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50. 異世界の車窓から

異世界の列車に乗って、いざ出発です。

 鉄道があり列車がある以上、発着する列車に乗り降りするための駅もある。

 神殿に隣接する「ベルシア駅」。2年F組の面々は、この駅を8時半に発つ急行列車に乗ることになった。


 神殿の居住区画から宿泊区画に進み、さらにそこから数分歩いた先に、「ベルシア駅神殿口」と記された看板が掲げられていた。

 日本ではすでに廃れた有人改札口に、昨日渡された券面を見せて中に入る。


 ホームは島式2面4線。二つあるホームのうち西よりの方に進む。

 やってきた急行列車は、電気機関車が牽引する客車8両という編成だった。

 最後尾以外の7両は「2階建て」構造で、2階が「二等室」で1階が「三等室」。そして最後尾は「一等車」だった。


 Sクラス・Aクラスが一等車、Bクラス以下は二等室に乗る。

 そして、由真だけは、神殿側が用意した三等輸送券により三等室に乗ることになった。


 台車上の平屋部分に設けられた扉から乗車する。

 デッキから上下に階段が伸び、降りた先に三等室がある。

 座席は狭苦しいクロスシートだった。地球の飛行機のエコノミークラス程度の専有面積で、通路を挟んで3人掛けと3人掛けが並んでいる。

 ドルカナまではおよそ2時間半。幸い座ることができたので、由真はダンジョン攻略記録が集積された本を読むことにした。



 最後尾の一等車は、回転式のソファが両窓側に一つずつ、左右合計12席並んでいる。

 こちらは、Sクラス・Aクラスの7人と引率役のモールソ神官により、事実上の貸し切りとなっていた。


 窓外は、なだらかな地形に背の低い草原が広がり、遠くに時折森が現れる。

 ヨーロッパの田園風景――のように、晴美には見えた。


 車内には客室乗務員が定期的に巡回し、頼めば茶菓の給仕を受けることができる。

 出てくる飲み物は、この世界に来て初めて口にする「紅茶」だった。


「これ、飛行機のサービスだと思えばいいのかしら?」

 晴美は、隣に座る仙道に向けてつぶやく。

「ユイナさんもいないし、居心地が悪いだけね」

 仙道は、そうだな、とだけ答える。ユイナは、32人の引率ということで二等車に乗っている。

「正直……不安しかないわね」

「ああ、まともな戦いになったら、対応できる自信はない」

 晴美がこぼすと、仙道も同意する。二人とも、表情を緩めることができない。


 周囲を見る。


 平田は高揚した面持ちで窓外を見やり、毛利は両脚を開いて傲然と座っている。

 度会聖奈は紅茶をすすりながら外を眺め、嵯峨恵令奈もけだるげに外に目を向けていた。

 残り一人、桂木和葉は、発車直後からすやすやと寝息を立てていた。


(現地でパニックにならないといいんだけど)


 こみ上げる不安を抑えきれず、晴美は、何度目かのため息をついた。



 2時間半の旅の後、急行列車は11時にドルカナ駅に到着した。


 Sクラス・Aクラスの7人は、一等車から下車すると、一人一台用意された馬車に分乗して、モールソ神官とともに領主の屋敷に向かわされた。

 城郭に入ってただちに通された先で待ち構えていたのは、ドルカオ司教と面影の通じる男だった。


「ドルカオ方伯閣下には御機嫌麗しく。こたび、ダンジョン討伐の依頼を受け、精鋭の勇者殿率いる部隊が、こうして馳せ参じました」

 モールソ神官は、恭しくその相手――ドルカオ方伯に挨拶する。


「こちらが、団を率いるヒラタ騎士殿。レベル60近くという英才でございます」

 最初に紹介されたのは平田だった。「団」――学級を「率いる」立場の「学級委員長」である以上、いちいち異を唱える必要もない。


「そうか。私がドルカオ方伯マニコである。勇者殿以下、よく来られた」

 相手は鷹揚に応える。


(ああ、そういえば、弟氏を軽く痛めつけた件、伝わってるかしら?)

 そう思ったものの、相手はそのことに触れる気配を示さなかった。

(さすがに恥はさらさないか)

 晴美がそう思い直しているうちに、彼らは食堂に連れられた。


 晴美たちに提供された昼食。


 飲み物はワイン。神殿のそれより甘みが抑えられたそれは、おそらく高級品の部類なのだろう。

 スープは、具材は少ないものの、その味付けは精妙だった。

 メインは、脂ののった牛肉のステーキ。香辛料のきいたソースにハーブまで添えられている。

 そして、食後には「デザート」としてリンゴのタルトと紅茶まで用意された。


 神殿の普段の食事よりもさらに豪華なそれ。ドルカオ方伯の「おもてなし」は盛大だった。


 とはいえ、相手がドルカオ方伯であることを考えたり、Bクラス以下のクラスメイトたちの待遇に思いをはせたりしていると、とても味わう余裕などなかった。


 昼食会を終えると、晴美たちは再び馬車に分乗して駅に向かう。待っていたのは、客車3両に貨車が4両連なった列車だった。客車と貨車が連結された列車を見るのは、晴美は初めてだった。


 馬車から降りてふと目を向けると、2両目と3両目はすでに乗客で埋まっていた。

 その「2両目」に乗っていたのは――2年F組のクラスメイトたちだった。


「ちょっと、なにこれ……」

「これは、『団結』どころか『対立』だな……」

 晴美が漏らした言葉に応えたのは、ちょうど馬車を降りた仙道だった。他の5人は、状況を認識した様子もない。


「もう、取り返しつかないかもね」

 その言葉に、仙道は、ああ、とだけ答えた。

肝心な車窓が2行しかないという…


鉄道の2階建て車両は、19世紀の後半にはすでにあったそうです。


そして、久々の異世界メシ、今回は貴族編です。


スープに具材が入っていないのは、ブイヨンをことこと煮込んであるから。

香辛料などをふんだんに使うのも、貴族の招宴なら当たり前。

タルトも中世からありました。使われていた果物は、リンゴやイチゴなどです。

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