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74. 進入

ずいぶん時間(と文字数)をかけて、ようやく出陣します。

 21日火曜日の朝。いよいよ、「勇者様の団」が出陣する。

 その「配下」に置かれる「斥候部隊」として、晴美・仙道・和葉にユイナ、そしてゲントと由真が前に立つ。


 主力の「勇者様の団」は、平田正志男爵と毛利剛騎士が鉄製のフルプレートアーマーにヘルメット、度会聖奈騎士と嵯峨恵令奈騎士の二人は革鎧と鎖帷子だった。魔法を使う二人は、専用の杖も与えられている。


 仙道と和葉はブリガンダイン、晴美とユイナは革鎧と鎖帷子で、晴美は杖を兼ねた槍を持ち、ユイナも神官用の錫杖を持つ。

 由真は、常のセーラー服姿のままで、鎖帷子すら身につけていない。その手には、「曙の団」からもらった棍棒が握られていた。


「それで、ほんとに大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。第一、僕は単なる『雑兵』だから」

 晴美の言葉に由真はそう応えた。



「それじゃ、行くぞ!」

 団長たる「勇者様」こと平田男爵の号令一下、「斥候部隊」が前に立ち、「勇者様の団」はダンジョンに入った。「斥候部隊」の最先頭は由真、続くのが索敵の術を使うユイナで、その後ろに仙道・和葉とゲントの「物理組」が続く。


 第一層は、スライムが時折現れるだけだった。出現した個体は、いずれも由真が光系統魔法で退ける。

 第二層に進む。由真が最初に入ったときも、晴美たちが二度目に入ったときも、ここではゴブリンが現れた。しかしこの日は、全く姿を見せない。


「見事に、もぬけの殻です。たぶん、第三層に兵力を集中させているものかと」

 索敵しているユイナが言う。結局彼らは、敵に遭遇することなく、空洞を経て第三層への入り口までたどり着いた。

「こっからは気をつけろ。ダニエロが出やがったのは、このすぐ先だからな」

 ゲントが言うと、「斥候部隊」は一様に気を引き締める。他方、後ろに続く「主力部隊」は、特に反応しなかった。


「敵は確認できません。ただし、最奥の空洞は、索敵が解呪されてます」

 第三層に入ってすぐ、ユイナは索敵結果を告げる。


「行くしかねえな」

 ゲントの言葉に、「斥候部隊」は全員が頷いた。そして、事前の情報を頼りに洞窟を進む。


「空洞に索敵が通りました」

 10分ほど歩いたところで、由真はそう切り出した。

「奥側はパッシブの解呪領域、手前にはオーガ7体にゴブリン82体です」

 由真は――ユイナの術式を模倣して――自らが索敵した結果を告げる。


「え?」

「由真ちゃん?」

「お前、索敵もできんのか?」

 ユイナも晴美もゲントも、驚きの様子をあらわにする。


「はい。ですので、ユイナさんは索敵を止めて温存してください。ここからは、僕が索敵とナビをします」

「え? でも、ユマさん……」

「それが、『雑兵』の仕事です」

 ユイナの言葉を由真は遮る。


「オーガ7にゴブリン82、って、それ……」

「残余の戦力を一気に投入して、決戦、ってとこだと思う。ダニエロ自身がパッシブで解呪と石化ができる領域には、戦力をおいても意味はない。その前に確実に『片付ける』ために、雑兵を『外側』に配置した、ってとこじゃないかな」

 晴美の言葉に応えつつ、由真は先頭を切って歩みを進める。


「どうなってるんだ?!」

 後ろから響いてきたのは、他ならぬ平田男爵の声だった。


「この先の空洞に、ボスのサイクロプス『邪眼のダニエロ』、それとオーガ7体にゴブリン82体が待ち構えています!」

 答えたのはユイナだった。彼女以外は、もはやこの男爵と言葉を交わす気すらなくなっている。


「なっ、それは……」

「ふん、そんなの、簡単に蹴散らせんだろ? 『聖女騎士』さんよぉ」

 その下卑た声と言葉。それだけで苛立ちがこみ上げる。


「あの……油断はなさらないでくださいね」

 そして、ユイナすらも、この相手――毛利剛にまともに応対する気力が失せたようだった。



 由真たちは、空洞への入り口にさしかかった。


「オーガ7にゴブリン82……それも、ダニエロの解呪の領域で……どうしよう……」

 晴美が、槍を握りしめて言う。

 強い能力を持つ敵と、頭数の多い兵力。それを前にして慎重になるのは、きわめて当然のことだった。


「私の『氷の剣』に、ユイナさんの『霧雨の嵐』で……」

「それは、どっちも温存しておいて」

 晴美の言葉を、由真は遮る。


「……由真ちゃん?」

「手前にいるのは……所詮オーガとゴブリン。約90は……完全に雑兵だね。だから……その相手は、『雑兵』が務めるよ」

 そういって、由真は、力みもてらいも見せずに、空洞に向けて歩き出す。


「ちょっと待って!」

「ユマさん?!」

「おい! いくら何でも無茶だぞ?!」

 晴美、ユイナ、それにゲントの声。しかし、それにかまわず、由真は空洞に踏み込んだ。


「ギィ!」

「グギィ!」


 たむろするゴブリンども。80を超えるその群れは――それだけで嫌悪感を刺激する。


「逃げ出さないんだね。なら、仕方ないな……」

 そういって、由真は、棍棒を左から右へと振る。


「グギ?」

「ギ?」

「なっ?」


 ゴブリンどもの声、そしてオーガの声もする。直後、眼前の群れはことごとく力を失い、地面に倒れていった。


「え?」

「これ?」

「なんだこりゃ?」


 踏み込んできたユイナと晴美、それにゲントが声を上げる。

 彼らの眼前には――オーガとゴブリン、合計90体ほどの()()が転がっていた。


「雑兵どもの()()()()()()()。ここに転がってるのは、ただの死骸です」


 3人に向けて、由真はそう告げる。オーガ程度までであれば可能な「『生命』の消去」――すなわち「即死魔法」。ここ数日の修練の一つの成果だった。


「これで、残るは……」

 前方に目を向ける。そこには――一つ目の巨漢が立っていた。

バトルになる前に即死魔法で瞬殺。

この主人公はこの程度には慎重になりました。


ちなみに、革の下に金属を貼り付けるタイプの防具のことを、英語では「ブリガンダイン」、ドイツ語では「ブリガンティン」と言います。

晴美さん視点では後者で、由真ちゃん視点では前者で記述します。

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