエロにも十分対抗できる「光をまとった氷の壁」を展開できた。

 でなければ、魔法耐性のない仙道や和葉に被害が及んだ恐れがある。


 そして今。

 すでに敵の「ボス」は倒している。ダンジョンの「さらなる攻略」を狙うにしても、今日はいったん撤収して、休息を取り準備を整えてから挑めばよい。

 それなのにあえて先を急ごうとする。この先で「さらなる強敵」が現れた場合、今度こそ犠牲が出るかもしれない。


「由真の言うとおりだ。……しかし、あの聖剣を持ってる以上、奴には対抗できない」

 横から仙道も言う。


「……それ、持たせちゃいけない人に持たせちゃった、って訳?」

「仕方ないよ。聖剣を扱えるのは、それ向けのギフトが与えられた人だけ。だから、聖剣関係のギフトを持ってると、問答無用で『勇者様』って訳だからさ」

 読書によって「この世界」の知識を蓄積している由真は、そういって笑ってみせる。


「だから、なんで彼なんかにそんな『ギフト』が与えられたのかしらね。由真ちゃんが、って言うならわかるけど……」

「まあ、こればっかりはしょうがないよ。僕は『ギフト『ゼロ』』なんだから」

「……それが、愛香が言ってた『チート』だ、ってとこに、かけるしかないわね」

 ステータス判定の時に愛香が口にした言葉を引き合いに出して、晴美は自らの動揺を押さえつけた。



 扉を開けて、階段を降りた先の第四層。その入り口には、空洞が広がっていた。


「これは! オーガより強い『ラ』が……」

「34体、ですね。これはたぶん……」


 ユイナの声に由真が応じる。そして、空洞の向こう側から次々と巨漢が現れる。


「ってあれ! 全部一つ目お化け! 何この数!」

 視力に優れた和葉が叫ぶ。


「ま、まさか……ダニエロみたいのが、えっと、34?」

「いや、それはないよ、さすがに」

 晴美が漏らした言葉を、由真は否定する。


「あれは、ただのサイクロプス。もちろん、オーガなんかより膂力は強いし頑丈だけど、それだけだよ」

「っておい、ただのサイクロプスったって、生半可な強さじゃねえぞ」

 由真が軽く言うと、ゲントが後ろから言う。


「まあ、そうですけど……一度に34体。この数は……結局のところ『雑兵』です」

 そう言いつつ、由真は棍棒を構える。


「ぞうひょう、ってお前……」

「数に頼んでくる敵は、『雑兵』以外の何者でもありません。なので……」

 そういうと、由真は無造作に歩き出す。

「……ここは、『雑兵』が始末します。皆さんは、引き続き体力を温存してください」



 前進する由真に、サイクロプスどもが駆け寄る。程なく、両者は接触した。


 眼前に立ちはだかったサイクロプスを、由真は棍棒で袈裟斬りする。

 ただの棍棒のはずのそれは、鋭利な剣のようにサイクロプスの巨躯を切り裂いた。


 踏み込みつつ、由真は次のサイクロプスを横なぎに切る。同時に、切り裂かれたサイクロプスの肉体が、あたかも腐食していくかのように崩れていく。


 由真は、さらに踏み込んで3体目に棍棒を突き刺す。

 その頃には、1体目だったものは、頭部を残して後はスライム状となり、2体目も腐食が始まった。


 後ろに回り込む形になった2体が斧とハンマーを振り下ろす。

 由真は転身して、左手の個体の攻撃をかわしつつ、右手の個体のハンマーを棍棒で受け止める。ハンマーは砕け散り、由真の棍棒がサイクロプス本体を切り裂いた。


 左手の個体の斧の二撃目が来る前に、由真は素早く踏み込んで横なぎに切り捨てる。

 些か遠巻きになった瞬間、由真は転身して、間近にいた2体を立て続けに切る。

 そこへ接近した3体も、忽ちに棍棒の餌食となった。


「あれは、時代劇の殺陣だな」

 仙道が、そういって嘆息を漏らす。

 由真は、周囲から群がるサイクロプスを相手に棍棒を振るい続け、最後に残った4体も立て続けに切り捨てた。


 倒されたサイクロプスの肉体は、全て頭部以外が崩れ去って形を失っていた。由真自身には、返り血も全くついていない。


「ふう……これで、雑魚狩りは完了かな」

 深呼吸して、由真はそう言った。


「いや、ユマお前……一応言っとくが、サイクロプスは雑魚じゃねえからな」

 その姿を見て、ゲントがやや青ざめた顔で言う。経験豊富な冒険者の彼も、由真の力量には圧倒されているのだろう。


「いえ? ゲントさん、これは雑魚ですよ? だって、ほら……」

「え? あ! こ、これっ! SS級個体!!」


 由真が指さすと同時に、ユイナが叫ぶ。その先に――男が一人現れた。

「一応言っとくが、サイクロプスは雑魚じゃねえからな」

ゲントさんのこの台詞、作者の代弁でもあります。

本来なら、全員「捨て艦」です。


最後の1行から、次回に続きます。

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