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76. 決着

タイトルのとおりです。

「【アイゼスヴァント・ミット・デム・リヒト】!」


 晴美の詠唱の声が響く。由真が言ったとおり、晴美は前方に「氷の壁」を展開して防御を固めた。


「小娘……貴様ぁ!」


 前方のダニエロが吠え、上方から岩が二つ落下してくる。

 由真は、それを棍棒で弾いて――その「存在」を消した。


「な、なにぃ?!」

「自分にできる『解呪』が、他にもできる奴がいる、って考えないかな?」


 棍棒で軽く叩かれただけで粉々に砕け散った岩塊。愕然とする相手に、由真は冷ややかに応じた。


「ぅおのれぇ!!」

 叫びつつ、ダニエロは斧を振り上げ、由真に斬りかかった。


「だからさ」

 由真は、それを棍棒で受け止める。結果――斧は跡形もなく砕け散った。


「いくら質量があっても、いくら地系統魔法で強化してあっても……解呪くらいはできるんだよ」

 そう言って、由真は相手に向けて棍棒を構える。


「ば、バカな……斧までもが……き、貴様、何者だぁ!」

 自慢の斧すら砕かれて、ダニエロは焦りと怒りをあらわにする。

「僕? ただの『雑兵』だよ」

 構えは崩さず、由真は答える。


「おのれ……ふざけるなぁ!」


 ダニエロは、由真に向けて右拳を振り下ろす。由真は、足さばきで身をずらして攻撃をかわす。

 続けて飛んできたフック気味の左拳も、同様にしてかわしてやる。

 さらに右・左と続くストレートも、やはり最小限の動きで回避する。


「おのれ……おのれぇ! ちょこまかとぉ!」

 攻撃を紙一重でかわされ続けて、ダニエロはいよいよ興奮し、由真に拳を振るい続ける。



(やっぱり、この展開か……)


 ダニエロの攻撃を見切り回避し続けながら、由真は密かに思う。


(こいつは、『ラ』が強すぎて……身体消去も、生命消去も通じない。棍棒も温存した方がいい、となると……厳しいな)


 無系統魔法による「解呪」。岩塊も斧も、いずれもそれで対抗できた。

 しかし、強い「ラ」を持つダニエロそのものに対しては、さすがに同じ術は通用しない。


 棍棒で対抗できる確証が持てるなら、あるいは、棍棒のスペアが用意されているのなら、反撃に転ずることもできる。

 しかし、そうでなければ、今ここで、ダニエロ相手に棍棒を折られてしまうと後がない。


(石化と解呪は、今使ってないだけだけだし……これを封じるのも……きついか)


 ダニエロは、眼前にいる「石化も解呪も通じない小娘」を相手に、術を使わず徒手空拳で暴れている。

 しかし、それ以外の敵が加勢してくるなら、容赦なく石化を使ってくるだろう。


(対抗できる奴は……一人だけいるんだけど……)


 ダニエロの手札を全て無効にできる聖剣「マクロ」を持つ「勇者様」。その「勇者様」は、由真に「切り込み」を命じたきり、毛利の様子を見ているばかりだった。


(『勇者様』がいるのに、僕がリスクを取ることはないよな)


 どのみち、このダンジョンにおける「戦果」は、全て「勇者様」のものとされてしまう。

 それなら、「雑兵」の自分がリスクを冒して「切り札」を使うなど馬鹿げている。


「勇者様。私は、いつまでこうしていればよろしいのでしょうか?」


 由真は、後ろに振り返り、「勇者様」に向かって声をかける。


「おのれ! よそ見だと?!」


 前方のダニエロは、後ろを向いた由真を見てますます怒る。


(別に、目線は向けなくてもいいから)

 視覚情報に頼らずとも。

 光系統魔法を使えば、敵の動きを察知し、見切り、そして回避することは造作もない。


「ご命令どおり、この魔物の前に切り込みはいたしました。そして、今交戦中です。ですが……」


 そこまで言っても、「勇者様」は顔を向けるだけだった。


「ですが勇者様、たかが『雑兵』ごときに、これ以上……何を期待されているのでしょうか?」


 そう言ってやると、ようやく「勇者様」は目を見開いた。


「この魔物を倒すことができるのは……勇者様がアルヴィノ王子殿下より賜った、その聖剣『マクロ』のみです」

「……くっ……」

 由真のその言葉を受けて、「勇者様」こと平田男爵は、ゆっくりと立ち上がり、ダニエロへと歩み寄り始める。


(やっと来たか)


 思わずため息が漏れる。それでも由真は、平田男爵が来るまでの「最後の時間稼ぎ」のために、目線をダニエロに戻した。


「おのれ! ちょこまかと! この小娘が!」


 由真に攻撃をことごとく回避され続けた怒りに支配されているのだろう。

 ダニエロは、由真を捕まえようと躍起になっていて、「より危険な敵」――「勇者」平田正志男爵の存在すら気にかけていない様子だった。

 由真は、その攻撃をかわしつつ、足さばきにより、相手を平田の方へと誘導する。


「この……怪物め! 食らえっ!」


 大仰な叫びとともに、平田男爵はダニエロの背後から「マクロ」を振り上げ、そして振り下ろした。

 その斬撃は、ダニエロの背中を斜めに貫く。胴が切り離されこそしなかったものの、その傷は内蔵を引き裂いていた。


「ぐ?! ぐぬお?! おおおっ!」

 突然の一撃に、ダニエロは驚き、そして深手の傷を癒やすための地系統魔法を使おうとする。

「残念だけど、それはダメ」

 そういって、由真はダニエロの体に棍棒をあてがう。斬撃で弱った相手の魔法能力は、もはや簡単に封じることができた。


「それじゃ、ごきげんよう、一つ目お化け」


 由真のその言葉に応えるかのように、ダニエロは地に倒れた。

最後は、我らが勇者様が聖剣をもって華麗に一刀両断しました(真っ二つになってはいないので厳密には違いますが)。

聖剣の力はすごいのです。

邪眼のダニエロ、「残酷な描写」によりこれにて退場です。


なお、ダンジョン攻略編はもう少しだけ続きます。

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