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77. さらなる進軍

強敵を倒した彼らは――

 S級個体「邪眼のダニエロ」が、「勇者」平田正志男爵の斬撃によって斃された。

 それを見た瞬間、晴美は「氷の壁」から飛び出して由真に駆け寄る。


「由真ちゃんっ!」

 たどり着いた瞬間に、晴美は由真の肩を抱きしめていた。


「由真ちゃん、無茶しないでっ!」

「ユマさん、こんな、お一人で全部背負わないでください!」

 傍らで、ユイナも由真の背中にすがる。仙道と和葉も、由真の肩に手を添えていた。


「ユマ、お前は……無茶してるように見えねぇとこが怖えな。けど、ユイナの言うとおり、一人であんま背負い込むな。温存温存って、俺たちだって戦力なんだからな」

 ゲントも、晴美たちの傍らでそんなことを言う。


「そうだよ! 第一、温存って、もうラスボス倒しちゃったんだし……」

 和葉が言う。確かに、「石化」と「解呪」を使うダニエロを倒した今、晴美やユイナの魔法も、仙道や和葉の物理攻撃も、もはや「出し惜しみ」する必要もない。


「毛利、もう大丈夫か?」

「ああ。……死ぬかと思ったぜ」


 やや離れたところから聞こえる会話。ダニエロの「石化」を食らった毛利剛は、聖剣の鞘「マクリア」によって完全回復した様子だった。


「この先に、第四層があるんだったな。よし、行くぞ」

 聞こえてきた平田の声。晴美は、空耳かと思いたかった。


「あの、今日は、ダニエロも撃退したことですし、ここで、いったん撤収した方が……」

 ユイナがすかさず言葉を返す。「今日の作戦はここまで」。それが晴美の認識であり、ユイナも同じ考えだった。


「いや、ここまで来ているんだから、第四層まで進むべきだろう。ここまでの戦力がそろってる機会は滅多にないんだし、第一、殿下が強く期待されてるんだ。このダンジョン、つぶせるうちにつぶしておくべきだ」


 ――「どこからツッコんだらいいのかわからない」。晴美の意識は、そんな言葉に覆われてしまう。


「あの、ダニエロ戦までで、相当疲弊してますし、戦力的に……」

「戦力に問題はないだろう。それに、この程度で疲れてるような奴がいるのか?」

 その台詞に、晴美の理解力は全く追随できなかった。


(それはあなたは疲れてないでしょうね? その剣を一回振っただけなんだから。

 で、戦力って? 何から何まで由真ちゃん頼みで、何の戦力? 石化されてた木偶の坊なんか何の役に立つのよ?

 だいたいから、敵のボスは倒して一段落ついてるんだから、ここで一区切りして引き返すのが当然じゃないの?

 まして、あのアホ王子のためにリスクを冒すとか、そんなのに他人をつきあわせるつもり?)


 晴美の心中に、「ツッコミ」の言葉が次々とわいてくる。


「まあ、疲れてはいないと思う。ここまで温存してるはずだし。戦力的にも、ダニエロを倒したのは、聖剣を持ってる『勇者様』だからね」

 そうささやく声。晴美たちの中心で、由真が口を切った。


「それはそう……って! いや、由真ちゃんがめっちゃ疲れてるよね?!」

 和葉が「ツッコミ」を入れる。


 そう。他ならぬ由真は、第三層の索敵、「オーガ7体にゴブリン82体」の殲滅、ダニエロとの戦いと戦闘を続けている。

 HPやMPの概念がある世界なら、とうにスタミナ切れになっていてもおかしくない。


「僕は、『雑兵』だから、疲弊とかは気にしなくてもいいよ」

「ちょっと由真ちゃん、なに変なこと言ってるのよ。この場の戦力、実質的には由真ちゃん一人よ?」

 由真の言葉に、以前の「渡良瀬由真」――「自分を抑え殻にこもりがちな天才」の姿を感じて、晴美は強い言葉をかける。


「おい、相沢に桂木。おしゃべりは程々にしておけ。まだ先はあるんだぞ」


 ――平田の言葉が、晴美の心に重く冷たくのしかかる。


「先? そんなの、私たちは知らないわよ。行くなら、あなたたち『主力部隊』だけで行けば?」

 そんな言葉を抑えることができない。「ダンジョンの第三層」という状況でありながら、晴美の心は「勇者」気取りの男に対する憤りに支配されていた。


「ああ? っざけんな相沢! お前らは俺らの命令に従ってりゃいいんだよ!」

「あら? 石像になってた人が、ずいぶんと元気ね」

 つい先ほど無様に「石化」された男の傲慢な態度。晴美は言葉のとげを抑えるつもりもなくなっていた。


「んだとコラ!」

「【光の盾】!」

 近寄ろうとした毛利の眼前に、ユイナが「光の盾」を展開する。毛利はそれに激突してうずくまった。


「お前ら、こんなとこまで来て、仲間割れを起こすつもりか?」

 低く沈んだ声で言うと、平田は聖剣を抜いた。


「あれには……対抗できない。俺たちは、平田には逆らえない」

 それまで無言だった仙道が、聖剣の刀身を見て言う。

 仙道が平田に対して持っていた技術的優位すらも、聖剣の前では無に帰するということなのだろう。


「……とにかく、勇者様のご命令ですから、仕方がありません。先に進みましょう」

 ――そう口にしたのは、他ならぬ由真だった。


「由真?」

「由真ちゃん?」

「ぼやぼやしていても仕方ありません。行くならさっさと出発しないと」

 仙道と晴美が同時に声をかける。しかし由真は、二人をあっさりと振り切る。


「わかったら、さっさと進め!」

 そういって、聖剣を軍刀よろしく振る平田。由真も晴美たちも、それに従うほかなかった。

聖剣のスタイリッシュな使い方「反抗的な部下を脅して黙らせるために突きつける」。


ブラックな「勇者様の団」は、さらに進みます。

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