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5. 「レベル0、ギフト『ゼロ』」

次のテンプレに進みます。

 女神官が告げた由真(よしまさ)の「ステータス」。その「結果」を受けて、神殿を気まずい沈黙が覆った。


「セレニア……もう一度、申してみよ。その者のギフトは……」

「ですから、ギフトは……『ゼロ』です、司教猊下」

 司教の問いに、女神官セレニアは震える声のまま答えた。


「バカな……異世界より召喚された者は、すべからくギフトを持つはずでは……」

「どういうことだ、ドルカオ?」

 呆然と言葉を漏らした司教に、アルヴィノ王子が問いかける。ドルカオ司教は、いえ、その、などと言葉を濁らせつつ、険しい表情で由真に目を向ける。


「セレニア、そこにいる者は、ギフトがないのだな?」

 ドルカオ司教は、改めてセレニアに問いかける。

「あの……判定器によりますと、彼女のギフトは、『ゼロ』です、司教猊下」

 セレニアが答えると、うむ、とうなずき、ドルカオ司教は顔を上げた。その表情から、先ほどの険は消え去っていた。


「貴公らの『ギフト』と『ステータス』の確認は、これで完了した」

 ドルカオ司教は、そう口を切った。


「本来であれば、貴公らには旅の疲れを癒やし、また時をかけて修行に励んでもらいたい。しかし、我々ノーディア王国は、魔族どもの攻撃に直面し、貴公らの安全を保証し鍛錬に注力してもらうべきいとまもない」

 ドルカオ司教の言葉に、クラスメイトたちの表情は硬くなった。


「よって、先ほど判定された『ギフト』と『ステータス』に基づき、貴公らをもって兵団を編成する。その兵団において、魔族どもの攻撃に対応しつつ、実戦により技量を高めてもらいたい」

 すぐに戦場に出て、実戦において訓練せよ。つい先刻まで平穏な学生生活を送っていた彼らにとって、それは酷な要求のはずだった。


「その、武術の訓練とか、そういうのは受けられないんですか?」

 学級委員長にして「勇者」の平田が問いかける。


「うむ、我らとて、余裕があれば、貴公らに十分な訓練を受けてもらい、その上で戦いに臨んでもらいたいと思っている。しかし、いかんせん敵はあまりに強い」

 ドルカオ司教は、苦渋をあらわにした面持ちで言う。

「幸い、たとえCクラスといえども、ギフトを備えている者は、この世界の人間の上位1割に相当する。まして、『勇者』に値する『聖剣』のギフトを備えた貴殿の如き傑物もいるのだ。ただちに実戦に向かっても、十分対応できるはずだ」

 ドルカオ司教は、そういうと平田の肩を叩く。

「我らは、存亡の危機に直面している。貴殿らの力をもって、悪の者どもを退け、我らを助けてはくれまいか」

 じっと目を見つめて、そう告げるドルカオ司教。対面する平田の目に鋭い光が宿った。


「悪い奴らのせいで、皆さんがそれだけ苦しんでいて、俺たちが力になれる、っていうなら、喜んで協力すべき、だと思います」

 平田の答えに、ドルカオ司教は満足げに頷いた。

「ありがたい。実にありがたい。『異世界ニホン』より召喚された39人、全員が一丸となって我らに協力してもらえるとは。今日は王国史上に残るめでたい日だ!」


「召喚された39人」。司教の言葉の「意味」を、由真はすぐに理解した。


「え? 彼らは40人では……」

 世話役をしていた神官が口を挟むと、司教は彼をきつい目でにらむ。

「異世界より召喚された者はすべからくギフトを備える。故に、今回召喚されたのは、ギフトが正しく判定された39人だ」

 由真の想像通りの言葉が、司教の口から出てきた。


「ギフトのない者が、異世界から召喚されたはずなどない。どこぞの村娘がこの場に紛れ込んでいたのであろう。すぐにつまみだし、森の中に返してやれ!」

 由真が推測したとおりの論理だった。司教のその命令を受け、兵士たちが8人進み出て、由真に群がり身体をねじ伏せる。


(これで、僕の人生は終わりか)

 兵士たちに押さえつけられた由真の心には、動揺はなかった。

(こんな身体で、ろくな抵抗もできないで死ぬのは、不本意だったけど……)

 つい先刻までいた「日本」。その世界の「男子」としての由真は、多少なりとも心身を鍛え、自らを守るための「戦い」に臨む備えも持っていた。

 しかし、今現在、この世界の由真は「女子」になっていた。膂力も体力も失われたこの「女子」の身体では、ゴブリン辺りの餌として忽ちに捕食されてしまう。

 森の中であっても。ゴブリンどもが相手でも。せめて「己の実力」で戦うことが許されたなら――

主人公、いきなりピンチですが……


追記

この部分の「すべからく」2箇所について、誤字報告をいただきました。

「すべからく」は「べき」で受けるのが正しい用法であることは、当方も承知をしております。

地の文であれば、その通りに修正いたします。

ただ、ここについては、「」でくくられた登場人物の台詞で、ここでは、この人物が短慮の上に強引にことを運ぼうとしていることを示すため、あえて破格構文としています。

お含み置き賜れば幸いです。

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