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72. アマリト

女神官さんにも、やはり準備があります。

 砦では、ユイナが「曙の団」の天幕に頻繁に出入りするようになった。

 これまで彼女を悩ませてきた「兵站事務」。その引き継ぎを受けたC3班は、忽ちに業務を処理し始めた。


「事務処理の分野に関しては、一騎当千です」

 ユイナが喜色満面で言うほどに、彼女たちは力量を発揮していた。


「これで、勇者様たちの『アマリティ』を拵える余裕もできました」

「ユイナさん、その『アマリティ』って、なに?」

 晴美はユイナに尋ねる。サニアから聞かされた「アマリト」という「御守りのようなもの」。それが晴美の心に引っかかっていた。


「ああ、『アマリト』はですね、神格に継続的に祈祷して、それに応じた加護を受けることができる宝珠のことです」

 ユイナの答えた「それ」は、単なる「御守り」ではないのか。


「あの、この世界では、皆さんもご覧になったように、祈祷法のスキルがあると、神々に直接申し上げることができますし、預言法のスキルがあると、神々の御言葉を直接承ることもできます。『アマリト』は、そういう神々に、祈願を常にお伝えして、それをかなえていただけるようにする、という、そういうものなんです」


 それでようやく晴美も得心した。

 確かにここは、モールソ神官ですら(といってはさすがに失礼だが)「神」と「対話」ができる世界である。「神々への祈願」も、日本人が思うより格段に密接なものとなるはずだ。


「『アマリト』は、祈祷法レベル2から作成できます。ただ、『家内安全』とか『豊作祈願』とか『厄除け』とか、そういう大まかな祈願しかこめられませんけど」

 それでは日本の御守りと同程度だろう。


「レベル4以上になると、祈願の内容を具体的に指定できるB級アマリトを作ることができます。レベル6以上では、祈願を記憶水晶に詳細に書き込んで、それを神々にお伝えできるA級アマリトの作成も可能になります。

 それで、モールソ神官は、このA級アマリトを、勇者様と他お三方向けに作るように、と、私に指示してきまして……」


 それが、サニアの言っていた「最強レベルの『アマリト』」なのだろう。やはり、それも「勇者様の団」が優先されるらしい。


「なるほど。『勇者様』は、何から何まで至れり尽くせりね」

「まあ、おかげで、最高品質の水晶をたくさんいただきましたので、皆さんの分も作ることができます」

 ユイナは、笑顔のまま答える。


「え? 私たちの分も?」

「ええ。元々、A級アマリトは、通信部分、演算部分、記憶部分の全てに最高品質の水晶が必要で、しかも、拵えようとしても普通の場合成功率は3割から5割なんです。なので、『勇者様の団』の4人分の名目で、10人分くらいもらって来たんです」

「でも、それじゃ、失敗する可能性が高いんじゃ……」

「それは『普通の場合』……モールソ神官が自分で拵えたりする場合は、です。私は……A級アマリト程度で失敗はしませんよ」

 ――しれっと言うユイナ。さすがは「神官レベル45」だった。


「むしろ、『勇者様の団』がA級アマリトに耐えられるかどうか、そちらが心配ですね」

「どういうこと?」

「A級アマリトは、MNDが300くらいないと、精神的に保たないんです。あの顔ぶれだと、サガさんはMNDが320ですけど、ワタライさんでも230、勇者様は150で、モウリさんに至っては70。……サガさんなら、魔法強化中心で作れるとしても、他の方々は、戦闘力強化に振り向けたB級アマリトの方がいいんですよね、本当は」


 ――またしても個人情報が漏れてきた。


「って、毛利君、たった『70』なの? 美亜と愛香より低いじゃない。あんな威張ってるのに」

「シマクラさんとシチノヘさんは魔法タイプですし……今の環境は、お二人との相性が悪すぎます。これからしばらく事務作業をしていれば、環境になじんで底上げされると思います。モウリさんは……そういう方なんですよ」

 ユイナは、個人情報をさらすだけでなく毒まで吐く。


「まあ、こちら側は、センドウさんは300を超えてますし、カツラギさんも……月曜から、精神的な環境が変わったので、私の見た感じだと、300は超えたと思います。お二人なら、A級アマリトを持っても問題ないです」

 そういうと、ユイナは晴美をまっすぐ見つめる。


「それで、あの、ハルミさんについて、なんですけど……」

「私? A級アマリト? 材料が足りなくなるなら、後回しでもいいわよ」

 由真の「60000」にこそ遠く及ばないものの、晴美もMNDは「1200」ある。アマリトの助けがそこまで必要でもない、とも言える。


「そうじゃなくてですね……あの、ハルミさんなら、『S級アマリト』を持つことができますし……持つべきだと思うんです」

「……『S級』?」

「はい。あの、実は……」


 オウム返しをした晴美の前で、ユイナは神官服の胸元をまさぐり、ペンダントを取り出した。


「私も、自分用に、この『S級アマリト』を持っています。これがあれば、事前書き込みされていない祈願でも、思念すれば神々に聞いていただけますし、非常に強い恩寵もいただけるんです。ただ、これは、あの、MNDが1000を超えていないと、持たせるのは危険なので、他の方には……」


 そんなものを「持つ」ことができるのは、ユイナ自身と晴美くらいのものだろう。


「そう。……って、そういえば、由真ちゃんは、どうなの?」

 MNDが基準となるなら、「60000」の由真なら、いかなる高水準のものでも――


「ユマさん向けのものは……私の手には余ります。あの、それ以前に、ユマさんが操るのは『ヴァ』ですし……」

「ユイナさんの手に余るなら……人の手には余る、ってことかしら?」

「そう……でしょうね」

 そういって、二人はどちらからともなく笑い合う。


「まあ、素材が余るようなら、私向けのものもお願いするわ」

 晴美の言葉に、ユイナは、わかりました、と答えた。

「聖女騎士」の晴美さんと「神官レベル45」のユイナさん。

由真ちゃんを除くと、最強レベルの二人です。

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