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62. 自壊する集団

由真ちゃんに「考え」がどうこう言ってたのはどうなったのかというと…

「由真ちゃんを敵に回すと、ほんと怖いわ」

「平田君、完全に悪代官。けど、いい気味。やっぱり、さすが由真ちゃん。さすゆま」

 晴美の部屋に戻って、美亜と愛香は笑顔とともに言う。


「でも、ほんと見事に空気が変わったわね。もう、平田君の言うことなんて、B・Cクラスは誰も信じてないでしょ」

「それはそうだよ。ってか、あたしだって、平田君の言うことなんか、これっぽっちも信用できないし」

 晴美と和葉もそんなことを言い合う。


「本当に、ユマさん、策士ですね」

 ユイナすらも、そういって由真に苦笑を向ける。


「まあ、こっちの思惑通りにことが運んで、何よりでした。これでもう、平田君の影響力は『仲間の外』には及ばなくなりました」

 そう言いつつ、由真は苦笑を返した。



「平田をリーダーとする『クラス会』の席上で、『リーダー』の指図で全てが動いていると認識させつつ、『C3班生け贄事件』が『上意により仕組まれた』と説明する」

 それが、由真の献策だった。


 直接的に「平田がC3班を罠にはめた」とは言わない。

 しかし、「平田が皆の『リーダー』として決定権を有している」という「共通認識」を形成しつつ、「C3班が『上の指図』で『罠にはめられた』」と訴えれば、「『リーダー』平田がC3班を罠にはめて殺そうとした」という認識を自然に誘導することができる。


 それにより、C3班と平田の間の亀裂は決定的になる。加えて、晴美・仙道・和葉と平田たちの共闘も不可能になる。


 本来なら、「ダンジョン攻略」を前に避けるべき事態。

 しかし、神殿側が「不要人員切り捨て」という手段に及び、平田はそれに乗せられたままという現状では、もはや「2年F組」という集団の結束など維持不能だった。

 そう割り切れば、内部の分裂を図るのが最も手っ取り早い。


「大丈夫です。エルヴィノ殿下に御意を賜りました。ユマさんも、C3班の皆さんも、ハルミさん、センドウさん、カツラギさんも、アスマ公領にお招きする用意ができています。ここで放り出してもらえば、願ったり叶ったりです」

 ユイナは、満面の笑みとともにそう言った。これで、後顧の憂いもない。


「ま、この部屋からは追い出されると思うけど……これも来週いっぱいまで。頑張りましょう」

「そうだね。うん、あたしも、もう覚悟はできてる」


 晴美と和葉は、そういって笑い合う。

 本来「貴重な戦力」のはずのこの二人が、「勇者様の団」の主力と袂を分かつことを前提にしている。

 その意味を認識できない指導者たちは、自らの戦力の自壊を止められるはずもなかった。



 C3班の面々は、ユイナから引き継ぎを受けて事務作業に入った。他の生徒たちは自室で待機となる。


 夕方になって、モールソ神官が2年F組の「39人」を招集した。由真も、晴美の「従者」として同席している。


「今朝の騒ぎの件、勇者殿から聞かせてもらった」


 その「勇者殿」と並んで壇上に立ち、「39人」を睥睨するモールソ神官。それを見返す生徒たちの目は暗くよどんでいた。


「ダンジョン攻略という一大任務を目前にして、一部の者たちによって諸君の結束が乱れるとは、我々は失望を禁じ得ない」

 そう言葉をつないでも、生徒たちの表情は変わらなかった。


「今回の件、決して遊びではない。カンシア地方にダンジョンが出現するという危機的状況。これは、アルヴィノ殿下のお心を悩ませている遺憾な事態だ。早急に、適切な対処を行わねばならぬ。しかし、異世界『ニホン』の勇者殿一行が、この局面で足並みの乱れを見せている。そのことは、アルヴィノ殿下のお耳にも達した。殿下には、いたくお嘆きになられている」


 モールソ神官が口にした「その名」を聞いて、晴美と和葉は目線をさらに険しくする。

 二人とも、「個室からの追放」を念頭に、自らの荷物はすでにここに持参している。


「ついては……これを見てもらいたい」


 そういって、モールソ神官は水晶玉をかざす。

 次の瞬間、そこに男性の姿が現れた。それは――召還されたあの日見た男、ノーディア王国第一王子アルヴィノ・リンソ・フィン・ノーディアその人だった。


「異世界『ニホン』より招かれし者たちよ」


 水晶玉の中の像が動き、音声が会議室に響く。

 その瞬間、由真は、強い「マ」が襲いかかるのを感じていた。


(これは……洗脳の闇系統魔法か……)


「戦を前に、卿らが乱れていると聞き、私は悲しく思っている。我らは、一月あまりにわたり、卿らに十分な教育を施してきた。我々は、卿らがそれに報いてくれることを大いに期待している。卿らの中に、怖じ気づき団結を乱す者があるというのなら、私は、その者に対して怒りを隠さない」


 蕩々と響くその声とともに浴びせられる「マ」。

 それは、聞く者全ての心を支配し、自らの命に服させようとする「意思」にあふれている。

 この場で、この「マ」に動かされていないのは、晴美、仙道、和葉くらいのものだろう。


 ――と観察している由真自身は、当然ながらこの「マ」に害されてはいない。


「諸君が、勇気をもって、惰弱な枝葉を切り落とし、そして我らの困難を克服してくれることを、私は期待している」

 そんな言葉を残して、水晶玉の中の像は消えた。

張本人、登場です。

この王子様にも、実はこんな能力があったります。


そして、その「御言葉」を受けた彼らは―次回に続きます。

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