75. 接敵
前回「レイド」の戦力を退けた強敵。由真ちゃんと勇者様が、いよいよ対面します。
「小娘……雑兵どもに、何をしたぁ!」
恫喝の声とともに、一つ目の巨漢――邪眼のダニエロは強い「ダ」を放った。
それは、真正面に立つ由真に襲いかかり――その効果を失った。
「由真ちゃん?!」
「ユマさん!」
「ユマ!」
「なに?!」
後ろから、晴美、ユイナ、ゲントの声。前からは、ダニエロの叫び。いずれも驚きを帯びていた。
「なんだ、単なる石化の地系統魔法か」
「ギフト」の恩恵によるもの。強力な「ダ」をもって放たれるもの。解呪もできる敵が使うもの。
それらの要素を排除して、この術式を解析すれば、それ自体は複雑でも怪奇でもない。
「あ? なにやってんだ?」
後ろから聞こえる声。光系統魔法であえて解析するまでもなく、毛利剛が踏み込んできたのがわかる。
「渡良瀬、突っ立ってねえでとっとと行けよ!」
といって由真を足蹴にしようとする毛利。
それに「つきあう」義理もない由真は、左に身をずらしてそれを回避する。
「ふん!」
その瞬間、前方のダニエロが再び「ダ」を放った。
それは正面から毛利をとらえ――その腹部から脚までが一瞬にして「石」になった。
「な?! あ?! な?! え?!」
意味のある言葉を発することもできずに、片足立ちの石像と化した毛利は、そのまま地面に倒れた。
「なっ! なんだこれ?! も、毛利! 大丈夫か?!」
そこへ駆け寄る平田正志男爵。
「ふん!」
ダニエロは再び叫ぶ。また放たれる「ダ」。
今度は平田男爵と由真に浴びせられたそれは――いずれも効力を生じなかった。
「な、なに?! どうなっている?!」
ダニエロは、驚きをあらわにしていた。
自慢の「石化の邪眼」。これまでは百発百中で発動していたのであろうそれが、眼前の人間二人には一切通用しない。
「どうもこうもないよ。君の『邪眼』は、彼には通用しない。それだけのことだよ」
ダニエロに向かってそう言いつつ、由真は平田男爵を指さした。
「彼が佩いてる剣、なんだかわからない?」
「それは……も、もしや、……聖剣『マクロ』!」
「正解。さすがに君は、もぐりじゃないみたいだね」
由真は、ダニエロと「会話」していた。
相手の「石化の邪眼」は自分にも平田男爵にも通用しないこと。
平田男爵が「聖剣」を持つ者――すなわち「勇者」であること。
それを知らしめることで、相手に撤退を勧告する。由真は、そこまでは意図していた。
(まあ、退きはしないだろうけど、それに……)
「お、お前! 何をのんきにおしゃべりしてる! なんだかわからんが、奴の術が通じないなら、さっさと切り込め!」
――「勇者様」は、物言いまでも神殿側と同じになったらしい。
「仕方ありませんね、『勇者様』の御言葉とあれば」
そう答えて、ため息を一つついて、由真はダニエロに向けて歩みを進める。
「って、ちょっと由真ちゃん!」
「ユマ! お前、一人で踏み込むつもりか!」
後ろから、晴美とゲントの声がする。しかし、由真はかまわず前進する。
「おい! 毛利! しっかりしろ! 相沢、これ、なんとかしてくれ!」
平田男爵のその声に、由真の胸の奥から再びため息が漏れてくる。「雑兵」を「死地」へ進ませて、自分は「お仲間」の心配とは。さすがは「勇者様」、としか言いようがない。
「そんなの知らないわよ! それより、由真ちゃんを一人で行かせるなんてっ!」
晴美の声。彼女も前に進もうとしている。
由真は――前方のダニエロへの警戒は怠らずに――顔を少しだけ後ろに向ける。
「晴美さんは動かないで。ユイナさんのアマリトがあるよね? その加護をもって防壁を展開すれば、ダニエロの攻撃には対抗できるから、それでみんなをガードして」
そう言いつつ、転がった毛利とそれを抱え起こそうとする平田男爵が目に入り、由真は三度ため息をついてしまう。
「嵯峨さん?」
由真は、その名を呼びかけていた。
「幼馴染み」の聖奈ではなく、「1年からの同級生」だった平田でもなく、クラスも違い話したことすらなかった同級生。
しかし、この場において、由真は、彼女以外の相手に話しかける気にはなれなかった。
「勇者様の持ってる聖剣の鞘、『マクリア』っていうんだけど、それには、魔法による状態異常を緩和・解消する効果がある。それを触れさせておけば、その石化は、自然に治るから」
要件だけを告げると、由真は再びダニエロに向かった。
聖剣の鞘に治癒の効果があるのは昔からの様式美であって、某シリーズのア○ァロンのパクリでは―
毛利くんはかませ犬として平常運行です。