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67. 度会聖奈の焦燥

その頃、彼女は――

「どういうことなの……もう訳わかんないっ!」


 もう何度目か。

 部屋で一人になって、あたしはまた叫んでしまう。


 この「異世界」に来て。

 ヨシは、あたしから離れてしまった。


 今回のダンジョン攻略。

 当たり前だけど、すごく危ない。

 そうなったら――ヨシがいなくてやってられる訳がない。


 なのに、平田君は、一人でどんどん話を進めていく。

 相沢さんがことあるごとに言う、「39人」と「40人」。それが「ヨシを入れるか入れないか」だっていうのは、あたしだってわかる。


 あの神殿の中で学校ごっこをしてるうちはよかった。

 けど、こんなとこ――ダンジョンの前の砦なんてとこまで来て、これから攻め込んでいこうってときに、ヨシを外したままとか、絶対あり得ない。


 なのに、一昨日、ヨシは、なんとか中隊の方に混じっていた。

 そっち側で、あたしたちと一緒に来るのかな――なんて思っていたら。


 相沢さんは、槍で平田君を殴ったあげく、刃を首に突きつけた。

 仙道君も、真剣を中隊長に突きつけて「由真をこっちがわに移せ」って言った。

 あげく、桂木さんが、ヨシに抱きついて「あたしは、由真ちゃんのそばにいる!」なんて叫んだ。


 SクラスとAクラスの班。

 うちのクラスの主力部隊。

 そのうち3人が――「由真ちゃん」の側に行ってしまった。


 次の日――昨日。


 平田君が呼びかけて、ホームルームが開かれた。

 議題は、あたしたちが空中分解しちゃったから、体制を立て直さないといけない、っていう件。


 C3班の女子6人が遅刻して始まったその会。

 毛利が相沢さんを責めて、相沢さんは冷淡そのものの反応。


 そこに遅れてやってきたC3班の子たちは――ヨシを連れてきた。


「あたしたちは、由真ちゃんに護衛を依頼することにしました!」


 島倉さんが平田君に宣言したその言葉。

 C3班の子たち――うちのクラスの女子10人のうち6人。彼女たちがみんな、ヨシを「護衛」につけた。


「あたしたちを殺そうとする人は、由真ちゃんに返り討ちにしてもらう。目には目を、歯には歯を。殺すつもりなら、由真ちゃんに殺してもらう」


 七戸さんが――平田君をにらみつけたまま――そう言い切った。

 あたしですら、平田君がモールソ神官と組んでC3の子たちを殺そうとしたんじゃないか――って一瞬疑った。


 その日の夕方。


 平田君は、モールソ神官をつれてみんなを集めた。


 相沢さんと桂木さんが、荷物を入れてるスーツケースを持ってきていた。

 あたしは、それに気づいてしまった。この二人が、部屋から出て行く準備をしている――つまり、追い出される覚悟を決めてる、ってことに。


 モールソ神官は、水晶玉越しにアルヴィノ王子のメッセージを伝えた。

 本物の王子様のそのメッセージは、とても逆らえないくらい力強かった。


 これなら、相沢さんだって、桂木さんだって、七戸さんと島倉さんだって、そして誰より――ヨシだって、喧嘩なんか止めるんじゃないか。


 そんな期待は――ほんの一瞬で崩れた。


 モールソ神官は、相沢さんたちを個室付きの「主力」から追い出して、七戸さんたちはあたしたちの「仲間」からも追い出した。そして誰より、ヨシを――この砦からも追い出した。

 ヨシは、セレニア神官の知り合いのなんとかいう冒険者ギルドに拾われたらしい。


「なんでよ……なんで、ヨシは、ここから出てっちゃったのよ!」


 どうしても、声に出てしまう。

 神殿は、ヨシをひどくぞんざいに扱ってる。それは仕方ない。


 問題は、ヨシの方だ。

 ヨシは、なんで、そんな扱いを平気で受け入れてるのか。

 ヨシは、なんで、こっち側に戻ろうとしないのか。


 神殿が何をどうしたって、ヨシが本気を出せば簡単にひっくり返る。


 だいたい、あたしたち「40人」がこっちに来てからの成果は――結局、ヨシ一人の手柄だ。

 普通に考えたら、神殿がヨシに頭を下げて、こっち側の主力に入ってもらうべきなのに。

 ヨシが、奴隷同然の扱いを受けてるなら、神殿に待遇を改善させればいいのに。


 今日。

 相沢さん、仙道君、桂木さんが、セレニア神官と冒険者ギルドのリーダーと、合計5人で一緒にダンジョンに入った。

 その「パーティー」は、オーガとゴブリンを退治して、敵のボスのサイクロプスを見つけてきたらしい。


 その成果も――あたしにとってはどうでもいい。

 相沢さん、仙道君、桂木さん、それにセレニア神官。この人たちで「グループ」ができてしまった。

 そこに入った冒険者は、ヨシを拾ったっていうギルドのリーダーらしい。

 つまり、ヨシがいるのは「そっち側」。あたしたち「主力部隊」の側じゃない。


「ヨシがいなくて……勝てる訳ないじゃない!」


 残された「主力部隊」が、あたしの他に、平田君、毛利、嵯峨さん。

 この4人で、ヨシ一人と対決して――勝てるなんて全然思えない。


 毛利なんて、ヨシに簡単に投げ飛ばされた。ヨシは、すっかり遠慮なんてしなくなってる。

 平田君にしても、相沢さんは槍で殺そうとしたくらいだし、セレニア神官だって「光の盾」とかいう技で簡単に制圧できる。


 そんなメンバーが「あっち側」。あたしたちとは違う側になってしまった。


「なんでよ……なんで、ヨシは、ここから出てっちゃったのよ!」


 答えは返ってこない。

 それでも、あたしはそんな声を上げずにはいられなかった。

「もう遅い」。すでにそんな状態になっている。そのことを、彼女も認識はしているものの…

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― 新着の感想 ―
[一言] 素直に頭下げれば受け入れてくれるだろうけど、これまでの付き合いの長さが仇となって言えない感じですかね。 今までは由真くんの方から折れてたようだし。 パシリにされても由真くんが尽くしてた理由…
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